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読書日記〜私達が歩む黄金の道〜

 「ほんとに道って好きよ。だって、行きつく先はどこなのかしらって、夢見ることができるじゃない」

 その時少女は、口を開いた。少女は言った。
 「おはよう」
 こんな声は聞いたことがなかった。以来今に至るも聞いたことがない。言葉では表せない。澄んだ、と言うべきか。甘やかな、と言うべきか。力強いとも、よく通るとも、鈴をふったような、とも言えるだろう。

 古い果樹園では秋の夜風が、紅葉した枝で無気味な音楽を奏ではじめた。ぼくたちは、小さい木戸を閉めた。この場所での浮かれ騒ぎの時は、終わりを告げた。

「ストーリー・ガール」「黄金の道 ストーリ・ガール2」
 モンゴメリ著 木村由利子 訳


 モンゴメリという作家の名を知っている人は「赤毛のアンの作者」として記憶している方が多いかと思います。
 私は赤毛のアンも大好きな作品なのですが、モンゴメリはアンシリーズ以外にも名作を残しています。

 「ストーリー・ガール」は二冊に分かれた長編小説。
 語り手の「ぼく」ことべバリーは、父親の仕事の都合で弟のフェリックスと共に父の郷里であるカーライルの親戚の元で暮らし始める。そこは「キング果樹園」と呼ばれる、古い時代の名残漂う由緒ある農園だった。
 やんちゃなダン、美人で料理上手だけれど虚栄心の強いフェリシティー、大人しく控えめだけれど優しくも賢いセシリー。
 個性豊かないとこ達に出迎えられた兄弟は、これから始まる果樹園での生活に胸を膨らませる。

 親戚宅に到着した翌日。
 早起きをした二人はこっそり、父が繰り返し語って聞かせてくれた、思い出の果樹園に向かう。
 朝靄の中、年月を重ねた木戸の前に立つ少女をべバリー達は見出した。
 そこで出会った少女こそ、魅惑的な声と天性の表現力を持つ女の子「ストーリー・ガール」だった。


 個性豊かないとこ達、使用人で好奇心旺盛なピーターと一年中泣きっぱなしの丘の下に住むセーラ・レイ。
 彼らが送る「子供時代」という名の黄金の時が、ストーリー・ガールの「お話」に彩られて始まります。

 子供が中心の物語ではあるけれど、その脇を固める大人達もまた魅力的で個性的な人々ばかりです。
 魔女と恐れられるペッグ・ボウエンに、自宅を「黄金の一里塚」と名付けた「ぶきっちょさん」ことジャスパー・デイル。
 今は大人となり、それぞれの立ち位置を得た彼らもやはり、かつては悩める子供だった。
 大人と子供の悩み、憂いは別のものかもしれないけれど、作中に出て来る人々は至って真剣に、人生という課題に取り組んでいきます。

 モンゴメリ作品で私が特徴的だと感じるのは、実は大人のキャラクターに魅力的な人物が多いという事です。
 そういう意味では「アンシリーズ」も、この「ストーリー・ガールシリーズ」も単なる児童向けの本では無く、年代を問わず楽しむ事が出来ると言えるのではないでしょうか。

 「むかし私たちは、だれもが黄金の道を歩いていた」

 モンゴメリのこの一文に、胸を打たれた「大人」にこそ読んで貰いたい物語です。

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