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【菰野ばんこ】日本の夏に萬古焼の蚊遣り豚を(三重県菰野町)


日本全国の“地域の宝”を発掘する連載コーナー「地元にエール これ、いいね!」。地元の人々に長年愛されている食や、伝統的な技術を駆使して作られる美しい工芸品、現地に行かないと体験できないお祭など、心から「これ、いいね!」と思える魅力的なモノやコトを、それぞれの物語と共にご紹介します。(ひととき2022年7月号より)

 鈴鹿山脈の峰々を望むこも町。緑の田んぼが広がる一角にポツンと立つ倉庫のような白い建物は、ばん焼の窯元「山口陶器」のオリジナルブランド「かもしか道具店」の店舗だ。店内には落ち着いたカラーのシンプルな食器や道具が並ぶ。「萬古焼は分業が主流ですが、私たちは企画から製造、販売まで自社で手がけています」と代表の山口典宏さん。ブランドのコンセプトは「食卓を通じ幸せを届けること」と明快だ。

2017年にオープンした「かもした道具店」。週末には行列ができるほど
「かもしか道具店」の店内。倉庫をリノベーションした天井の高い空間が気持ちいい
萬古焼の新たな魅力を発信する「山口陶器」の山口典宏さん

 ふっくらおいしいご飯が炊けると人気の炊飯鍋、真鍮しんちゅうのハンドルがアクセントになった美しいデザインのやかん、溝がないのにちゃんとすれる不思議なすり鉢。どれも、すぐにでも使ってみたくなる。

遠赤外線効果でじっくりと温まりまろやかなお湯が沸く「陶のやかん」 [右] 炊き上がりを食卓に置いておひつとしても使える「ごはんの鍋」[左] 丸みのある目立てでふんわりとおろせる「しょうがのおろし器」溝がなくてもしっかりすれて食材が無駄に残らない「すりバチ」[中央]

 少し離れた工場では、職人たちが鍋の生地に段差をつけて形を仕上げたり、素焼き後のカップの取っ手や表面を丁寧に削って滑らかにしたり。「人の手をかけることを大切にしています。萬古焼を通して作り手の気持ちも届けたいですね」。

夏の風物詩、蚊遣り豚は萬古焼の定番アイテムのひとつ(かもしか道具店)

 三重県の地場産業として土鍋や急須などの日用陶器で知られる萬古焼は、桑名の豪商・なみ弄山ろうざんによって江戸時代中期に焼かれ「萬古」の印が押されたのが始まりだ。四日市萬古焼として定着したのは明治期に入ってから。港があり燃料の入手が容易で流通にも適していたことから、四日市市は全国有数の陶器産地となった。隣接する菰野町にも窯元が集まり、現在は7軒の窯がそれぞれ特色のある萬古焼を作っている。

お茶の産地三重と萬古焼とを結ぶ新ブランド「茶時間」の茶器

 モダンであたたかみのある和洋のうつわが印象的な「クラフト石川」は、石川哲生さんが家族で営む工房。粘土を板状にのばし形を作る「たたら成形」のうつわは丸みのある柔らかなフォルムで、しっくりと手になじむ。ミルクパンや直火にかけられる皿など、耐熱性の高いアイテムも多い。作陶のキャリア30年の石川さんは「土の質感を大切に、若い世代のライフスタイルにもマッチするものを」と笑顔で話してくれた。

(手前から)「クラフト石川」のスープボウル、直火対応のアヒージョ皿とミルクパン
石川哲生さんと奥様の八重子さん[左]工房に併設されたギャラリー兼店舗[右]

 創業70年の「松尾製陶所」の工場は、シーズンに向け蚊遣り豚製造の真っ最中。棚にずらりと並んだ素焼きの豚の愛らしさに心が和む。「電気蚊取り器の普及で蚊遣り豚の需要は減少ぎみですが、日本の夏ならではの風情ある文化をつないでいきたい」と代表の松尾徹也さん。暮らしに寄り添う萬古焼のほっとするようなぬくもりが、ふくよかな陶の豚から伝わってきた。

石膏の型を外すと丸々とした豚が誕生[左]蚊取り線香が入れやすいよう一般的な製品より一回り大きくした松尾さんの蚊遣り豚。2つ穴の鼻もユニーク [右] 
「松尾製陶所」の松尾徹也さん。アウトドアブームでキャンプ場から注文が入ることも

文=宮下由美 写真=阿部吉泰

ご当地INFORMATION
菰野町のプロフィール
三重県の北勢エリアに位置し、鈴鹿山脈の山麓部に広がる自然豊かな町。多彩な登山コースやロッククライミングで有名な御在所岳〈ございしょだけ〉、豊かな源泉に恵まれた1300年の歴史をもつ湯の山温泉など人気の観光スポットも多い

問い合わせ先
かもしか道具店(山口陶器)
☎059-327-6555
クラフト石川
☎059-396-3731
松尾製陶所
☎059-396-0519

出典:ひととき2022年7月号

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