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【お墓探しの旅】#1 こころの余裕と香りのないテスター

父が亡くなって、2カ月足らず。お墓探しの旅に出る前日、部屋のフレグランスを買いに行くことにした。どうやら、わたしの心にも余裕が出てきたようだ。

フランスとイギリスのフレグランスオイルを扱っている専門店。特別目当てのものがあったわけではなかったが、フレグランスの専門店に当てもなく入るなんで、それだけで気分が良い。リビングに合いそうなグリーンティの香りのフレグランスオイルを1つ買って、いくつか気に入った香りを名刺サイズのテスター用紙に沁み込ませて帰った。

そして翌日。いよいよお墓探しの旅が始まる。

父の大好きな富士山が見えるというお墓。縁のない土地ではあったが、パンフレットに掲載されていた富士山の写真は、「ここが第一候補!」と言わせるだけの絶景だった。

当日、お墓を案内してくれたのはしんみょうさんという、神妙なお名前の方。腰が低い様子で、丁寧に名刺を手渡してくれた。ビジネスマナーに慣れていないわたしは「頂戴します」と一言添えて、頂いた名刺をバッグのポケットにそっとしまい込んだ。

朝方まで雨が降っていたのに、お墓の見学の時間になったらパッと晴れ間が射した。富士山こそ見えなかったが、お墓らしからぬ解放感がある霊苑を、姉もわたしも一目で気に入った。

近年の主流だという洋風のお墓はおどろおどろしさがない。名前と一緒に故人にゆかりのあるイラストだったり、思い思いのメッセージが添えられている。墓石に掘られた文字もカラフルで姉もわたしも「かわいい~」「おもしろいね」なんて話しながら墓石の間を進んだ。

分厚い雨雲から差し込んだ太陽に後押しされて、見学して1時間も経たないうちにお墓の契約をすることにした。契約を終えて、大仕事を終えた気分に浸る。


バッグには昨日のフレグランスのサンプルが入っている。

なんとなくその香りを嗅ぎたくなってテスターを鼻まで持ってくる。

どういうわけか無臭。

わたしが手に持っていたのはしんみょうさんの名刺だった。


お墓探しの旅、つづく。


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