古代の日本人にとって、秋こそ花が咲き誇る季節だった|花の道しるべ from 京都
華道家の繁忙期がやってきた。春の繁忙期は3月後半~4月の約ひと月半だが、秋は9月~11月と期間が2倍。流内行事やイベントが続き、嬉しい悲鳴をあげる。
今では、花の季節というと春を思い浮かべることが多いが、古代の日本人にとって、秋こそ、花が咲き誇る季節だった。万葉集に出てくる花の数も、秋のハギが、春のウメを押さえて第一位。秋の七草をはじめとする秋の花たちが競い合うように咲き乱れる。いけばなの世界で使う花材も、春は花ものが中心だが、秋は秋草に加え、紅葉や実物など、格段に種類が豊富だ。
毎年、京都で開催する流派のいけばな展は、祖父の時代から変わらず、花材が豊富な10月初旬が定番。家元継承の翌年、2012年からは、青蓮院門跡で開催させていただいている。青蓮院門跡は、いけばなの黎明期を支えた由緒ある寺院だ。16世紀前半には、時の門主*尊鎮法親王が、頻繁に茶会や花会を催し茶の湯やたて花を庇護した。古くより皇室と関わりが深く格式の高い門跡寺院であり、樹齢数百年の楠に風格が漂う。東山粟田口に位置し、粟田御所とも呼ばれる。
昨年は、「三代家元継承10周年記念」と銘打って、青蓮院門跡でいけばな展を開催した。家元作品は、皇室ゆかりの門跡寺院ならではの空間、小御所* 上段の間に。向かって左手は、東京2020オリンピック聖火リレーのトーチを花器に見立てた。京都府の最終ランナーを務めた際に、私が手にしていた実物だ。
聖火リレーでは、悔しい思いもした。せっかく京都で聖火リレーをするのだから、京都らしい空間演出をすべきだと考え、平安神宮前に大作いけばなを展示してランナーを迎える空間演出を提案し、組織委員会からも許可をいただいていた。ところが感染拡大により、直前に会場が変更され、断念せざるをえなかった。そこで、この機会に、トーチに花をいけることにしたのだ。
トーチのモチーフは桜。上から見ると5枚の桜の花びらが表現されている。トーチには、秋の桜=コスモスをいけたいと考え、アマランサスと共にいけあげた。鉛直に立ち上がったトーチに、アマランサスの曲線美が引き立つ。
向かって右手は、曲木造形作家、亘章吾氏とのコラボレーション。アイルランドのJOSEPH WALSH STUDIOや中川木工芸で修行された若手のアーティストだ。吉野檜を用いた造形作品に、ウメモドキをいけた。青々とした葉がついたウメモドキは珍しく、そのみずみずしさは格別。こちらは、吉野檜の有機的な造形とウメモドキの折れ曲がった枝ぶりの対比が見どころだ。
コロナ禍でも欠くことなく、10年にわたって、いけばな展を開催させていただいたが、屋根の葺き替え工事のため、今年から3年間、青蓮院門跡でのいけばな展の開催はお休みとなる。
南禅寺天授庵でいけばな展
通常非公開の方丈・大書院で
今年の「未生流笹岡京都支部展」は、趣向を変えて、2会場での開催を計画している。まずは、庭園の美しさで知られる、南禅寺天授庵。2013年のJR東海のTVCM「そうだ 京都、行こう。」で、ご存知の方も多いだろう。南禅寺三門*に向かって右隣。通常非公開の方丈(本堂)および大書院にいけばなを奉納させていただく。天授庵の拝観は通常庭園のみ。いけばな展当日は、非公開の方丈や大書院を拝観できる貴重な機会でもある。美しい日本庭園との競演にも注目してほしい。また、ウェスティン都ホテル京都では、2Fコロネードをいけばな作品で彩る。天授庵からホテルまでは、徒歩10分。道中には、水路閣、ねじりまんぽ、インクラインなど、名所が目白押し。秋の蹴上をそぞろ歩きしながら、2会場のいけばなをお楽しみいただきたい。
いけばな展の当日は、近しい方々のご助力により、ウェスティン都ホテル京都にて4年ぶりに懇親の場を設けて頂く。花を介して、人と人を結びつけるのもいけばなの大きな役割の一つ。このような状況下だからこそ、人との交流がなおさら貴重で人生を豊かにする。この場での出会いが、新たな文化を生み出すきっかけになればと願っている。
文・写真=笹岡隆甫
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