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6.モヤモヤの根源が少しずつ見えてくる

[これは全て私の過去の出来事です。]


夫の祖父が亡くなってから2年が経っていた。


夫は相変わらず毎週末競馬に夢中だ。

1レースに賭ける金額も大きくなっているようだが、趣味の範囲で収まっているので、特に干渉しなかった。




このころ私のお腹の中には小さな命が宿っていた。



仕事はそのまま続けており、あと半月働いて、産休に入る予定だった。

この日の朝、
私はいつものように仕事に行く準備をしていた。

夫は休日で、まだ寝室にいた。
今日は一日家に居ると言っていた。


「鍵は持たずに出かけるから、お願いします」


「行ってきます」

「いってらっしゃい」

寝室から夫の声が聞こえた。




その日は、朝からお腹が張っていた。

お腹を気にしながらも、職場に着き、午前の仕事をこなした。


昼休憩を終え、数時間が経ったころ、お腹の張りが強くなってきた。


いつもと違う感じがして、上司に相談し、早退することにした。

……

自宅最寄りの駅に到着し、念のため家に電話を入れてみる。

*この頃まだ携帯電話は一般的ではない*



「・・・・・・♪」

呼び出し音が鳴る。

「・・・・・・♪」

出ない。

もう一度かけてみる。

「・・・・・・♪」

やはり出ない。


もう一度

「・・・・・・♪」

30回ほど呼び出し音を鳴らしたが出ない。

トイレにでも入っているのだろうか、、、

とにかく座ろう。

公衆電話の横にある外のベンチに座り、時間をつぶす。

もう一度かけてみる

「・・・・・・♪」

出ない。

どうしよう・・・

寒い・・・

昨日まで心地よかった風が、今日はもの凄く冷たく感じる。

このまま家に帰っても家の近くには何もない。

身体がどんどん寒くなる。

今日に限って鍵を持たずに出てきてしまった。


どうしよう・・・


どうしよう・・・

とりあえず、混雑した近くのファーストフード店で、暖をとる事にした。

30分ほど時間をつぶし、再び電話をしてみる。


「・・・・・・♪」


「・・・・・・♪」


「・・・・・・♪」




「只今留守にしております・・・」


突然留守番電話に切り替わった。


もしもし私です!家にいますか?電話に出て下さい

「・・・・・・」

応答は無い。

しかたない、もう少し時間をつぶそう。


今度は、駅ビルの中のフードコートで暖をとる事にした。

ここで1時間ほど時間をつぶし、再び電話をかけてみる。


「・・・・・・♪」

「・・・・・・♪」

「只今留守にしております・・・」


また留守番電話だ。

家に居ないのか、、?

どんどんお腹が張ってくる。


横になりたい・・・。

コンビニに買い物にでも行っているのかもしれない。

とりあえず家の方へ歩いて行ってみよう。


歩き出すと、どんどん張りが強くなってきた。

駅に戻るにも中途半端な所まで歩いてきてしまった。

この辺りは住宅街で、休む場所など何処にもない。

とりあえず、家に帰ろう。

お腹を気にしながら、ゆっくりと歩き、ようやく家に辿り着いた。



『ピンポーン』

インターフォンを鳴らす。

「・・・・・・」


やはり居ないのか、、。


『ピンポーン』

もう一度鳴らしてみる。

やはり出ない。

どうしよう・・・



玄関ドアに耳を押し付け、中の様子をうかがう。

ん?

テレビの音が聞こえる。

『ピンポーン』 『ピンポーン』 『ピンポーン』

ドアを叩き、

「momoです!開けて!」

と、叫んだ。

しばらくすると


ガチャ

面倒くさそうに夫がドアを開けた。

「早かったんだ。おかえり。」


そう言うと、急いでリビングへ戻って行く。

その背中に向かって、私は先程までの事を話し始めた。



しかし、リビングに大音量で流れる競馬中継を見た時、

事の全てを察し、

それ以上話すことを諦めた。



そして、

「体調が悪いので、休みます」


それだけ言って、寝室で横になった。


その日の夜中


私は破水し、緊急入院することになる。






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