新規事業開発の成否を分けるポイントとは?大企業が躓く2つの壁

本気ファクトリー公式note編集部です。

終わりが見えない物価高や円安、自然災害、生成AIの登場、人口減少など…。多様性が叫ばれ、さまざまな要素が複雑に絡み合う現代において、世の中の変化は予測しにくくなっています。激動のこの現代で企業が生き残っていくためには、10年後、20年後を見据えた新規事業の開発が求められます。

それにも関わらず、大企業には、新規事業が立ち上がりにくい側面があります。資金面やブランド価値といった観点では後ろ盾が強いイメージがある大企業ですが、そのなかでも新規事業が生まれにくい原因は果たしてどこにあるのでしょうか?

今回は、大企業の新規事業開発にコンサルタントとして携わってきた弊社代表の畠山に、「大企業が新規事業開発に躓く理由」や、「企業内起業の成否を分けるポイント」を聞きました。



「企業内起業よりも、起業のほうが有利」は本当か?


ーー大企業における新規事業開発について教えてください。「企業内起業よりも、起業のほうが有利」と言われることがありますが、大企業内での新規事業開発は難易度が高いのでしょうか?

畠山:私は、企業内起業とゼロからの起業のどちらも経験があります。難易度で言えば、どちらも簡単なものではないと思います。しかし、それぞれの「難しさ」の種類が違います。

スタートアップの場合、最初は本当に何もありません。

まず、資金力がありません。創業のために貯めた個人の貯蓄なんて、すぐに無くなってしまいます。
次に、採用力もありません。活躍している優秀な人材に、まだ知名度も実績も無いスタートアップのベンチャーに転職してもらうには、途轍もない努力が必要です。
なにより、信頼がありません。資金を集めるにも、契約や取引を結んでいただくにも、人材を集めるにも、信頼は必要不可欠です。初めて会う人たちには、「自分は何者で、これから何をしていきたいのか、そしてそれは信用できるものなのか」を、誠意を持ってひとつひとつ伝えていく必要があります。

もちろん、事業に取り組む中で、徐々に資金も、人材も、信頼も増えていくことになりますが、最初は本当に何もないところからのスタートです。


ーーゼロからの起業と比較すると、大企業内の起業には「資金力」も「採用力(人材)」も「信頼」もありますね。

畠山:そうですね。起業家がアントレプレナーと呼ばれるのに対し、社内起業家はイントレプレナーと呼ばれたりしますが、このイントレプレナーは、自分の給与が保証された状態で、獲得できれば最初からさらに大きな予算を使うことができます。
社内には多くの優秀な人材がいますし、これまで培ってきた絶大な信頼(ブランド力)もあります。

このように、資源面では、資金力、人材・採用力、ブランド力を持っている大企業のほうが、圧倒的に起業に有利なはずなんです。

大企業が「新規事業開発」で躓く2つのポイント


ーーではなぜ、後ろ盾の強い大企業でも新規事業の開発は難しいのでしょうか?

畠山:企業文化などにも左右されるので一般解を提示することは難しいですが、大企業が新規事業開発で躓くポイントは大きく2つあると考えています。

一つ目は、既存事業の存在。
「既存事業のエースを新規事業開発に集中できるように社内調整するのは難しい」
「リスクを考えると、新規事業開発に予算を割くより、既存事業に再投資するほうがいいのでは?」
……など、既存事業の業績はそのままに、どれだけスムーズに新規事業開発に必要なリソースを割り当てることができるのかは大企業において非常に難しい問題です。

二つ目は、ブランド力の存在。
信頼は、得るのには時間がかかりますが、失うのは一瞬です。大企業はブランド力が高いゆえに、最初から高いサービスクオリティやコンプライアンス、セキュリティレベルが要求されることになります。
つまり、社内プロセスやルールに従いながら、新規事業開発を行わなければならない難しさがあるのです。

