見出し画像

食べることとその周辺~『ごはん食べにおいでよ』を読んで~

明日は節分。
占術などでは2月3日からが新年となる場合も多く、ということは、今日は大晦日?
こんにちは、丁稚のハニーです。
今月第一週は久しぶり本の感想回!
2023年も、どうぞよろしくお願いします。

本日ご紹介したいのは2022年10月に発行された『ごはん食べにおいでよ』
著者は児童/青春小説の名手であり、一方ででろんでろんな「女」の姿を書かせたら右に出るものは居ない!岡山出身アメリカ在住の小手鞠るい先生です。
(そういえば、同じく「女」の執着をこれでもかと描く岩井志摩子先生も岡山のご出身です。岡山のポテンシャルが非常に気になる。)
わたしが初めて読んだ小手鞠作品は『女性失格』だったのですが、(これはこれですごい作品なのでぜひ読んで頂きたい!)その『女性失格』に出会ったのは、Twitterがきっかけでした。TLに装丁画像が流れてきまして、そのあまりの生々しさ(とはいえモチーフは植物)に即Amazonで予約、読んで悶絶したという...あそこまで「主人公の不幸」を願った作品は初めてと言っていいかもしれない。その感情が最後の最後でひっくり返されてしまい、ラストは呼吸をするのも忘れるレベルでした。ちなみに、『女性失格』を、わたしは持病の関係で婦人科病棟の待合室で読んでいたのだけれども、あの本を読むには最高にして最適のシチュエーションだった。皆様も婦人科に行く際には『女性失格』(著:小手鞠るい)を忘れずにね!その後、『情事と事情』も読んだのですが、この時は人間ドック絡みで受けた精密検査の待ち時間でした。小手鞠先生と院内待合室は相性が良い。

さて、本題の『ごはん食べにおいでよ』ですが、こちらは前掲2冊とは異なり、青春小説です。そして主人公は男子中学生。この作品では楽しく父子家庭生活を送る主人公と、その周辺人物を通して「ごはん」を中心に、家族や命、動物愛護等のテーマが描かれています。所謂SDGsを身近な問題として考えるにも最適な一冊、個人的には夏の読書感想文コンクール課題図書に選ばれそうな気がします。
わたしがこの本を好きな理由、そして皆様にお勧めしたい理由ですが、

  1. 出てくるごはんが全部美味しそう!

  2. 主人公はベジタリアン(卵・牛乳・魚は食べているので正確にはラクトオボベジタリアン)という設定ながら、その主張が受け入れやすい

  3. 全体に漂う愛がとてもやわらかで博愛的

  4. 何より、主人公のキャラクターがすてき!
    の4点が主にあげられます。(ほんとはもっともっとあるけれど)
    以下、順にご紹介していきますね。
    1.出てくるごはんが全部美味しそう!
    これはもうこのまんま!一部のメニューは作中に作り方が出てくるし、巻末にもレシピが4件載っています。続き読みたい!と、早く作って食べたい!の狭間で揺れる乙女心(?)をぜひ体感して頂きたい。難しいレシピではないので、主人公と同じ中学生くらいであれば、1人でも作れる内容となっています。
    2.ベジタリアンという設定と主張が受け入れやすい
    丁稚は動物大好き、かつ、ヨギ(ヨガする人)でもあるので、昔ヴィーガンだったことがあるのだが、色々と疲れてしまって続かなかったのよね…その「疲れ」の一つが「主張の強さ」にありました。丁稚がヴィーガンだった当時(15年くらい前)、ベジタリアン=ヴィーガン(動物性を全く取らない人)くらいの認識だったし、人数も少ない。人数が少ないから対応している商品も少なくて(調味料や食材など)、一方で少数精鋭だったからこそ対応レシピの難易度が非常に高かった。そして、主張が強かった。ヴィーガンこそが善であり、それ以外は悪である。そんな意識が強かったように思います。そんな思い出があるものだから、本作の主人公がベジタリアンであることへの若干の忌避感、平たく言えば、「やだなぁ」があったのね。しかし、今は令和!しかも書き手は小手鞠先生!解りやすく押し付けがましい「正論」など出るはずもなく、ごくさらっと、「向き合い方」の一つとして提示されただけという鮮やかさ。ここまで安心感のあるベジタリアン主人公、史上初では?
    ベジタリアンという人たちへの理解を進めるためにも、読んでおいて損はない一冊です
    3.全体に漂う愛がとてもやわらかで博愛的
    小手鞠先生の作品群をひと言で言うならば、博愛、だと個人的に思っている丁稚なのだけど、とくにこの本に漂う愛のやわらかさはもう最高!毛布のようなあたたかく、軽く、やさしい愛がすべてのページに漂っていて、この愛を吸うだけで確実に寿命が延びる。
    「優しい気持ちになれる本」というキャッチコピーをたまに書店で目にすることがあるけれど、この本はどちらかといえば「全ての愛に気づける本」と言ってもいいのかも。ある意味で聖書ですね。はい、これは聖書です(真顔)。表現としては真逆なところもあるけれど、中島らもの『今夜すべてのバーで』に通じる博愛をわたしは感じました。『今夜すべてのバーで』もとてもすてきで中島らも的な救いに満ちた本なので、ぜひ読んでみてください。
    4.主人公のキャラクターが好き!
    好き!特に秘すが、まず名前がいい!
    そして視点の持ち方が好き!
    わたしの中で小説の男子主人公ナンバーワンは『ぼくは勉強ができない』(著:山田詠美様)の秀美くんなのだが、本作の主人公も秀美くんと同じようなクレバーさと優しさ、そして少年らしい信念を持っている。彼のクレバーさも、優しさも、信念も「少年」というものにはつきものなのかもしれない(そしてそれはいつか失われる)けれど、彼らの中の根本的な「世界の見方」が好きで好きで仕方がない。彼らの底には一抹の寂しさと諦念があり、そのことが世界の解像度を上げている。(この解像度を限界まで強くしてハード面に突っ走ったのが以前ご紹介した『むき出し』(著:兼近大樹)の石山くん)
    「少年らしさ」というものは、時が満ちた時にあるいは消えてしまうかもしれない。それでもきっと、その根っこに住まう寂寥と諦念があるかぎり、世界を眺めるレンズは曇りきることができないだろう。そう思わせてくれる、素敵な主人公です。あなたも絶対大好きになってくれるはず!

さて、ここまで二千字に渡り長々と『ごはん食べにおいでよ』への愛を叫んできたのですが、
ごはんで繋がる人といのちを描いた青春小説、もう愛さずにはいられない!みなさま、是非、読んでみてください!

それでは、今回もありがとうございました♪

この記事が参加している募集

読書感想文

よろしければサポートお願いします。頂いたサポートは子ども食堂の活動資金として、食事の提供のほか学習支援やパントリー運営、遠足等こども達とのイベント費用に使わせていただきます。