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[本のおはなしvol.6 ] 「オーケストラの105人」「105にんのすてきなしごと」


木曜午後のおはなしと子守唄の時間、「本のおはなし」早いもので6回目。今回は扇谷一穂選書の『オーケストラの105人』について。

私がこの本に出会ったのは、確か学生時代。青山にある絵本のお店、
クレヨンハウスでふと手に取ったのがはじまりです。

オーケストラの演奏についてや、曲目についての絵本はきっとたくさんあるけれど、この本が描いているのは主に演奏が始まる前のこと。
オーケストラの演奏が始まる前のバックヤード、舞台裏を描いている本なのです。オーケストラ団員のひとりひとりが、どんな風に身支度を整えて、誰に「行ってきます」と言って家を出るのか、そしてどんな荷物を持ってどうやってコンサート会場までやってくるのか。そんなことが事細かに描かれています。

どのくらい事細かに描かれているかと言うと、例えばどんな種類の下着をどうやって身につけるのかとか、様々な種類の靴下の説明、そして靴下の柄まで!

一見音楽とは関係のない日々の生活の細かい事柄を積み重ねて、一人の人がオーケストラ団員へと変わっていく。きっと、その過程のどこかで舞台へのスイッチが入るのだろうなあ。本番へのスイッチ。日常生活から非日常への切り替え。普通の人がオーケストラのメンバーになっていく過程。逆にいえば、オーケストラの夢のような素晴らしい音楽を生み出しているのは、生活者である普通の人。ということも伝わってきます。

「本のおはなし」では翻訳についての話もしました。原題は、『The Philharmonic Gets Dressed』日本では、1985年に『オーケストラの105人』としてすえもりブックスから出版されたこの本は、現在は『105にんのすてきなしごと』として改訳され、あすなろ書房から出版されています。

どこがどんな風に変わったのかと言うと、まずタイトルからも分かるように、『105にんのすてきなしごと』では、絵本の後半になるまでこの人たちの仕事が何であるかは明言されず、最後のシーンで種明かしがあるような構成になっているのです。翻訳で、物語にクライマックスを作ることが出来るのだなと、二つを読み比べることによって感じます。

対象年齢も違うようで『オーケストラの105人』は漢字表記(ルビも一部あり)がありますが、『105にんのすてきなしごと』は全てひらがな。時代の変化も考えてのことか、言葉の選びかたもやさしくまるくなっているように感じます。

金曜日の夜です。
そとは だんだん 暗くなり そして
だんだん 寒くなってきます。
(『オーケストラの105人』冒頭)

きんようびの ゆうがたです。
そとは だんだん くらくなり、
ぐんぐん さむく なっていきます。
(『105にんのすてきなしごと』冒頭)

ーーー

おふろのなかで 本をよむ 男のひともいて
猫が 見ています。
(『オーケストラの105人』)

ねこが みている まえで、のんびりと
ほんを よむ おとこのひとも います。
(『105にんのすてきなしごと』)

ーーー

金曜日の夜 8時30分
105人の 男のひとと 女のひとは
黒と白の 服をきて
白い紙に 黒で 音符が書かれた 楽譜を
シンフォニーに かえるために ここへ
きたのです
(『オーケストラの105人』)

きんようびの よる、8じ30ぷん。
くろと しろの ふくを きた 105にんの
おとこのひとと おんなのひとの しごとが、
いま はじまりました。
その しごととは、
しろい かみに かかれた くろい おんぷを
おんがくに かえることです。
(『105にんのすてきなしごと』)

同じ事を伝えていても、言葉の選び方で同じ絵も違うように見える不思議。ひらがなにひらいた言葉のリズムで、オーケストラの奏でる音楽も少しやさしくなったような気がします。

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それでは、ここからは選曲・歌い手 扇谷一穂の「今日の子守唄」

今日の子守唄は、「My Bonnie」

古いイギリス民謡です。この歌に行き着いたのは、大分個人的な思い入れから。「オーケストラの105人」を始めて読んだときから、ここに描かれているバックステージ感。本番までの過ごし方の描き方から、この映像作品が思い浮かんでいました。

「Oneday Pina Asked」
シャンタル・アケルマン監督 ドキュメンタリー作品 1983年・57分

ピナ・バウシュの作る舞台が大好きで、このドキュメンタリー作品も繰り返し見ていました。この映像の中には、本番前の楽屋でのダンサーたちの様子を写した部分が所々に挟み込まれているのですが、ここで一人のダンサーが楽屋でお化粧をしながら歌っていたのが「my bonnie」なのです。

本番前の緊張を落ち着かせるように、自分で自分のために歌う子守唄。この雰囲気がとても好きで、この歌が大好きになりました。
私にとって、子守唄の原点とも言える歌です。

「My Bonnie」

My Bonnie is over the ocean
My Bonnie is over the sea
My Bonnie is over the ocean
O bring back my Bonnie to me.

Bring back, bring back
Bring back my Bonnie to me, to me
Bring back, bring back
O bring back my Bonnie to me.

次回は松尾由佳の選書。
「のりもの絵本①」として、岡本雄司作の絵本を中心にお話しします。




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