以上2点で躓くケースが非常に多いことが、「大企業における新規事業開発は難しい」と言われるゆえんです。

ーー盤石な基盤があるからこそ豊かな資源を持つ大企業ですが、それを守ろうとすることが新規事業開発の足止めになってしまうこともあるのですね。

畠山:逆に言うと、この問題を解決できれば圧倒的に有利な条件で戦えるということになります。
新規事業開発の責任者をされている方は、ソースの獲得が新規事業開発の最大の山場だと思って、取り組んでいただければと思います。
「どれだけスムーズに新規事業開発に必要なリソースを割り当てることができるか」が「新規事業を立ち上げることができる会社」になるための重要なピースの一つとなります。

社内起業家(イントレプレナー)に求められる素質とは


ーーいま新規事業開発の責任者へ向けたメッセージがありましたが、責任者、つまり社内起業家(イントレプレナー)に求められる素質はありますか?

畠山:「何かの業務や業界知識に精通している」、「社内外の人脈が豊富」など、あったほうが良い能力はたくさんあります。ですが一番は、「GRIT(やり抜く力)」ではないでしょうか。

GRITとは、「やり抜く力」、「粘る力」などと定義されている言葉です。『成功者の共通点は、IQでも才能でもなく、GRITだった』と語った本、アンジェラ・ダックワースの『やり抜く力 GRIT(グリット)――人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける』(ダイヤモンド社、2016年)が話題になりましたね。
私は、このGRITが、新規事業開発において最も重要な素質だと考えています。

ーーなぜ、社内起業家(イントレプレナー)にはGRIT(やり抜く力)が必要なのでしょうか?

畠山:新規事業開発とは、「どのような要素の組み合わせであれば事業が成立するかがわからない中、成立する組み合わせをひたすら探す取り組み」です。
「どのような顧客課題に取り組むか?」に始まり、ソリューションの形、価格設定、マーケティング手法、生産方法、知財、ファイナンス……など、要素それぞれにいくつもの論点があります。
無数にある課題の中から、解決策を考え、実行し、最適解を発見するまで、取り組み続けるしかありません。

しかも「新規事業の成功確率は千三つ」などと言われたりしています。
ですから、社内起業家(イントレプレナー)には、見つけ出すのが難しい最適解を、見つけられるまでやり続けられる能力(GRIT)が必要なのです。

ーー「既存事業」と「新規事業」とで、メンバーに求められる能力に違いがありそうですね。

畠山:そうなんです。既存事業と新規事業とで、それぞれ求められる能力は違います。
たとえば既存事業であれば、これまでのデータから「成果を出す方法」はある程度わかっていますので、「一定期間以内に成果の出る方法をどれだけ効率的に実行できたか」が成果に大きく影響しますよね。

一方、新規事業開発の場合は「成果の出る方法」がわからないので、この状況で「効率性」を高めても、成果が出るかどうかはわかりません。
と言うよりも、「何をもって効率的と言えるのかすら分からない状況」といったほうが正しいでしょう。
そのため、既存事業においては「ミスなく、円滑に運営できる人材」が優秀だと評価される傾向にあります。一方、どれだけ試行回数を増やせるかどうかが重要な新規事業においては、「ミスを恐れずに、取り組み続けられる人材」が適任だといえるでしょう。

大企業だからこそ、新規事業開発が成功するまで続けられる


ーー最後に、大企業が新規事業開発(企業内起業)を成功させる上で大切なポイントがあったら教えてください。

畠山:今回お伝えした「既存事業」と「新規事業」それぞれの特性の違いを理解した上で、「新規事業を立ち上げられる環境」をいかに整えられるかどうかだと思います。
1年程度の短い期間設定で成果を出すことが要求しがちだったり、減点方式での評価に慣れていたりする大企業では、難しさを感じる場面もあるかもしれません。

ですが、「盤石な基盤がある(倒産の可能性が低い)からこそ、試行錯誤を続けられる」という点は、大企業ならではの圧倒的に有利な点です。
「自説にこだわらず成功するまで試行錯誤を続けられる」ことが、新規事業開発の成否をわける重要なポイントのひとつとなりますので、ぜひ意識して取り組んでいただきたいと思います。

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