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【猫ちぐら】雪深い村で編まれる暖かな猫の家(新潟県岩船郡関川村)

日本全国の“地域の宝”を発掘する連載コーナー「地元にエール これ、いいね!」。地元の人々に長年愛されている食や、伝統的な技術を駆使して作られる美しい工芸品、現地に行かないと体験できないお祭など、心から「これ、いいね!」と思える魅力的なモノやコトを、それぞれの物語と共にご紹介します。(ひととき2022年10月号より)

 田んぼも畑も、冬になると深い雪にすっぽり覆われてしまう。昔、農作業のできないその時期に、村のひとびとは稲藁いなわらを編んだ。雨をよけるみの、雪道を歩く深ぐつ、炭を入れるかますなど、日々の暮らしに必要なものをこつこつと。猫ちぐらもそうした冬仕事のなかでいつしか生まれたものである。

 猫ちぐらとはいわば「猫小屋」。猫は自分の体が隠れるような狭いところが大好きで、そこにいればとてもリラックスするらしい。

稲藁は通気性が良いため、夏は涼しく快適(写真左)「おひつ入れ」も製作。東京のすし店に口コミで広まっているとか!

 今ではもう藁を編む家もないけれど、猫ちぐらの製法は「関川村猫ちぐらの会」が受け継ぎ、伝えている。会員は現在27人。そのうち6人は道の駅に設けられた実演コーナーに毎日集い、和気あいあいと製作を続ける。

「関川村猫ちぐらの会」看板猫のさくらちゃん(4歳)。なでてもらうのが大好きな甘えんぼう。赤ちゃんを寝かせた「つぐら」が 猫のための「猫ちぐら」になった

「なんだかんだ話して大声で笑いあってるから、1日があっという間。1年もすぐに過ぎちゃう」

 事務局の伊藤マリさんがいえば、

「そだよねー」

「楽しくやればいいものができるよね」

 と、また笑い声。

「ものづくりが大好き」と話す「関川村猫ちぐらの会」の皆さん。すべて手作業だから、仕上がりにはそれぞれ個性が出る。現在、注文してから納品まで1カ月待ち

 昔はどの家にも猫が2、3匹いて、ネズミ退治を請け負っていたそうだ。いちいち名前をつけたりなんかしなかったけれど、「じょっこ、じょっこ*」と呼びかけると、飼い主の声をちゃんと聞き分けて振り向いたという。猫も家族の一員だったのだ。

*じょっこ=関川村で使われていた「猫」を意味する古い言葉

 家族のための猫ちぐらはずっしり重く、頑丈で、ちょっとぶつかったくらいではびくともしない。時間とともに稲藁は飴色に変わり、20年たとうが形崩れもない。

 材料の稲藁はすべて村で穫れたもの。村の中心を流れる荒川が清く澄んだ水を山から運び、おいしい米を育てている。

材料の稲藁は「コシヒカリ」が最適。長くてよくしなり、きれいに仕上がる。さくらちゃんは製作中も膝のうえでご満悦

 冬でも暖かく、ほどよく薄暗い猫ちぐらのなかで、猫は安心して夢を見る。やがて雪が降り、静けさが村を包んでも、ひとびとの温かな交わりは続くだろう。

 猫たちはまどろみながら、まためぐる春を待っている。

だち公園入り口近くにある大きな「猫ちぐら」のモニュメント。近くには遊歩道・キャンプ場があり、豊かな自然が楽しめる

ご当地 INFORMATION
関川村のプロフィール
かつて米沢街道の要衝として栄えた関川村は、役場前に今も18世紀の町並みが残る。大庄屋の屋敷だった渡邉邸(国重文)は圧巻。また大水害の記憶を伝える「大したもんじゃまつり」では、世界一長い竹と藁のヘビが練り歩く。村内にはなんと5つも温泉地が。歴史と自然にどっぷり浸かれる

問い合わせ先
関川村猫ちぐらの会
☎0254-64-3311
https://www.nekochigura.com/
◎ホームページからも取り寄せ可
関川村地域政策課
☎0254-64-1478

出典:ひととき2022年10月号

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