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書き捨ての好奇

そう思いたくないものも含め、付き合った男を思い出す。

小学生低学年の時、母が通っていた「ママさんバレー」(有志が集まって学校の体育館で休日の夜に開催される社会人スポーツのようなもの)に着いていき、待機中の2,3時間を持て余す子供たちは、自然と自分と同じ学校、同じ年の子とつるむしかなかった。一体なにで遊んでいたか具体的には思い出せない。別の団体の子供たちと遊んでいて生意気なガキを叱ったところ顰蹙を買った。普段は立ち入れない夜の学校というのに興奮していたのだと思う。探検ごっこのようなものに興じていた。古いマットの匂い、虫の死骸。

そこで仲良くしていたYという男の子がいたのだが、学校内でもコミュニケーションは自然と増えていき、プール裏で初めてキスというものをした。ときめきなんかじゃなく完全な好奇心だった。他人の鼻の下の匂いを嗅いだことなど人生の中でなかったのだから、当時のボキャブラリーで言えばめちゃくちゃビミョーであった。しかもYは直後舌まで突っ込んできたのだからなかなかのツワモノだ。母に、「Yぴー(母はそう呼んでいた)のどこが気に入ったの?」と問われた際、頭の形、と答えていた私は、めんどくさいから恋愛ということにしといてもらおうと彼の一番の特徴を惚れたポイントにしてしまえと片づけた。

男の子が好きだというよりも性行為への強い興味が幼い頃の私のストッパーを外してきた。


田舎の小中学生を野放しにしてはいけない。思えば皆が旺盛だった。私がキスをしたらしいと集まった女子たちで、キス再現ショーが開催されたりもした。役者はわたしとAちゃんという丸顔の美人の女の子。フレンチキスをして、外野が湧く。もっとこう唇がかぶさってた、と手で形を見せて、それをまた実践する。悲鳴とも歓声ともつかない女子たちの声。サルの宴会のようだった。小学校4年まではY君は不思議とモテていた。中学に入ると突然イケてないやつ扱いになった。女の子たちはみんなが好きな男の子を好きになる。ラブレター対決をし、競争が生まれ、いじめが横行する。体操服を八つ裂きにしたり、トイレの床を舐めさせたり、容赦のない仕打ちを横目に、Yくんは安パイだったと思う。

こうした諸行無常を目にして世の中の理不尽さを体得していくのかもしれない。ともかく、AちゃんとのキスはYくんとのファーストキスよりずっと楽しかった。それから10年経たぬうちに、Aちゃんはひとりで子供を産んだ。



親友の好きな人が私を好きになるのは悲しかった。私もその男の子のことを少なかれいいなと思っていたりするのだが、彼女を裏切ることをできないから煙に巻く。彼女は男子と交流が多いわけではないから私の絡む身近な男子を片っ端から好きだった。

22歳になってそのうちのひとりKから連絡がある。場所は忘れたが、海に近い旅館をとって一緒に泊まらないかというものだった。前にあった時、彼女とのデートではディズニーリゾートで20万くらいかけたと話していたから尋ねたら、「俺たちシークレットフレンドになろうよ」ということだった。どういう心持なのか、怖くて聞けなかった。丁重にお断りをした。

ぶっちゃけ小中時代では親も兄弟同士も仲が良く、憎いと思いながら一番好意を寄せていた男であったから、1回くらいヤッとけばよかった。

Kくんは今、介護士として働いているそうだ。



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