だが断る

【ココロコラム】厄介なお願いをすんなり断るテクニック

世の中、自分と合う人、合わない人、それぞれです。人付き合いにおいて、一番厄介なのが「断る」こと。
行きたくない飲み会や、やりたくない残業など、さまざまな「断りたい」ことがあるはずです。

しかし、一般的にそう簡単には断れないもの。内向的な人ならなおさらです。安請け合いばかりして、上手に断ることができないと、知らず知らずのうちにストレスがたまってしまいます。今回は相手に嫌な印象を与えず、すんなり断るテクニックについてお話しします。

大切なのは「その場で断る」ということです。セールスのテクニックに【ローボールテクニック】というのがあります。一見抵抗の低いことから入って、最終的に大きな要求を飲ませる技法のことです。読者の方々もショップなどで経験があると思います。

買う気がなさそうでも、試着してもらう。そして「お似合いですね」などと、その服についての話をします。すると、客側は「試着した」とか「話を聞いた」というようなことが心理的負い目になり、ついつい買ってしまうことになりがちなのです。

これは、セールスに限らず、どんな場でも広く使われているテクニックです。「ちょっとやっておいて」と言われれば、抵抗感が少ないですから、つい引き受けてしまう。そしていつのまにか「ちょっと」が積み重なり、大きなことを頼まれても断りにくくなってしまうのです。

これを防ぐには、最初の「ちょっと」の段階で、できないことは「できません」と言うことが必要です。「考えさせてください」とか「スケジュールを確認してから」というのはダメです。その場で即座に断らないと、断りにくくなります。

こう言うと「断ってばかりでは相手に悪いし、イヤな印象を与えるのでは?」と思う方が少なくありません。これは心配無用です。各種心理統計でも、日本人は自己主張がうまくできない傾向にあることが指摘されています。それが端的に現れているのが「断る」ことなのです。概してみんな断り下手。その結果「自分だけ過重な負担を強いられている」と思っている人が多いのです。やる必要のないことは、もっと気軽に断ってかまいません。ストレスを生まないためには、断ることに対する心理的抵抗をなくすことが非常に大切です。

断る際、相手の印象を悪くしないためには、一つのテクニックがあります。それは「自分以外の原因のせいにする」ということです。具体的なフレーズとしては「先約がある」「親がらみの用事がある」「上司からそう言われている」「彼氏がいる」などがあります。こういうセリフを言っておけば、相手は「本当はやる気があるけど、しかたがない事情がある」と解釈してくれます。頭ごなしに断っていたのでは、相手は自分の人格を否定されたように感じてしまいます。

それを防ぐためには、具体的な理由を必ず添えるよう心がけましょう。断りに説得力が生まれます。ただし、注意したいのは、「残念ですが」や「また誘ってください」などの、「本当は断りたくないのですが」という意味の言葉を自分から言ってはいけないということです。そういうことを言ってしまうと、また次の機会に頼まれてしまうからです。

頼みごとをすべて引き受けるのは「いい人」ではあります。しかしそれは他人から見れば「都合のいい人」かもしれません。自分を軽く見られないためにも、適度に自己主張ができるようになるためにも、角の立たない断り方は身につけておいて損はありません。「その場で、理由をつけて断る」。これを意識しているだけで、やりたくないことに巻き込まれる可能性がぐっと減ってくるはずです。

(精神科医・西村鋭介)


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