【東京ステーションギャラリー】「テレンス・コンラン モダン・ブリテンをデザインする」展
サー・テレンス・コンランは(以下、コンラン卿)、第2次世界大戦後まもなく、テキスタイルや食器などのパターン・デザインから活動を始め、次第に個人の生活空間から都市、そして社会へと、デザインを通じてイギリスのみならず世界の生活文化に大きな影響を与えました。
デザイナー、実業家、ホテル経営、小売、出版業、レストラン経営、デザイン・ミュージアムの設立、とボーダーレスに、かつ実に多様に、そして規模の大きな業績を残しました。
――「デザインが暮らしを豊かにすること、いつでもこれが私にとって一番大事なことだった」(テレンス・コンラン『マイ・ライフ・イン・デザイン』より)
と著書で述べているように、コンラン卿の存在を際立たせているのは、単に優れたデザインのテキスタイル、食器や家具をプロデュースしたばかりでなく、デザインを通じて、多くの人々が「こんな暮らしがしたい」と思うようなライフ・スタイルの提案をしたことでした。
いまでこそ、一般に“セレクト・ショップ”と呼ばれる、あるテーマに沿った商品を扱う店舗がありますが、コンラン卿はまさしくそうした優れたデザイン、コンラン卿の審美眼で商品を選んで人々に提案する先駆け的存在でした。
けれどもそれらのデザインは、豪華で高級なもの、というわけではありませんでした。
――「いいデザインとは、98パーセントの常識と2パーセントの美学から生まれる」「Plain, Simple, Useful(無駄なくシンプルで機能的)なものが好きだ」
という言葉に現れているように、日々の暮らしに寄りそい、彩りを添えるようなものばかりでした。
会場は、同時進行で複層的に活躍したコンラン卿の業績が、8つのカテゴリーに分けて紹介する展示構成になっています。各カテゴリーで上映されている関連する人々のインタビュー映像を見ながら巡っていくことで、鑑賞者それぞれがコンラン卿の人物像に迫っていけるような工夫がなされています。
東京ステーションギャラリーと言えば、東京駅創建当時の建造が随所に見られる空間として知られています。
2階と3階の、それぞれ雰囲気の異なる建築空間を活かした展示空間が広がります。
展示は3階から始まりますが、3階は壁と天井が白く明るい雰囲気で、プロダクト作品や家具などが並び、住空間にあるような雰囲気を演出しています。
一方、2階は赤茶色のレンガの壁に黒い天井という、対照的な雰囲気です。構造レンガがむき出しの展示室の壁は、コンラン卿が1971年に購入して終生の住まいとした邸宅、バートン・コートを彷彿とさせます。
2004年に自身のオフィスをこの自邸内に移していますが、今回の展示ではその一部が大きな写真パネルで紹介され、コンラン卿が自らディスプレイしたという愛蔵品が、かつてオフィス内にあったのと同じように再現展示されています。
コンラン卿は、日本にも大きな関心を寄せ、1994年の「ザ・コンランショップ」日本初出店以降、数多くのプロジェクトを手がけました。
――「他の文化がどのようにふるまい、何をしているのかは、いつでも私に大きな影響を与えてきた」
と述べているように、世界の優れた文化に大きな関心を寄せ続けました。
また今回の展覧会では、一般的な展示作品を順に収録するといった図録ではなく “副読本”が刊行されています。本展覧会に出品されていない作品やイギリス内外での活動を含む、コンラン卿の人生と作品が多数の写真とともに年表形式で収録されていますので、本書もご覧になってはいかがでしょうか。
デザインというもの、それを活かした暮らしがもたらす楽しさや喜びを分かち合いたい、という気持ちを随所に感じる本展に、ぜひお出かけください。
写真提供=Courtesy of the Conran family, Conran Foundation and Conran IP LTD.
文・展示風景写真=根岸あかね
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