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広島は選手も県民も出て行ってしまう!FAした西川龍馬と来てくれた秋山翔吾で理由を考えてみた。

広島は出て行く人が多い。

広島東洋カープはフリーエージェント(FA)移籍でこれまでに10人を送り出している。
その度に、去りゆく主力の背中に涙を流し、人的補償の選手を応援して悲しみを紛らわせて来た。

それだけではない。
広島県民も流出しているのだ。
総務省の調査結果によると、住み着く人よりも出て行く人が多く1万1409人の「転出超過」、ぶっちぎりで全国ワースト1位だった。
広島県民だから選手は出て行くのか、なぜ県民は出て行くのか。
広島出身で出て行った元県民として、カープと県民の流出を考えてみる事にした。

まずは、昨年去った選手で考えてみよう。

たぐいまれなバットコントロールの西川龍馬。
プロ8年目の昨季もヒットを量産、打率.305でリーグ2位の成績を残した。
抜けた穴は大きく、今季、カープは貧打で苦しんでいる。
FA権行使の理由は「挑戦したいから」で、「セ・リーグ移籍では意味がない、行くならパ・リーグ」と答えている。オリックス・バファローズに決まった後も、ファン感謝祭や地元広島のテレビ番組に出演。広島への感謝と愛を語り、他県に就職する親友を見送る様な気持ちにさせてくれた。
西川は広島を愛しながら、なぜ出て行ったのか。

広島県民の「瀬戸内気質」である。
瀬戸内の温暖な気候と穏やかな海は、人を陽気で楽観的にさせ夢を抱きやすくするそうだ。かつての広島が移民、海外移住者が全国1位だったのも、「瀬戸内気質」が一因と言われている。

カープの若手が暮らす「大野寮」は、目の前が海だ。
毎日、倒れるまでバットを振って走り込み、2軍の試合は秘境、由宇練習場で野球しかない。そんな中で、青く広い空と緑の島々が浮かぶ瀬戸内の海を見ると、世界は果てなく美しく、希望に満ちていると感じるのだ。
西川は野球をする為に15歳で親元の大阪を離れ、福井の高校に進学。卒業後は愛知で社会人チームに入り、プロとなり広島へやって来た。
更なる高みを目指し、新天地に向かうのは当然だ。

次に広島はお店や娯楽施設が選べない。
広島県の8割は山。カープ本拠地がある海沿いの広島市に人口の4割が住み、平地が少なくお店や娯楽施設は市の中心部に集中している。
西川は後輩投手の森下暢仁から「ヴィトン先輩」と呼ばれる、個性的なオシャレ番長だ。広島は大概の物は揃うが、街が狭く“○○ならあそこ”と決まってしまう。西川を満足させるほどの選択肢はない上に、知り合いにバッタリ会ってしまう事も多い。
カープの選手は広島では人気があるので、お出掛けはちょっと大変かもしれない。

それでも西川は1年残留をしている。
理由は監督に就任した新井貴浩だ。
新井監督は広島出身、ドラフト6位でカープに入団、阪神へFA移籍。再び戻ると黒田博樹球団アドバイザーと共に三連覇の立役者となり、当時ルーキーだった西川は強く影響を受けている。
西川には再度の残留を望みながらも、自身の「瀬戸内気質」が影響したのだろう。
最後は「彼の野球人生」と背中を押している。
「カープに入って本当に良かった」
そう言って、西川は笑顔で広島を出て行った。

親しき人々に見送られ、夢を抱き出て行く事は素晴らしいと思えて来た。
これでは3年以内にFA権取得が見込まれる、侍ジャパン選出の坂倉将吾、左のエース床田寛樹も出て行ってしまう。
ならば広島に来てくれた人で考えてみよう。

稀代のヒットメーカー秋山翔吾。
日本プロ野球でのシーズン最多安打、216本の記録を持つ選手だ。
カープは基本的にFA宣言をした選手は獲らない。
若手を育てて戦うのがチームカラーだが、単に資金に余裕がないのが大きい。
秋山の様に海外FAからメジャーリーグに渡った選手は、過去に在籍しない限り考えられなかった。
2022年シーズン中、カープ首脳陣は主砲・鈴木誠也が抜けた穴を埋められず、秋山の自由契約の一報を聞き、獲得に動いた。実績だけではなく、真面目でストイックな人柄も若手の手本になると判断したからだ。
秋山に獲得意欲を示したのは他に2球団。
9年在籍した古巣・埼玉西武ライオンズ。資金豊かな福岡ソフトバンクホークスは提示額がカープの2倍だった。

そんな中、秋山はカープを選んだ。
交渉の席で鈴木清明球団本部長は金額で勝ち目はないので、条件の話は5分程度。
ひたすら熱意を伝え続けた中に、秋山が心に秘めていた目標を口にした。
「2000本安打まで、あと500何本だったよね」。
この言葉が秋山の心を動かした。
連絡を直接受けた鈴木球団本部長でさえ、「マジ!?」と返してしまう出来事だった。

更に、カープ関東人の活躍も大きい。
侍ジャパンで親交のあった菊池涼介、會澤翼、田中広輔だ。彼らは秋山に連絡をとり後押し、會澤は秋山から「野球観があうアツ(會澤)がいたから」とまで言われている。
秋山は神奈川出身、菊池は東京、會澤は茨城で田中も神奈川である。
同じ生活圏、関東出身の彼らの言葉だからこそ心に響き、広島と言う地方で野球に励み、家族と生活する上での善し悪しを含めたビジョンが描けたのだ。
先人がいるのは何よりも心強かったに違いない。

選手や球団だけではない。
地元ファンは秋山の獲得を聞いたとき、歓喜に沸いた。
広島の商店街、本通りの理髪店「ジライヤ」は移籍が発表された後、インスタグラムを更新した。
「秋山選手のヘアカット3年間無料にします!応援しとるけえね」
広島に来てくれる事に感謝し、3年契約にちなんでの事だった。

「応援してくれる気持ちが嬉しかった」
後に秋山は理髪店を訪れ、店主に伝えている。
広島で“秋山推し”が増えたのは言うまでもない。
秋山はあるインタビューで答えた。
「縁のなかった広島で自身初のセ・リーグでプレーをする事は、メジャー挑戦の続きの様だ」

夢や高みを目指して去る者があれば、希望を抱き、人々に導かれやって来る選手もいる。
マンパワーで広島は勝てる。


調子に乗って他球団も調べてみた。

埼玉西武ライオンズ。
本拠地のある埼玉県は転入増、県民は増えているのに、FA移籍で21人が流出していた。

翔んで埼玉、もちろん12球団でワースト。

現在、筆者は埼玉県民で西武線沿線に住んでいる。
足元の闇はもっと深いかも。


2024年4月執筆 
~校内選考・外部公開まで~


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