【高岡の風鈴】鋳物師が作り出す音の美(富山県高岡市)
そよ風に乗って聞えてくる風鈴の音は、夏の音色だ。澄んだ音とともにひとしきり涼しさを運んでくれる。
風鈴はガラス製品をはじめ全国各地にあるが、富山県高岡市で作られるのは伝統的な鋳造法による鋳物の風鈴だ。高岡は、加賀藩主だった前田利長が隠居後に造った城下町。利長は鋳物造りを誘致、手厚く保護した。400余年を経て、現代では銅の合金を用いた鋳物による仏具生産量が日本一を誇る鋳物の町となった。
製品の開発から販売までを行うメーカーの能作は、4代目の前社長・能作克治さんが手がけた真鍮製風鈴が大ヒット。以来、内外のデザイナーによる風鈴など、その数30種という多彩なラインナップだ。どれも材料は真鍮。すっきりと洒落たデザインで、それぞれ異なる音色をもつ。
形は、昔ながらの高岡の技法、生型鋳造法によって職人が作る。鋳物砂を焼成せずに原型の周りに力を加えて押し固め、鋳型を作る。そこへ1000度以上に熱した真鍮を流し込むと風鈴の形が誕生。余韻ある響きを奏でるには、30分程寝かせておくといいという。真鍮が肉厚だと高音、薄ければ低音になる。仕上場では、轆轤を回しながら職人が風鈴の肌に刃物を当てていく。0.01ミリ以下という微細な削りが音を確かなものにする。風鈴の一つ一つの音色は、職人の熟練の技から生まれるのだ。
仏具メーカーの山口久乗では、仏具のおりんの響きにこだわって金属の配合を吟味、音色を究めた久乗おりんを開発した。社長の山口康多郎さんが、叩いて音を聞かせてくれた。リーンという音に被さってウワ~ンウワンと広がる残響が、心の中に染み込んでいくようだ。専門家に音の解析を依頼したところ、「久乗おりんの音は、小川のせせらぎや木の葉のそよぎなど、自然の音と共通する1/fゆらぎ*を持つと判明しました。純粋で透き通った音のゆらぎが心を癒やしてくれるのでしょう」と語る。山口久乗の風鈴は、おりん同様に長く響く余韻が特色といえる。
先頃亡くなった音楽家の坂本龍一さんは、能作の風鈴と久乗おりんの音を気に入っていたという。
透明感ある音が響き合いながら時折、短冊がそよいで不規則なリズムを奏でる。その音も、くつろぎを運んでくる。
文=片柳草生 写真=中庭愉生
出典:ひととき2023年8月号
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