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【読書記録】山本淳子さんの『私が源氏物語を書いたわけ 紫式部ひとり語り』を読んだ話。

山本淳子さんの『私が源氏物語を書いたわけ 紫式部ひとり語り』を読みました。

この本は、紫式部の一人称で書かれた歴史物語です。
基本的に歴史的事実に沿っているというか、文献に残っていることを参照しつつ進む物語なので、小説とは違う気がします。
曖昧な部分をどう書くか、という点で、著者が文献をどう解釈しているかにポイントが置かれており、挑戦的な創作に走っておられるわけではありません。
なので、紫式部の史実に近い人生を知る本として、とても興味深く読めました。

NHK大河『光る君へ』のネタバレは、いっぱい踏んじゃいますけどね。
為時パパのこれからの苦難とか、紫式部自身の結婚・就職とか。
(この記事にも、ネタバレ踏んでるところがありますので、ご了承ください)

また『紫式部日記』などの原文(と現代語訳)も時々引用されているので、そちらも味わえます。原文と訳を比較しつつ読んでいると、なんとなく理解できた気になってくるので、学習した気分も。


人間の感情はいつの時代も同じ

この本を読んでいると、人間の感情って1000年を経ても変わらないというのをすごく感じます。まあ、現代人が書いているから、そうなのかもしれませんが。
自由や人権といった概念がなくても、人生が思うようにいかなかったり、大切な人との別れが辛かったり、思うようにならないことに苛立ったり、そういう気持ちは同じ。

他の人と仲良くしたいけれど、幼少期から集団生活をしてきていない平安朝の少女たちは、仲良くするすべを知らず、それで孤立したり。
対人スキルがついてきたら、今度は集団でいじめる側に回ったり。
悪の凡庸さも、時代を問わず、ですね。

だからこそ、同じ人間として読むことができるし、紫式部の肩を叩いてやりたくもなるのです。

清少納言先輩の風評被害?

中宮彰子に仕える紫式部ですが、源氏物語の作者として鳴り物入りで来たために、同僚たちからちょっと距離を置かれます。
「教養の高い人ってめんどくさそう」みたいな印象を、みんな先入観として持っていたっぽいんですね。それで苦労するんですが。

でもそれって、清少納言先輩の風評被害では?
『光る君へ』の彼女を見た後だと、そう思いません?

中宮定子はライバルだけど、教養高い主人とそのお気に入りというハイクラスサロンの噂は、当然宮中に流れてただろうし、その会話に入っていけない人たちからしてみれば「気取っていてめんどくさい人たち」と悪態をつきたくなっても、まあ仕方ないかなと。

そんな教養派がうちの職場に来るの? となったら、警戒するよねえ、当然。
実際、清少納言とつき合える人って、まあ厳選メンバーだったろうし、正直言ってやっぱり怖いですよ、目の前にいたら。

紫式部が日記で彼女のことを悪く言ったのって、主人のライバル一派というのは当然あったろうけど、個人的な風評被害の恨みもあったんじゃないかと……後世の目で見るとそうも読めるんですよね。

中宮彰子も生きた人間

この本の中でとにかく好感度が上がったのが、中宮彰子(藤原彰子)。
一条天皇の后の中で、定子に比べ影の薄い彰子ですが、この本を読むと「彼女も生きていた人間!」というのをすごく感じました。

例えば、皆に内緒で紫式部に漢学を教わろうとしたり!
いや、ちょっとマジで、愛しすぎない?
振り返ってくれない帝に近づこうと、帝の好きな漢学を内緒で学ぼうとか。(女に漢学は不要! とされた時代だから)

他にも、父・道長の独断に腹を立てて、中宮として自立した人間として、自分で考えて差配したり。
道長のお人形さんみたいなイメージ持っていたので、すっかり彰子が好きになりました。

髭黒の右大将の、人としての信用失墜

この本は紫式部の人生を書いた物語なので、当然、『源氏物語』を書くくだりもあります。
で、『源氏物語』と言えば、出てくる男君がことごとくダメ男として描かれます。
その中でも異色なのが、髭黒の右大将。源氏の養女・玉鬘を強引に妻にしてしまう男ですね。

本編を読んでいると、髭黒って不器用で無骨な真面目君かと思ってたんですよ。嫡妻はメンタル病んでたし。
奴は玉鬘を妻にするまで、嫡妻のほかに妾を持っていなかったので、家族を大切にしてる男かと思ってたんですね。

ああ……勘違いだったのか。
単に、恋の駆け引きをするのが面倒で、だから性欲の処理はパワハラでセクハラできる女房(侍女)を相手にし、駆け引きが面倒だから玉鬘も強引にレイプし、若くて美人な玉鬘が手に入ったら、もう性欲処理係の部下は不要と切り捨てたのか……。

最低の男じゃんか。
ほんっとうに平安京の貴族の男どもは、クソばかりだな。

おわりに

過去の人の生きざまを知るというのは、その中に自分との共通点を見出したり、自分とは違う他者目線を想像できたり、そういう面でとても重要なことだと思います。
だから、歴史や物語を読む必要があるし、それらが我々の生きる道しるべにもなってくれる。文学はムダなんかじゃないんですね。

『源氏物語』も紫式部も、知れば知るほど面白いので、今年はもっといろいろな平安朝に接してみたいと思います。(これからも関連本はいろいろ出るだろうし)
ありがとうございました。

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