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なんでそんなことに……!? 台湾の危険すぎるお祭り|立春~雨水|旅に効く、台湾ごよみ(17)

旅に効く、台湾ごよみは、季節の暦(二十四節気)に準じて、暮らしにとけこんだ行事や風習などを現地在住の作家・栖来ひかりさんが紹介。より彩り豊かな台湾の旅へと誘います。今回は、毎年この時期に催される危険すぎるお祭りや、日本人にも人気の“天燈上げ”の由来、日台をつなぐ食文化などに触れていきます。

 今年は2月1日から始まった旧正月も終わろうとしている。日本の「小正月」にあたる旧暦1月15日(本年は2月15日)の夜は元宵(台:グワンシャオ/中:ユエンシャオ)節と呼ばれ、正月を締めくくるイベントで賑々しい。新年最初の満月である元宵は、道教で「上元節」といい天界を司る天官の誕生日でもある。

 まずは満月に見立てた「元宵」を食べる。冬至に食べる白玉だんご(湯圓)に似るが、各家庭のルーツによって作り方も異なる。例えば、中国北部出身の人の店で売られる元宵は手で丸めない。白玉粉をひろげた大きな竹ざるに丸めた餡子をのせ、ゆすって転がし白玉粉の雪だるまをつくる要領で大きくする。茹でてもよいが、胡麻をまぶして揚げても美味しい。台湾では戦後に中国各地から移民が渡ってきた。15日の街をあるけば、大きな籠をゆすって「元宵」をつくる店のまえに長蛇の列が出来るのをあちこちで見かける。

 旧正月をとおして台湾各地を煌々と彩るランタン祭りももとは元宵のイベントで、唐の昔より提灯をもって外を歩き回れば良縁に恵まれるといわれた。満月のもと提灯にほのかに照らされた顔がことに美しくみえて恋に落ちる……そんな事も多々あったかもしれない。明治期に西暦に切り替わってしまった日本で、節句と月の満ち欠けとの脈絡がほとんど失われてしまったのは残念なことである。

 そのほか燈謎ティエンミィと呼ばれるナゾナゾ大会や街角の通りすがりの人の言葉でその年の運勢を知る聴香ティアヒョーと呼ばれる「盗み聞き占い」など多彩な習俗にあふれた元宵だが、「なんでそんなことに……?」と言いたくなる台湾独特のクレイジーなお祭りもある。

閲覧注意……!
危険すぎる台湾のお祭り

 台南塩水で行われる「塩水蜂炮えんすいほうほう」は、清の時代の上元に広まったコレラを鎮めた関帝聖君(関羽の霊)を讃えるため始まり、180年ほどの歴史があるという。

 この2日間はまるで「戦争ごっこ」の如く百万発を超えるロケット花火や爆竹が夜通し発射され、現場の人は全員ヘルメットをかぶり上から下まで完全武装して、足踏みをしながらロケット花火を浴びる。

 正月休みが退屈で、溜まりに溜まったエネルギーを発散するため(?)夜通し爆走していたかつての「初日の出暴走族」を連想してしまうのは私だけだろうか。

動画:2020世界で最も危険な祭りのひとつ「塩水蜂炮」

 台東の「炸寒單ザーハンタン」も凄まじい。「寒單爺ハンタンイエ」と呼ばれる虎にまたがった道教の神様「玄壇真君げんだんしんくん趙公明ちょうこうめい)」のためのお祭りだが、「寒單爺」は寒がりなので上元の夜に温めてあげることで一年の安泰を祈る。

炸寒單

 赤い頭巾と短パンを身に付け、葉のついた枝を持ち半裸で神輿に立った「寒單爺」役の青年達に向かって何千発もの爆竹を投げつける。生身の人間なので当然からだ中にやけどを負うという壮絶さだ。

 寒がりだから爆竹を投げつけて暖かくする展開もよくわからないが、地元青年らの根性試し的な意味合いもあるらしい。そして、ジェンダー平等の進む昨今では女性も「寒單爺」役に挑戦できるようになったという。

動画:2019年台東寒單爺


意外と知られていない
“天燈上げ”の由来と真実

 日本でもよく知られる北部平渓地区の「放天燈パンテンティン」(天燈上げ)もこの日に催される。今のようにイベント化されたのは1990年代でそう古くないが、由来をたどれば清朝の時代までさかのぼる。

 当時の台湾は治安が悪く、街と山を往復するのも不安が付きまとった。そこで、正月が終わり山に戻った人々は天燈を上げて無事を知らせた。こうして、天燈上げは家族や世の中の平安を祈る意味を持つようになったという。

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 現在は平渓線の十分などの駅で、いつでも天燈上げ体験が出来て人気の観光スポットとなっている。しかしこの天燈上げ、天に昇っていく姿はそれはそれは美しいが、燃え尽きたあとのことは余り知られていない。

 実は、近隣の山々で山火事の原因になったり、フクロウなどの野生動物が口にして環境問題にもなっている。汚らしくひしゃげた天燈が川岸に引っかかっているのを見かけることもある。人々の願いのこもった天燈がそんな顛末を引き起こしているのを見るのは辛いものだ。

 年に一度ならともかく、観光としての天燈上げに課題は多いが、地域での清掃活動や環境に負担をかけない材料の開発、法律の整備など対策も進んでいるようだ。

日本と台湾をつなぐ“トビウオ”

 今年もすでに暦のうえでは春となった。三日寒い日が続けば四日は暖かくなり、だんだんと春めいてゆく。二十四節気の「雨水」、今年は2月19日である。

 台湾東部の島、蘭嶼ランユーでは二月末ごろから黒潮に乗ってトビウオ群がやってくる。トビウオは蘭嶼に古くから暮らしてきた台湾原住民族タオ族のひとびとにとって最も重要な存在であり「アリバンバン」と呼ばれる。

 彼らの一年の生活はトビウオ漁を中心にすすむが、台湾と黒潮で繋がれる沖縄本島、トカラ列島、屋久島、宮崎県の串間にもトビウオ漁とトビウオにまつわる食文化が根付いている。トビウオもまた移ろう季節のなかで日本と台湾を繋いでいるのだ。

トビウオ

 古代中国において自然への観察と経験のなかで編み出された雨水の七十二候は、

 初候:獺祭魚(カワウソが捕らえた魚を岸に並べる)
 次候:鴻雁来(雁が渡って来はじめる)
 末候:草木萌動(草木が芽吹きはじめる)

 山口県岩国市の地酒「獺祭」は台湾でも大変人気のあるお酒だが、この名前の由来もここにあるという。また江戸期に日本の気候に合わせて作り替えられた七十二候は、

 初候:土脈どみゃく潤い起こる
 次候:霞はじめてたなび
 末候:草木萌え動く

である。この季節にたびかさなる積雪の翌日、真っ青に澄みきった空と芽吹く前のエネルギーを蓄えた山の木々の枝たち、そんな日本の風景が思い起こされ懐かしい。しかしスギ花粉アレルギーもちの筆者は、この時ばかりは花粉症に悩まされない台湾にいられることを幸運に思う。

文・絵=栖来すみきひかり

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栖来ひかり
台湾在住の文筆家・道草者。1976年生まれ、山口県出身。京都市立芸術大学美術学部卒。2006年より台湾在住。台湾に暮らす日日旅の如く新鮮なまなざしを持って、失われていく風景や忘れられた記憶を見つめ、掘り起こし、重層的な台湾の魅力を伝える。著書に『台湾と山口をつなぐ旅』(2017年、西日本出版社)、『時をかける台湾Y字路~記憶のワンダーランドへようこそ』(2019年、図書出版ヘウレーカ)。


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