ほんのりと紅葉色づく京都でいけばな展 (南禅寺天授庵・ウェスティン都ホテル京都)
京都屈指の紅葉の名所である南禅寺は、臨済宗の禅寺。南禅寺天授庵は塔頭のひとつで、庭園の美しさで知られています。庭園は特別公開の時にご覧になれますが、方丈(本堂)、大書院などは非公開。今回は特別に公開される貴重な機会とのことでした。
天授庵の通用門を抜けて大書院に入ると、そこは別世界。一面の窓からは、ほんのりと色づいた紅葉にススキなど、広々とした池泉回遊式の南庭が見えます。手前には赤い敷物の上に萩など秋の草花を中心としたいけばな作品がその場を彩っています。
作品を眺めながら渡廊下を歩いて方丈(本堂)へ向かうと、枯山水の東庭が広がります。来場者たちはしげしげと作品を鑑賞したのちに縁側に腰かけ、庭園を眺めながら談笑している人も。
方丈(本堂)には、笹岡隆甫さんが奉納した家元作品がありました。黄金に輝く本堂の前に、左手に力強く枝を伸ばす泰山木、右手には、吊り花に紅葉した夏櫨、藤袴、鳥兜、赤と黒の種が印象的な山芍薬の実。夏から秋へ。移ろう季節が表現されています。
庭園で紅葉する木々を眺めつつ、この一日だけのために、最も美しく見えるように枝葉がそぎ落されたいけばなを愛でる。なんて贅沢な時間なのでしょうか。
南禅寺を出たのち、水路閣、ねじりまんぽなどの歴史的建造物を眺めながら、ウェスティン都ホテル京都へ。1890年に創業して以来、国賓ホテルとしての伝統を持つこちらでも、いけばな展が行われていました。
芸術の本義とは
4年ぶりに開催された「笹岡隆甫さんを囲む会」では、政治家、財界人、アーティストなど、総勢500人ほどが参加。様々な業種の方がいらっしゃるにもかかわらず、皆さんどこかでつながりがあるようで、まるで同窓会のよう。久しぶりの会合に、嬉々とした様子で歓談されていました。地域の絆の強さを感じましたが、京都への文化庁移転を前に、皆さんがさらに一致団結しているかのようでした。
トークセッションで印象に残ったのは、日本画家の福井江太郎さんが以前、雑誌の対談企画で笹岡さんをイメージして青いバラを描いてもてなしてくれたというお話。最近は自己表現の場としての芸術作品が多いが、かつては神仏のためのものが主だった。「誰かのために」つくるのが芸術なのではないかというお話に、笹岡さんも大きく頷きます。
この日いけばなを出品していた梅野星歩さんは、今年門下生になったばかりの庭師さん。作品には時計のモチーフを添えていました。「日本人は、花や香りを通して神仏と向き合う民族性があります。ここ数年は疫病の影響で命について考える機会が多かった。命と向き合うという点では庭づくりはいけばなと同じです。今この瞬間をどう生きていくか、その思いを作品に込めました」と語ります。
「囲む会」でひしひしと感じたのは、ここ数年観光業が厳しく、京都の方々も大変な思いをされていたということでした。それでも、これだけの景観と美意識、人々がお互いを思いやる絆があればきっと大丈夫。冷え込みが厳しいほど色鮮やかに紅葉する木々のように、京都は更なる飛躍を遂げるのではと思いました。
文・写真=西田信子
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