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224 悩みは解決するのか?

なるようにしかならない

 先日(5月1日)、MLBの試合で蜂騒動があった。球場の内野のネットに蜂が大量に固まっている。駆除するまで試合は行えない。そんな話。そのとき、球場でビートルズ「レット・イット・ビー」(Let it be)が流れたとニュースで盛んにやっていた。蜂(Bee)とbeのシャレはもちろんそうだが、そもそも意味として「あるがままに、なるようになる」を連想したのではないか。自然界の出来事の多くは、実際、Let it beだ。
 悪く取れば無気力な意見だけど、自分の経験上でも確かに、たいがいのことはなるようにしかならない。
 人間は悩む。悩みの多い人、少ない人はあるだろう。どちらかと言えば、私は聞き役が多いので、悩みの少ない人と見られているかもしれない。だけど、記憶のある限り自分の半生を振り返ると、悩みばかりが浮かび上がる。ずっと悩んで生きてきた。ま、誰もがそうだろうけど。
 悩みといっても、さまざまだ。憧れや欲望をきっかけとした「とても手の届かないこと」を見つけてしまったときの悩みもあれば、もっとシンプルに体調であるとか、おカネとか、人間関係についての悩みもある。
 結果論だが、「解決できる悩み」と「解決できない悩み」の2種類しかないのかもしれない。
 ここはあえて「できる、できない」と表現したが、実際には「解決する悩み」「解決しない悩み」と「する、しない」で表現した方がいいような気もする。というのも、Let it beでそのまま解決していく悩みもゼロではないからだ。こちらはなにもしていない。自然に解消していくのだ。

人に相談すると解決する説

 童話の「青い鳥」ではないが、悩みの多くは自分の外に解決策があるように感じても、実は自分で解決できてしまうのである。青い鳥(解決策)は、家(自分)に最初からあった、ということだ。
 数年にわたって女性誌の悩み相談を受けていた。毎月1回、悩みについてのいわば「お題」が編集者から提示されて、私はその解決策をひねり出して回答していた。どうしてそんな連載をやっていたのか自分でも不思議だが、数回で終わるはずが3年ぐらい続いたのではないだろうか。
 そもそも、私としては「本当に悩みは解決するのだろうか?」と懐疑的な人間である。カネで換算すれば「いま1000円あれば解決する」ような悩みと、「いま1000万円あれば解決する」ような悩みがあるとして、いかにも1000円で解決するならすぐ解決しそうに見える。だけど、本当にそうだろうか?
 1000あればいい、という人に対して「じゃ、この1000円、あげるよ」とやったとして、翌日もやってきて「1000円あれば……」とやられたら、みなさんはどうするだろう?
 一方、1000万円をかき集めて解決したことによって、毎月100万円の売り上げが発生したときはどうだろう。
 解決したように見えて解決していない問題は世の中に数多くある。富士山に登山鉄道を作る話もそうだ。登山者を絞り込むために、登山鉄道のみでしか入山できないようにできれば、確かにコントロールできそうだが、その工事と運営のために破壊される自然や景観はどうなのか。ある問題を解決することで、ある悩みは半永久的に解決できなくなる。そんなことをしていいものだろうか。未来からの視点で見たら、なにが正解なのだろう。
 確かに私はあえて悩みをややこしく捉えているので、ズルイといえばズルイのだけど、悩みってそういうものなんだなあ、と思う。
 よく「人に悩みを打ち明けると解決する」説も耳にする。悩みだと思っていたことを誰かに打ち明けると、別の角度から見れば大した悩みではないと気付くことができ、解決する。あるいは本来、自分の中にあった解決策を引き出してもらい、あらためて「それでいい」と納得する。
 ただし、誰に打ち明けるかは重大問題である。下手に誰かに悩みを打ち明けたことによって、その人との関係でいろいろ面倒なことが起こらないだろうか? 自分以外に自分の悩みを知っている人がいることを、「いい」と思う人もいれば「よくない」と思う人もいるだろう。
 人と親しくなるために「弱味の共有」はひとつの手だけど、どの程度の弱味を共有するかは悩ましい。そこでまた悩みが増えそうだ。
「おれ、この頃、悩んでいるんだけど、聞いてくれる?」
「いいよ」
「だけど、その前に、君に悩みを聞いてもらうことがいいことかどうか、すごく悩んでいる」
「大丈夫だよ。誰にも言わないよ」
「誰にも言わないとしても、君は知ってしまうわけだから」
「そんな難しい悩みなら、聞きたくないな」
「気分を悪くさせちゃったかな。ゴメン」
「いいよ。気にしないから」
 しかし、やっぱりきっと気分を害したのだ、どうしたら前のような関係に戻れるだろう、と新たな悩みが発生し、それを誰かに聞いてもらいたい……。

木目ってことは伝わるだろうか。


 

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