見出し画像

モリス・バーマン氏の『神経症的な美しさ』を読んで考えた、日本人であるということ。

モリス・バーマンさんの『神経症的な美しさ アウトサイダーがみた日本』を読んだ話をします。

外国の方による日本人論の本ですね。
モリス・バーマンさんは日本に肯定的な視線を向けてくださってますが、それでもダメなものはダメと線引きも怠らない、そういう姿勢がとてもまっとうな方だなと思います。

日本人の特徴

この本を読んでいると、日本人の特徴すべてが、禅の思考を何らかのかたちで引きずっているんだなと思われます。
すなわち、

・今しか見ていない(永続的現在性という禅の視点)
・歴史に向き合えない(永続的現在しかないから)
・倫理観がなく権威者が決めた善に従う(禅の修行に倫理的思想はない)
・集団依存的で責任を取らない(これは『甘えの構造』ですね)

と書くと、めっちゃマイナスなことばっかりやん、という気がしてきますが、アメリカの若者が精神病み続けてる中、東洋の禅に救いを求めてる、そういうことなんでしょうよ。
現代の日本の若者が病み続けてるのも、アメリカの新自由主義的資本主義を導入したからなんじゃないの? 周回遅れで回ってるだけなんじゃないの? そこですよ。

もちろんバーマン氏も、日本の特徴が行き過ぎるとファシズムになることはわかってらっしゃいます。そこは釘を刺してる。
何ごとも「行き過ぎはまずい」のであって、自由と民主主義はもちろん大事。
ただ、アメリカを無批判で受け入れる前に、日本人の伝統も見直そうよ……ということですかね。(日本人すごい! の論調にだけはしたくない)

ペリーがもたらしたもの

バーマン氏は、日本がおかしくなった発端に、1853年のペリー来航があると指摘します。
あれが日本の近代化の夜明けですからね。
欧州が300年以上かけて成し遂げた近代化を、日本はわずか一世代のうちにやってしまった。その急激な変化がもたらした矛盾が、今に至る日本に及ぼした影響の大きさよ……。

ペリー以後の歴史をまとめると、

ペリーに脅された。
→アメリカ流の近代化に追い付く。(近代化とは植民地を持つ帝国化だと認識したため、軍国化工業化のほか、周辺諸国を侵略、現地住民を迫害する)
→非白人の近代国家は不要と外され、脅される。(人種差別か……)
→開戦。
→民族殲滅されかかって敗戦。
→アメリカの犬と化す。

私は、開戦を仕方ないとは言いません。工業製品の原材料を産出できない国である自覚は持つべきだし、だったら外国を攻めとればいいという発想も安直すぎる。世間知らずも甚だしい。
その上、現在に至っても、過去の歴史と向き合えていないから、アメリカの市街地への原爆投下や絨毯爆撃を批難できない。
戦後80年になろうかという今も、アメリカの言うがまま。犬。

日本人がやらかした差別や虐殺・弾圧を、しんどくても受け止める必要があると、本当に思うんですよ。
そこを乗り越えないと、アメリカがやらかした日本人殲滅攻撃って批判できないじゃん。どの口が言う? と言われて終わるやん?
うちらも悪かった。申し訳なかった。しかし過去170年のアメリカさんも、うちらにやらかしてくれたよな。民間人殲滅は非人道的行為だよな? と。

勝てば官軍、なんてことを、国際紛争で前例としちゃいけなかった。
原爆が多くのアメリカ兵の命を救った、というのは欺瞞だった。
単に、核を使う心のハードルが低かった。(有色人種だから?)

日本人がマッカーサーに見た幻想って、なんだったんでしょうね。
GHQに配する批判を一切封じたマッカーサー。これで民主主義の伝道者面するんですから、いやはや。赤子かよ、日本人は。

日本に対してもアメリカに対しても、ダメなものはダメと言う、バーマン氏の姿勢は素晴らしいです。

脱資本主義の持続可能な社会は、徳川時代

バーマン氏は、アメリカに対し「破滅と資本主義の間に腰かけている」と言い、日本は「伝統と資本主義の間に腰かけている」とします。

大量生産大量消費の資本主義は、この先行き詰る。
だから持続可能な社会を模索するとしたら、リサイクルの仕組みが成り立っていた日本の徳川時代こそが、これからのモデル社会ではないのかと。
つまり前近代ですが、でも江戸の街って、当時としても世界有数の大都市で、人々の生活水準も高かったんだよう……という話。

個人的に、地球の資源を食い潰して、子どもたちに世界を残せないのであれば、脱資本主義もやむなしだと思います。実際、物価高でモノが買えないから、消費意欲もないしね。
ただ迷うところで、日本だけが脱資本主義しても他がそうでなければ地球は破滅するし、円安が進めば子どもたちは食料を買い負けするようになる。
日本も経済発展しないとまずいんじゃなかろうか、という思いは常にある。
あるけど、今日日のように地球温暖化(灼熱化)を肌で感じる気候が続けば、そんなんいうてる間に全滅やんとも思う。

徳川幕府の時代って階級社会で、一部の特権階級が多くの庶民を虐げる社会だったから、そういうのは良くない。
モノを大切にするところとか、足るを知るところとか、そういう部分は、精神衛生上有用なんじゃないかと思うわけです。
物欲は、際限ないから。

おわりに

我々はどうしたって日本人で、些細なことにも禅思考の影響を受けています。
今しか見ていないから、必要なことが見えていなかったり、逆に見えていないから心の平穏を保ててたりする場合もあります。
特徴には、長所も短所もあり、それらは表裏一体。
バランスよくつきあうことで、いい社会をつくっていけるのかもなあ……と、そこは感じました。

この本は400頁ものの本で、しかも出してるところが慶応大学出版会だから、さぞや小難しい文章だろうと思いきや、全然そんなことはなく(京都学派の章は???だったけど)、良い読書体験となりました。
高い本だからなかなか手が出ないかもしれないけど、図書館でお取り寄せしてご一読いただけましたら幸いです。
私は、目から鱗な読書ができました。
ありがとうございました。

この記事が参加している募集

#読書感想文

189,460件

よろしければサポートをお願いします。いただきましたサポートは、私と二人の家族の活動費用にあてさせていただきます。