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四季折々の味わいが楽しめる老舗「川口屋」の魅力|〔特集〕名古屋──あんこの王国

全国の “和菓子通”たちが今、もっとも熱い視線を注いでいる「名古屋のあんこ」。人気の秘密は店ごとに異なるあんこの味わいです。尾張徳川家のお膝元として、茶の湯文化の伝統が広く育まれてきた名古屋では、茶席を彩る上生菓子から日常使いのお菓子まで、さまざまなあんこ菓子が各店に受け継がれ、丁寧に作られているのです。日本全国の和菓子に精通する人気和菓子バイヤーのはた主税ちからさんが、とびきり美味しいあんこを求めて、名古屋を旅します。(ひととき2024年9月号 特集「名古屋──あんこの王国」より

 畑さんが初めて名古屋のあんこと出合ったのは、中区錦3丁目、名古屋の繁華街にある「川口屋」だった。創業は、元禄年間。かの「忠臣蔵」の討ち入りがあった時代である。老舗らしい風情ののれんをくぐって、店内に入ると、陳列棚には優しい色合いの季節の上生菓子が並ぶ。

花便り
「花便り」とは桜の開花や咲き具合を伝える知らせのこと。伊勢芋に白あんを練り込んだ「練り薯蕷」のきんとんで繊細な花色が表されている。芯は道明寺
春の川
桜の花びらが、川面に舞い落ちる様を表現したお菓子。清らかな川の流れを表すのは練り薯蕷のあんで、こちらも芯には道明寺が用いられている
桜重ね
幾重にも重なる桜の花、満開の桜を表したお菓子。桜の塩漬けを載せた備中あんを、淡いピンク色の柔らかな外郎製の生地で包んでいる

「川口屋さんは、椿餅が有名ですが、春なら桜のお菓子一点だけでなく、咲き始めから満開、水面に浮かぶ花まで、時期によって変化する桜を違う形のお菓子にする。季節の表現が豊かで芸術的です。こんなにあんこの種類があることにも驚きました。特にシソ入りのきんとんは、ここだけだと思います」(畑さん)

 15代目の女将、渡辺和嘉恵わかえさんによると、こしあん、つぶあんの他、秋は栗あん、冬は黒糖あん、梅あん、柚子あんを使うこともある。主に夏場に使われるシソ入りきんとんを考案したのは先代で、練り薯蕷じょうよ(蒸すと純白になる伊勢芋を使った生地)の独特の風味を消さないようにと工夫したオリジナルきんとんだ。

和菓子の並ぶケースを挟み、
15代目の女将と話し込む畑さん。
今日も美味しそうなお菓子を前に、笑みがこぼれる

 季節を映し出す上生菓子は2週間ごとに入れ替わる。秋は9月9日の重陽ちょうようの節句にちなんだ菊がテーマのお菓子や、名古屋では「栗粉くりこ」という栗きんとんが定番だ。地元の人に長く親しまれ、時に和菓子についての相談も受けるという。

「たとえば何かおわびのために持参するお菓子をお探しの方には、粉が落ちるものや、切る手間がいるものはお薦めしません。お菓子が人づきあいに役立ったり、手にした方にほっとしていただけたりするのはうれしいですね」(渡辺さん)

【 秋の主菓子3種類 】

千代見草(右上)
「千代見草」とは菊の別称。黄色い練り薯蕷のきんとんに、中はシソ入りの道明寺。きんとんの芯に道明寺を用いるのは、川口屋流

着せ綿(左上)
9月9日の「重陽の節句」を代表する上生菓子。菊に真綿を載せ、香りと朝露が移ったその真綿で身体を清め、無病息災を祈る古来の風習を表している。中はこしあん

光琳菊(下)
江戸時代の画家、尾形光琳が描いたシンプルな菊を意匠とした、しゃれたお菓子。伊勢芋を使った薯蕷生地で、中はつぶあん

*秋の主菓子3種類は、9月上旬〜中旬に川口屋にて販売予定

案内人=畑主税
文=ペリー荻野
写真=佐々木実佳
企画編集=久保恵子

──この続きは本誌でお読みになれます。日本全国、1000軒を超える和菓子屋さんを食べ歩く“伝説の和菓子バイヤー”畑主税さん。尾張徳川家のお膝元として茶の湯文化の伝統が育まれてきた名古屋の歴史を紐解きつつ、畑さんが太鼓判を押す、名古屋のとっておきの美味しいあんこ、和菓子店をご案内します。名古屋のあんこのもう一つの王道、豪華な「モーニング」で知られる喫茶店にも訪れ、名古屋の人が喫茶店とあんこを愛するわけに迫ります。

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目次
●紀行1 名古屋のあんこの“とっておき”
●COLUMN 尾張徳川家と和菓子の文化
●紀行2 名古屋のあんこのもうひとつの“王道”

川口屋 
☎052-971-3389
[所]名古屋市中区錦3-13-12
[時]9時30分~17時30分
[休]日曜、祝日、第3月曜

出典=ひととき2024年9月号


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