見出し画像

【ココロコラム】セルフ・サマライジング

精神科医をしていると、夫婦喧嘩や親子喧嘩など、言い争いをよく耳にする機会があります。誰でも争いごとはあるにしても、「これはよけいにもめるな」と感じてしまう表現があります。たとえば、次のようなものです。

「また連絡くれなかったのね。どうせ私のことなんか全然考えてくれていないでしょ!」
「なんだ、そのやる気のない態度は! 早く終わりにしたいと思っているだろう」
この二つの例を見てみると、「こういう言い方をすると、よけいに腹が立つ」と思うでしょう。

これらの表現は、事実上相手を「そんなことありません」と平謝りさせるか、「じゃあ、あなたのほうはどうなんだ」と、発言者に対して攻撃を始めるかに限定させてしまっています。どちらにしても言われた方は、普通の言い方に比べて、非常に腹が立ちます。

この二つの表現に共通するのは、質問の中にあらかじめ話の結論が入ってしまっていることです。最初の例では「私のことを考えていない」。二番目の例なら 「早く終わりにしたい」です。このように、話の内容や結論を、発言している人が自分でまとめてしまうことを、【セルフ・サマライジング】といいます。

【セルフ・サマライジング】の何がいけないかというと、コミュニケーションを拒絶した言い方になってしまっている点です。本来、会話というのはお互いの意見を聞きあって成り立っていくものです。ところが、【セルフ・サマライジング】をしてしまうと、自分のほうで結論を言ってしまっています。これでは、会話は成立しません。事実上相手の言い分は聞かないで、自分の意見を押しつけることになります。これが、聞く側にかなりの不快感を与えたり、傷つけてしまうのです。

そんな言い方はしないと思っている人もいるでしょう。ところが、そういう人でも怒っているときになると、けっこうこの種の表現が現れてしまうものです。怒っているときほど、心のどこかで冷静さを保ちたいものです。

また、得意ジャンルの話ほど、【セルフ・サマライジング】してしまいがちなことも覚えておきましょう。「○○のバッグを買った」と言われて、自分も同じブランドのものを持っている場合、「あら、○○は私も持っている。○○の商品がいいのよね」などと、いつのまにか会話の主導権を握ったりしてしまう。あるいは相手が何かについて熱く語っているさなかに「それって要はこういうことだよね」などと、まとめてしまう。いずれにしても、相手のほうは話の腰を折られてしまい、「もっと話したかったのに」というフラストレーションがたまります。

得意ジャンルに限らず、上司と部下、親と子、先輩と後輩のように、上下関係ができているときにも要注意です。これも立場が上の人が、下の人の言い分を【セルフ・サマライジング】してしまうことがよくあります。

【セルフ・サマライジング】を防ぐには、会話は相手の話をきちんと聞くことが、半分を占めていることを忘れないようにしましょう。相手が話しているとき、充分聞くことはもちろん、自分が話しているときも、聞いている相手がいて、相手にもいろいろな言い分があることを意識したいものです。

(精神科医・西村鋭介)

お読みになって面白いと思ったり、参考になったら下記からサポートをお願いいたします。 サポートでご支援いただいた収益につきましては、今後の記事の執筆料や運営費に充当させていただきます。