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【読書記録】『平安貴族とは何か』を読んで考えたこと

倉本一宏さんの『平安貴族とは何か 三つの日記で読む実像』を読みました。


読みやすい

この本は、とにかく読みやすかったです。
なんでこんなにすらすら読めるんだろう、と思ったら、ラジオ番組として放送されたものの文字起こし本だったんですね。そりゃ読みやすいわ。

なので、『御堂関白記』『権記』『小右記』には手が出ないけど、気になる……という程度の、私のようなライトな読者向きの本でした。

写真もあり、特に原本が残っている『御堂関白記』の写真は、必見です。実物なんてそうそう見れませんからね。

道長って、やんちゃ坊主だった?

『御堂関白記』は、道長直筆の原本が残っているという、もうそれだけで貴重すぎるよ! と思ってしまうんですが、残念ながら全部は残っていないんですね。子孫が分割管理してしまったので。
それでも、残っている原本から、道長の人となりがわかるので、読んでてすごく面白かったです。

NHK大河『光る君へ』の道長は、ちょっと抜けてるけど真面目な末っ子(実はしたたか)という感じですが。
『御堂関白記』からうかがえる道長もそれに近いというか、合理的で細かいことは気にしない、愛すべきやんちゃな五男坊という印象を持ちました。

ずるいですね。
ちょっと道長にも、人たらし要素なくない?
てか、権力握る人には、人たらし要素は不可欠とも言えますが。

この本を読み終わって、三人の中で一番面白い人物は道長じゃんってなってしまう恐ろしさよ。
でも全頁の半分以上が『御堂関白記』だしな。ずるいな。でも面白いしな。

行成は我々の中にいる

『権記』を書いた藤原行成は、線の細そうな青年という印象(大河の)だったんですが、実際、無茶苦茶薄幸の人だったんですね。
家柄もよく有能だったのに、祖父と父親が早逝したため出世が遅れ、有能すぎて蔵人頭から上に上がれず(天皇が側近として使いたがったから)、子を亡くし、妻にも先立たれ、ゆえに浄土信仰(阿弥陀如来信仰)に進んでゆく。

なんだろう、ここまで絵にかいたような薄幸の王子様(藤原氏だけど)、道長を太陽に例えるなら(本人は望月派だけど)行成は月(というか月見草)、歴史が配置するかよ、おい、という感じです。
行成は、出世のために道長に尽くして尽くして、なんか裏切られるらしいし。哀れすぎる。

そんな、がんばれ行成! なんですけど、表では平静を装いつつ、夢の中では暴力性をあらわにしている……ということで、思わず引いてしまいました。え? 行成、サイコパスだった?

いやいや、早合点はいかん。そう、行成な普通の人なんよ、精神的には。
誰だって、頑張りが報われなかったら悔しいし、それでも何とか這い上がろうと努力するじゃん。腹が立つ上司におべっか使ったりもするじゃん。その裏で、愚痴をこぼしたりもするじゃん。
夢の中で、自分に悪さをする奴を踏みつけたとしても、実際に暴力に及ぶことはなく、普段は温厚な行成君を保ってるんだから。

行成は我々の中にいる。と言うのもちょっとおこがましい気はしますが、彼の苦悩がわかりすぎるくらいわかるので、暴挙に訴えなかったことは賞賛したいと思いました。

『小右記』の史料価値は高いけど

で、みんな大好き藤原実資の『小右記』です。
もう実資と言えば、ロバート秋山さんのお顔しか出てこないです。北条高時=片岡鶴太郎さん以来かもしれない。

なんですけど、実資って真面目実直で信頼できる男のはずなのに、なぜか『小右記』の解説を読んでいても、ああ、真面目なんだな、としか思えないんですね。

歴史史料としての価値が高いのはわかるし、道長が書かなかったことも実資が書いてくれたからわかる、という部分があるし、読んでいけば「こんなことも書かれてる!」となるのは、絶対わかる。わかるし、一緒に働くなら実資だなとも思っているけど。

なんだろう。
人間としての面白味は、道長の方が圧倒的に高いんだよなあ。

倉本一宏先生は、実資に面白味を見出されているので、いやはや素人の人物眼なんてその程度のものよ、ということなんでしょうけど。
実資、まともな人だけど、能力値高すぎて、ちょっと怖くない?

日記は人

政府公式が記録を残すのをやめた以上、日記が我が国の歴史を知る上で一級史料となるわけですが、それでも書いた人の人柄に目がいっちゃいますね。
てか、史料として読む上でも、誰がどういう意図で書いたかって重要なので、人柄は見ざるを得ないし。

本人たちは、子孫の役に立つことを考えて書いてたわけで、まさか1000年度に真面目過ぎるとかサイコパスとか言われるとは思ってもなかったろうけれど、まあ我々が何をどう思っても、その風評被害は彼らには届かないからね。

ただ、単なる史料としてではなく、書いた人ひとりひとりに向き合いながら、ちゃんと彼らの日記が読めたらいいな(願望)とは思うのでした。
まあ、長い『小右記』を読み通す自信はないんですがね。


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