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「片付け番組」を真に受けない(ようにしてもらえると嬉しいなぁという話)

先日とあるお片付けの番組を見ました。
お掃除好き芸人さんが、汚部屋芸人さんの家をきれいにするという、よくあるものです。でも好きだからなんだかんだで観ちゃう。

その番組冒頭で、お掃除好き芸人さんの一人が仰いました。

「人の家のモノを片っ端からゴミ袋に突っ込んでいくのがすごい快感だし、それでお金がもらえるなんて最高の仕事だ!」

ええっと。
もし、本業のお片付けがこういう仕事だと思われたらちょっとかなり困るなぁ、と思ったので注釈を入れたくなった次第です。

■何が一番大変かって、そりゃぁ

片付けのお仕事をする人なら共感いただけると思うのですが、この仕事をやってて何が大変かって、「我が家には無駄なものなどありません。だから、何も捨てずに片付けてください」というご依頼
もちろん、その「無駄なものなどない」「全部必要」というお客様の固定観念を徐々に崩していきつつ、実際にお客様に一品一品を見極めていただき、要・不要の判断の仕方や、決断後のごみ処分の仕方に至るまで懇切丁寧にお伝えしていくのが我々の仕事なのですが。

テレビ番組のように最初から「捨てましょう! 捨てましょう!」で始まる話はなかなかないのです。
そもそも、最初から捨てる気満々な人なら、こちらに仕事の依頼も来ないですしね…。

■他人のモノは勝手に捨てられない

今回拝見した番組では、ご依頼主から「アニメグッズ以外は全部捨てていい」というオーダーが出ていました。これなら誰にでもできそう、と思われるのではないかと思います。
ですが、実際に番組では、床に落ちていた洋服を、要るものと要らないものに分ける作業なども映っていました。最初のオーダーとは違っているわけです。

このように、お客様の当初のオーダーは作業過程でどんどんと揺らいでいきます。そうならないように事前の入念な打ち合わせをしないといけない、というのもこの仕事の大変な点です。
また、揺らぎ始めるオーダーに随時対応していく臨機応変さが必要です。
これを解決するには結局、「すべての品物をお客様自身にチェックしてもらう」以外に方法はありません。

例えば床に落ちているぐちゃぐちゃなレシート一枚でも、もしかしたら大切な経費の証明かもしれません。なんかよく分からない折り紙の塊も、もしかしたら「子供が生まれて初めてママに贈ってくれたプレゼント」かもしれないのです。あとになって「あれは大事なものだったのに!」と言われると、お互い悲しいものです。
片付けとはそういう地道できつい仕事です。なんでも捨てればいいのなら、私も毎度こんなに神経をとがらせずに済むのですが…。

■お客様の精神状況をコントロールするのも仕事

おそらく普通の方は、「これだけのモノの移動をさせるのって大変だろうな」とお考えだと思います。ですが実際には、肉体労働自体はさほど問題ではない…と思います(もちろんお客様の体調なども考慮に入れますが)。
それよりも、ゴミの山を眺めて「もうどうしようもない」「私には無理」と諦めきっているお客様を、精神的に支えることの方が大変。
激励し、時には喝を入れ、適度なところで休憩を入れ、次に繋げるように希望を持たせる。
そのために時には雑談をはさんだりもします。肉体労働でしたらこちらが肩代わりしてあげられます。とにかくお客様に「ヤル気」になってもらうのが、すごくテクニックが要ります。

また、「ごみをゴミ袋にガンガン入れていくのが快感」というのは、多少片付けが進んでいくと誰しも味わう感覚です。ランナーズ・ハイならぬ、「片付け・ハイ」状態です。
ですが、ここでも我々はお客様と一緒になって「ガンガン捨てちゃいましょう!」なんて絶対に言えません。ハイになってる状況は、結構理性が吹っ飛んでいる状況とも言えるからです。
ハイになって「あれも!これも!ぜーんぶ捨てちゃう!」という人の多くが、あとで「リバウンド」を経験します。
何でも捨てりゃいいってわけじゃないのです。

「どうして私はこんなものを買ったのか?」を根本まで見つめなおしてもらい、今後の購買計画まで見直せるようにする。それこそが片付けの本意であり極意です。それをせずにやみくもに捨てていくと、同じ愚行を繰り返してまた片付け屋に依頼しないといけなくなりますから。

そうならないように、お客様のハイ状態をもコントロールしてあげる必要が出てきます。そういう意味で「整理収納アドバイザー」は、「アドバイザー」と呼ばれるのだろうと思っています。我々はあくまでアドバイスする立場にしかなく、片付けの主役は常にお客様ご自身なのです。

■お客様不在で片付けはできない

テレビ番組らしい構成だなぁ~といつも思うのですが、必ず作業の途中で依頼主が「仕事があるから私は抜けます」といって外出なさいますよね。
汚かった部屋がきれいになった瞬間を、本人に見てもらって「こんなになるなんて驚き!」という画像を最後に撮らなければならないからです。

ですが、実際の片づけの現場でお客様が「ちょっと用事があるので出かけてきます」といわれると、そこで作業は中断です。お客様に無断で物を捨てたりすることは 絶 対 に しません。
「あとはこの棚のものを全部捨ててくれればいいだけですから!」とか言われても、お断りせざるを得ません。
経験から言って、「ここのものは全部捨てていいから!」と仰る方に限って、後日「〇〇が見当たらない」「どうして勝手に捨てたんですか」とお問い合わせが来ます。もちろん、「お客様がそう仰ったから」と反論はできますが、気まずい気持ちが残るようでは片付けとはいいがたいと私は思っています。

■テレビ番組を真似て、軽々しく他人の家の片づけをする人が出ませんように…

こういう番組を見て「片付けくらいなら私にもできる! 〇〇さんの家の片づけをしてあげよう!」みたいに軽く思われると、とんでもないトラブルの元です。
また、それは同居の家族相手でも同じです。勝手に他人のモノを捨てるのは、身内でも絶対NG。
テレビ番組は、あくまでも「作られたエンターテインメント」だということを、頭の片隅にでも置いておいてほしいと思います。

片付けというのは思っている以上に「精神鍛錬の場」です。過去の自分と向き合い、反省し、未来に活かすための修行のような場所です。物を捨てるのにはかなりの罪悪感も伴います。要・不要の判断をし続けるのは2時間が限度です。
他人が軽々しい気持ちで踏み荒らしていいところではない、というのを、私もいつも心がけています。

ご存じかと思いますが、いま流行りの「断捨離」という言葉はヨガの思想をもとに作られた言葉。単に「物を捨てる」という「作業」のことではなく、哲学的な意図のある言葉です。
(正しい意味での)断捨離の向こうには、本当に快適な生活が待っています。ぜひ、片付けは実践していただきたい!
ですが、くれぐれも、テレビの真似はなさらないように…


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