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都会を離れ、渓谷で新緑色の多摩川を愛でる|治部れんげ(ジャーナリスト)
各界でご活躍されている方々に、“忘れがたい街”の思い出を綴っていただくエッセイ「あの街、この街」。第19回は、東京工業大学准教授でジャーナリストの治部れんげさんです。ふとした時に向かう奥多摩では都心で見かけるのとは異なる、新緑色の多摩川を見ることができ、心が洗われる気持ちになると言います。思い立った時にすぐ行ける、緑豊かな場所を教えていただきました。
都会で暮らし、仕事をしていると、時々、全てが面倒になります。そういう時はたいてい、休日も働いて精神的肉体的に疲れているので、天気の良い日を選んで平日に休みを取り、奥多摩方面に出かけます。
本格的な登山の服装や持ち物は不要で、足元はスニーカー、荷物は肩にかかれば大丈夫です。JR中央線で立川駅に出て青梅線に乗り換えて45分、軍畑駅を降りると目の前は緑の山が広がっています。これを見るだけで、既に気持ちの疲れは半ば消えてしまいます。
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駅を背にゆるやかな下り坂を歩き、大きな通りを右折して10分ほど歩くと「御岳渓谷遊歩道入口」の看板が見えてきます。遊歩道は多摩川沿いに設置されていて、歩きやすくなっているのでスニーカーで充分です。
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この辺りは多摩川といっても上流に近いため、二子玉川や登戸あたりとは全然違う川に見えます。深緑色の川が流れて岩にぶつかるのを眺めて水の流れる音を聴いていると、色んなことが、どうでもいいや、と思えてきます。川沿いの道を右に歩き、さらに上流に向かうと途中で釣りをしている人に出会います。
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15分ほど歩くと、右手に開けたスペースが見えてくるのが、澤乃井園です。酒蔵が近くにあるので、見学してもいいですし、搾りたての日本酒を買って帰ることもできます。利き酒スペースがあるので、数種類を飲み比べることもできます。
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屋外のテーブルには犬連れの人や、屋根のあるスペースには夫婦や友人同士のグループがいます。目の前を流れる川を見ながら、蕎麦など軽食をとったり、日本酒を飲んだり天気の良い日は本当に極楽のような気分を味わうことができます。
記念撮影している人がいたので「シャッター押しますよ」と言ったら、お母さんと娘さんでした。少し前まで入院していたお母さんが動けるようになったので、ここに来てみた、元気になって良かった、と話してくれました。
さらに30分ほど歩くと、河鹿園が見えてきます。ここはかつて割烹旅館だったのですが、今は営業をやめており、歴史的な建物と書画をそのまま見せる「ガラスのない美術館」として見学者を受け入れています。暑い夏の日に行ったら、うちわの展覧会をやっていました。旅館だった頃を想像しながらかつての客室を見て回ると、広さ、趣向の凝らし方が異なっていて泊まってみたかったな、と思います。
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川の向こう側には日本画の大家、川合玉堂の作品を展示する美術館。10代の頃に描かれた、今にも飛んでいきそうな鳥のスケッチに目をみはります。また、農家の女性たちが畑仕事をする様子などを描いた上品な一作も。
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川を渡り、御嶽駅から上りのJRに乗る頃には、そもそも何が原因で疲れていたのか、ほとんど忘れています。またしばらく、人間の多い都会で暮らし仕事をして何かがたまったら、ここに来ようと思います。
文・写真=治部れんげ
✳︎追記 河鹿園は4月16日に閉館しました
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◇◆◇ 治部れんげさんの近刊 ◇◆◇
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治部れんげ(じぶ・れんげ)
東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授、ジャーナリスト。1997年一橋大学法学部卒業後、日経BP社で16年間、経済誌記者。2006年~07年ミシガン大学フルブライト客員研究員。2014年からフリージャーナリスト。2018年一橋大学大学院経営学修士。2021年4月より現職。内閣府男女共同参画計画実行・監視専門調査会委員、国際女性会議WAW! 国内アドバイザー、東京都男女平等参画審議会委員、豊島区男女共同参画推進会議会長など男女平等関係の公職多数。著書に『稼ぐ妻 育てる夫』(勁草書房)、『炎上しない企業情報発信』(日本経済新聞出版)、『「男女格差後進国」の衝撃』(小学館新書)、『ジェンダーで見るヒットドラマ』(光文社新書)などがある。
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