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【京都】狂言師・茂山逸平さんらと“口福の涼味”

京の町には、盛りの暑さと腕比べをするごとくの挨拶ごとやら、行事やら「夏しごと」があります。そして、ひとしごとを終えた心身への至福のご褒美となる美味、涼味もあります。生粋の京男4人の座談、放談でご案内しましょう。(ひととき8月号特集「京の夏しごと」より)

 和菓子はもとより、祇園文化も牽引する老舗「鍵善良房かぎぜんよしふさ」の今西善也さん、旧山陰街道筋、人気の餅菓子に加え、夏場はかき氷も行列必至、「中村軒」の中村亮太さん、そして茂山逸平さんの3人が、これまた、予約の取れない鮨割烹「なか一」須原健太さんのお店へ集合。日ごろから「よく集まっては、ほぼ役に立たないことばかり喋る」という京男4人、逸平さん以外は、全員が美味しいものをこしらえ供する食のプロたち。この時季のスペシャリテから、名品誕生の裏話、京都人気質まで、とっておきの、夏のうまいもん話をお楽しみあれ。

茂山 今日はお忙しい中ありがとうございます。まずは乾杯!

一同 乾杯!

須原 ではさっそく、くじらのお椀から。

茂山 え? いきなり鯨?

今西 一発めに鯨はキツい(笑)。

茂山 夏になると、いっぺんは食べとうなるんやけどね、僕は。でもなんで暑い盛りに、こんなこってりしたもん食べるようになったんかなあ。

須原 暑気払い。鰻食べたりしてちょっと精つけよか、というのと同じやね。

逸平さんお気に入りの「もち鯨の白味噌椀」は須原さんの父である「なか一」先代の味がルーツ。白味噌、鯨の濃厚さを山椒でピリリと

茂山 これはもうお料理屋さんでしか食べられへん味やね。この時季になったら、ここで、これを食べる。夏場にそんな濃いもん、よう食うなあ、と言われても。

旨いもの談義に盛り上がる四人衆。右から中村軒の5代目、中村亮太さん、狂言師の茂山逸平さん、祇園で三百余年の鍵善良房・今西善也さん、鮨割烹「なか一」の須原健太さん

──皆さんそれぞれ、この時季はコレ食べておかないと、という夏の定番はありますか?

中村 僕、白ズイキが好きです。

茂山 普通のズイキとは別物?

須原 料理屋用に、日光に当てんと育てられた真っ白なズイキ。

中村 煮浸しでも胡麻和えでも、葛引きでも。暑い時季に冷たい器にちょこっと出てくると嬉しい。

今西 祭りの時の鯖寿司とか、はもとか。秋の鱧のほうが脂乗って美味しいと思うけど、やっぱり夏になったら、食べとかんと、という気にはなるなあ。

須原 はい、鱧、ご用意してます。今日は焼き霜*で。

*皮目を軽く炙った後で冷水に取る調理法

今西 鱧は初夏から秋まで、趣向を変えていくのも大変やろうね。

須原 走りの時は、主役やなしにお椀くらい。それが盛夏になってくると、コースの中で鱧料理を2、3品は出すんで、〝落とし〟を食べ慣れてはる人には骨切りして皮を引いて、ちょっと塩あてて、お造りとか。鱧の骨でとったスープ、ジュレにして載せたり。

三人 ほおっ。

須原 秋口になって徐々に鱧の味に力がなくなってくると、土瓶蒸しとか。逆に脂が落ちてきた淡白さがお吸い物にちょうど良うなる。そこから名残の鱧と松茸で、鱧しゃぶ……。産地によっても違うけど、時季に沿って出し方も変わりますねえ。

茂山 なるほどなあ。亮太くん(中村軒)とこのかき氷も、やっぱり外せへんよなあ、遠いけど。

今西 桂の、あそこまで行くの、小旅行やもんなあ。それにしてもかき氷の人気、すごいね。

茂山 この前、娘が、兄の十三詣り*について行くのを嫌がったとき、「一緒に行ったら、帰りに美味しいかき氷とお赤飯を食べさせてあげる」と口説いたら行ってくれた、おかげさまで。

*数え年13歳の子が寺社に参詣し、知恵を授かる伝統行事

8月限定の「すだち氷」(中村軒)

中村 ありがとうございます。こないだ、逸平さんにも召し上がってもらいましたね、「桂うり氷」。

茂山 そう、僕、いつもはミルク派なんやけど、亮太くんが熱心に勧めはるし食べてみたら、ほんまに美味しかった。上品な甘さで、爽やかで、あれはおっさんも喜ぶかき氷(笑)。でも、「桂うり」て珍しいね。

中村 土地のもので、うちにしかないものができないかなと。「桂うり」は昔ながらの品種で、かけ合わせて病気に強く、みたいなことはないので農家さんにはなかなかつくってもらえない絶滅危惧種。今は、京都府立桂高等学校の生徒さんが、伝統野菜を守る目的で栽培してるのを使わせてもろてます。

茂山 貴重なもんなんや。

中村 見た目は地味ですけど、召し上がれば好きになってもらえるかな、と。

構成・文=安藤寿和子 写真=伊藤 信

――この続きは、本誌でお楽しみになれます。自分へのご褒美のほかに、人に差し上げたい夏の味について、名店・鍵善の品のほか、当代の今西善也さんが手土産にする菓子などについて語りあいます。またこの特集記事では、「京の夏しごと」として、茂山逸平さんが“清水寺の千日詣り”へ訪れます。8月9日から16日の千日詣りは、千度のお詣りの功徳をたった一日でいただける機会であり、普段は立ち入り不可の本堂内々陣への参詣路が開く貴重な時。ぜひ本誌をご一読ください。

鍵善良房の水羊羹「甘露竹」

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目次
●清水さんの千日詣り
●茂山家の土用干し
●[コラム] ちょっと体験 夏しごと
●「口福の涼味」あれこれ

茂山逸平(しげやま・いっぺい)
大蔵流狂言師。1979年生まれ。茂山千五郎家一門の中核として「花形狂言少年隊」「TOPPA!」など結成。広い層に向けた舞台やNHK連続テレビ小説「京、ふたり」「オードリー」等の出演、他ジャンルとのコラボ公演など多彩な活動で人気を博す。新進芸術家海外派遣制度でフランスにも留学。

鮨割烹 なか一
鮨割烹というスタイルで、味はもちろん、客あしらいにも一家言ある客筋を唸らせる、なか一。父である先代から店を継いだ須原健太さんは、こだわりの器使いで目も舌も楽しませる。
☎075-531-2778 
京都市東山区祇園町南側570-196 
[時]12時~14時、16時30分~22時
[休]不定休

中村軒
桂離宮のほど近く。宮家も愛する「かつら饅頭」や、きな粉の香ばしい「麦代餅」など名物多数。懐かしく、あっさりと飽きぬ風味の餅菓子で、洛西に中村軒ありと評判の名店。中村亮太さんは祖父、父の薫陶を受けた5代目。昨今は松尾大社のお祭り時期(4月末)から始まるかき氷が大人気
☎075-381-2650
京都市西京区桂浅原町61
[時]8時30分~17時30分(茶店は10時~L.O17時) 
[休]水曜(祝日の場合は営業)
https://www.nakamuraken.co.jp/

鍵善良房(四条本店)
☎075-561-1818
京都市東山区祇園町北側264 
[時]9時30分~18時(喫茶はL.O17時30分 *混雑状況により変更あり) [休]月曜(祝日の場合は翌日)
https://www.kagizen.co.jp/

出典:ひととき2023年8月号

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