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217 思い込んだら命がけ

人間関係の苦手な部分

 思い込みの激しい人は、人間関係を苦手に感じることが多いかもしれない。自分の思い込みに気付けないので、相手の言動の意外性についていけなくなる。どうしてそうなるのか、と考えてみてもさっぱりわからない。だから「人間関係は難しいよね」と言ってしまえば、まあ、それで終わりかな。
 自分も思い込みで生きている方だけど、幸いにも本を多数読んだり、ドラマや映画を多数見たり、人の言葉を聞いたりもするので、結果的になんとか生きている。
 しかし、思い込みを野放しにして、人間関係についてのいろいろな側面を学ぶ機会を逃し続けていたら、そりゃ、まあ、生きづらさを感じる場面にぶち当たることも増えるだろうと想像がつく。
 身近なところで、親兄弟への思い込みがある。家族なのですぐ確認が取れそうだけど、実はそうでもない。親兄弟とグループLINEをしている人もいるようだが、そうしたことのできない家族もいるだろうから、直接対決しない限りは相手の気持ちを事前に確認することは難しい。
 それでも「親子だから」「兄弟だから」といった「だから」、つまり思い込みを優先させていても、日常ではそれほど問題は発生しない。進学、就職、恋愛、結婚といった人生の節目になって、はじめて衝突が発生し、思い込みによる齟齬が露呈する。
 これはその他、職場、学校、友人、知人、バイト先などあらゆる場面でも同じことが言える。通常は思い込みで行動していても、それほど問題は発生しないのだ。それが、なにかあったとき、いきなり露呈するのである。
 お互いに「あんなヤツだと思わなかった」とか「なにを考えているのかぜんぜんわからない」といった事態に直面する。

突然、行動を起こす

 だいたいの場合、突然、行動を起こされて、「ええっ!」となり、はじめてその人のことを思い込みで判断していたのだと気付く。私の場合、とても神経質な部下がいて、最初は自分の部署にいたけれど扱いが難しすぎて上層部に掛け合って別の部署へ異動してもらった。すると、その人はさらに気性が荒くなり、上司と大声で言い合う、会議をすっぽかす、会社に来ない、といった行動にまで発展した。
 たまたま、その部署はトップが役員だったので経営問題化し、「クビ」と言い出した。あー、それはどうなんだろう。私はクビはまずいな、と思ったのだが、役員でもないし、部署も違うから。
 そして彼はストライキを決行した。1人労働組合である。ちゃんと1人労働組合を支援する組織がバックについて、会社の外でビラを撒いていた。
 そこまでやるなら、ほかにも方法があったんじゃないかと私は感じたが、まあ、行くところまで行ってしまったのだ。どうにもならない。
 このあと経営側はなにかしら表沙汰にしない条件を提示したらしく、彼はそのまま辞めていった。
 2年後、私のところに彼から電話があった。
「まだいらっしゃったんですね」と、やや笑われた。「私はあのあと公認会計士になりまして……」
 私のよく知っているある人を紹介して欲しいと頼まれたのだった。大丈夫かなと心配になったが、そこそこの規模を持つ会計事務所に所属していることから、つないでも大丈夫だと判断して相手の了承を得た上で引き合わせた。
 そのお礼で飲みに誘われた。
「勉強になりました。本当、ご迷惑をおかけしました」と彼は素直に私に言う。あの頃の神経質さはほとんどない。世渡りのうまい男に見える。
「それは社長たちに言った方がいいのに」
「いえ。あそこの経営陣は許せないので、それは絶対にないです。だけどみなさんにはお世話になったし。結果的に、自分の気持ちをはっきりさせることにもなったので」
 要するに、彼は親も会計士。だがその道へ素直に進むのも嫌なので私が所属していた会社へ「おもしろそうだから」入った。最初はおもしろかったらしい。私は完全にお手上げで突き放した張本人でもあるので、そのおもしろさの意味はよくわからない。
 別部署へ異動後になにがあったのかは、彼は「自分からは言えません。それが条件なので」と、何らかの約束を交わしたらしいことを臭わせた。私もそこまで興味はない。いまで言うところのパワハラだろうか、と想像した。
 ただ、私たちは彼のことを神経質な新人ぐらいにしか見ていなかった。「新人」というカテゴリーに入れてしまったから、彼を見誤った。ほかの新人と同じ扱いをしてしまう。そこで思い込みが発生した。「新人なんだから」と。そこから、相手をよく知る機会のないまま、衝突へ発展してしまった。そんな気がしてならない。

なかなか進まない。


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