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[七夕の起源]星に捧ぐ、五色の糸と梶の葉|笹岡隆甫 花の道しるべ from 京都

花にまつわる文化・伝統芸能などを未生流笹岡・華道家元の笹岡隆甫さんがひもとく連載コラム『花の道しるべ from 京都』。第36回はいけばなとも関わりが深いという七夕についてです。京都御所近く、800年続く和歌の家・冷泉家で行われる「乞巧奠きっこうてん」は、七夕のルーツとされる伝統行事。これに着想を得た笹岡さんは、かつて東京・青山のスパイラルホールで行われたいけばなパフォーマンスで花々に願いを託し、星に捧げました。

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2013年7月、青山のスパイラルホールで『花方はながた』~第一章「星逢いの宴」が開催された。作家の岩下尚史ひさふみさんが“青山亭主人”となり、日本の伝承芸能の目利きである主人の目にかなった“花方”*たちの芸とトークをご覧いただくという試み。構成は日本舞踊の尾上菊之丞おのえきくのじょうさん、進行は俳優の八嶋智人のりとさんという豪華な顔ぶれだ。

*現在では「花形」と表記される

テーマは星逢い、つまり七夕。五色の短冊に願い事を書いて、笹や竹につるす。今ではそんな風習さえ、目にすることが少なくなった。

七夕は、芸事上達を祈る宮中儀式だった

七夕のルーツは、牽牛けんぎゅう織女しょくじょを祀り芸事の上達を祈る「乞巧奠」だ。中国で始まり、奈良時代から宮中儀式として旧暦7月7日に行われた行事で、次第に民間にも広まった。それが、民間信仰としての棚機たなばた(水辺に棚を設え神の衣を織る棚機津女たなばたつめの伝説)、お盆前のみそぎ(水を用いて穢れを払う清めの行事)と結びついて、今日に伝えられた。

和歌の家・冷泉家の七夕行事「乞巧奠」

800年続く和歌の家である京都の冷泉れいぜい家(京都市上京区)では、旧暦7月7日に乞巧奠を行う。南庭に「星の座」と呼ばれる祭壇を設け、海のもの、山のもの、秋の七草、五色の布や糸を並べて、星に捧げる。管弦の奏楽、和歌の披講ひこうがあり、天の川に見立てた白布を隔てて恋の和歌を詠みあう「流れの座」と続く。星の座に欠かせないのが、梶の葉。かつては、この梶の葉に和歌をしたため、技芸上達を願ったという。茶の湯でも、この時期、葉蓋はぶたといって、水差しの蓋に梶の葉を使うことがあるが、なんとも涼しげで風流な趣向だ。

七夕といけばなのつながり

七夕は、いけばなとも関わりが深い。室町時代の公家や僧侶の日記を見ると、「七夕法楽」の記載がある。七夕の節供に草花を室内に飾り、会衆が種々の文芸芸能を楽しむ年中行事。屏風を立て、唐絵からえと呼ばれる中国伝来の絵画で飾られた会所で、数十瓶の花に囲まれながら節供せっくの儀を行ったあと、文芸や酒宴を楽しんだ。この瓶花は二日ほど飾られ一般に公開されたから、現在のいけばな展の原型とも言える。

いけばなの独学書として江戸時代に編まれた『生花早満奈飛いけばなはやまなび』には、七夕の花として、桔梗、刈萱かるかや女郎花おみなえしをいける、と書かれている。旧暦7月7日は、まだ暑さの残る時期だが、早、秋の風情だ。また、葉のついた竹をいけるのもよい、とされる。

さて、スパイラルホールでは、広口の水盤にたっぷり水を張って禊の意を込め、秋草をいけ、梶の葉を浮かべた。趣のある樫の樹皮、コルクの筒には竹を。また、その横には樹齢100年以上の紅葉の大木を据え、緑の美しいアセビ、星に見立てた百合を添えた。アセビの枝には、五行(木火土金水)を象徴する五色(青赤黄白黒)の糸を垂らした。童謡「たなばたさま」に出てくる五色の短冊は、もともと冷泉家の星の座のように五色の糸であり、古式にのっとったわけだ。

梶の葉を手に取り、水盤に浮かべる笹岡さん(上下)

私が花をいけ終ると、いけばなが舞台装置となり、藤舎貴生とうしゃきしょうさんの笛の演奏に合わせて、舞踊集団菊の会が群舞を披露する。舞台の照明は様々に変化し、いけばなを直接照らすこともあれば、シルエットとして浮かび上がらせることもある。そのため、シルエットが美しく見えるように、花器の構成を工夫した。

アセビの枝に五色の糸が垂らされ、星に見立てた百合がいけられた作品

京都各地の七夕祭

7月~8月にかけて、京都の各地でも、七夕祭が行われる。サッカーワールドカップの際に、球戯上達の神として話題となった白峯しらみね神宮(上京区)では、七夕祭に蹴鞠が奉納される。北野天満宮では期間中、七夕笹で飾られた境内参拝や御手洗みたらい川足つけ燈明とうみょう神事が行われる。境内のご神水に足をつけ、無病息災を祈る禊の行事だ。夜間のライトアップにもぜひ足を運びたい。

文=笹岡隆甫
撮影=岡本隆史
画像提供=スパイラル/株式会社ワコールアートセンター

笹岡隆甫(ささおか・りゅうほ)
華道「未生流笹岡」家元。京都ノートルダム女子大学客員教授。大正大学 客員教授。1974年京都生まれ。京都大学工学部建築学科卒、同大学院修士課程修了。2011年11月、「未生流笹岡」三代家元継承。舞台芸術としてのいけばなの可能性を追求し、2016年にはG7伊勢志摩サミットの会場装花を担当。近著に『いけばな』(新潮新書)。
●未生流笹岡HP:http://www.kadou.net/
Instagram:ryuho.sasaoka
Twitter:@ryuho_sasaoka

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