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Labの男54

 Labの男54

なんの気なしに同行したマコちゃん
流石に玄白の恩師、一筋縄では会えないのね。
気楽に同窓会感覚で来たマコ
後悔先に立たず。

「私の想定してたのとは大きく
 違い過ぎない?だいたい知り合いに
 重罪人はいないものだし
 そもそも実験オブジェクトってナニ?」

厳重に封鎖されたエントランス
長く続く通路には2人の白衣の男が待っていた。
マコちゃんの方を見て玄白
 「大体の保管保全財団オブジェクトと
  接するのは2人以上でないと会えないのよね」

あまりにも厳重な施設に言葉が入ってこない。
近づいてくる2人の白衣の男のひとり
「今日はいつもよりも早い面会ですね。
 それじゃ行きましょうか。彼女さんですか?」

 「はははっ、彼女もナニもただの同僚ですよ。
  むしろ若い女性は苦手なんです。
  もの好きというかなんと言うか
  勝手について来たんですよ」

「あいかわらす毒舌ですね。
 こんな可愛いヒトに失礼ですよ」

 「ホントよ!ちゃんとオンナとして見てるのか
  おいっ馬鹿モジャモジャ!」

「いつもこんな感じなんですよ。
 あまり気になさらないでいいですよ」

 「おいっモジャ公〜!ちゃんと聞いてるのか!」

「おっと、こちらの方も毒舌なんですね」

いくつもの扉が約5M間隔に配置されている。
壁には扉ごとに
バイオハザードマークの付いた
クランケ-〇〇と
書かれた表札のようなモノが付けてある。
施設自体のポリシーとしては
危険オブジェクトになればなるほど
さらに地下に幽閉されるのだが
霞目博士には意識があり
人としてコミュニケーションが可能な為
同フロアーに監禁されている。

  Kranke-025    貪欲な口 ヒト型
  2M以上の接近を禁ず
  オブジェクトクラス 「重体」


オブジェクトクラスとは
つまるところオブジェクトの
「安全性」ではなく「制御可能性」を
端的に表したものだと見なすのが正確だろう。

主要なオブジェクトクラス

 「重症」【重篤より緊急性は低いが危険な症状】
   危険度 中〜高
  しっかり収容されていればsafe

 「重体」【病気や怪我が重く危険な状態】
   危険度 高
  大概のオブジェクトはこのクラス

 「重篤」【命に係る症状で切迫している状態】
   危険度 超高
  3重分類で最高の厄介度。
  収容難度が著しく高い。
  ちょっとしたことですぐ逃げられる。
  常に目の届くところにないと
  なにしでかすかわからない
  あるいはそもそも収容が物理的に不可能
  などといったオブジェクト。

 「昏睡」【植物状態、回復の見込みは薄い】
   危険度 不明 
  状態が分からないが安定
  無力化されたオブジェクト
  つまり壊れたり異常性を喪失したり
  生物であれば死んだりした検体に
  与えられるオブジェクトクラス。
  あくまで「元保管保全対象」だった以上
  いつか異常性が戻る可能性もあるため
  念の為に報告書を残す、というものである。

 「アンプル」【気付け剤などの薬液が密閉
        されたガラス製のバイアル】
   危険度 超高
  アンチオブジェクトという別名もある
  このクラスは
  「重篤のような異常存在に対して
   それを無効化することができる」という
  「チートにはチートで対抗だ!」
  薬品を注射器に注入してインジェクション
  してしまえば!という代物。
  実際に薬品ではないのだが
  他のオブジェクトをぶつけるという意味で
  財団の切札であり
  故に財団は最高機密に指定しているが
  財団としてもあんまり頼りたくはない存在。
      仕方なく使用を認められたもの。

 「落命」【死亡した状態】
   危険度 極高 
  状態が分からないかつ、お手上げ状態
  財団の敗北宣言を象徴する
  オブジェクトクラス。
  財団のポリシーたる
  「確保、保護、収容」の全てが不可能であり
  かつ世界の終焉に直結しかねない
  オブジェクト。

 「健常」【異常状態が見受けられない】
   危険度 歪高
  収容は可能なものの、何らかの理由により
   「財団が収容を選ばなかった」
  アノマリーに対して適用される。
  財団世界の人々がそれを「常識」として
  認識してしまっていたり収容そのものが
  アノマリーの危険度を上げたりする場合に
  付与される。

の7つが属する。
財団初期の出資者が医療関係から由来
最初の3つに大抵はオブジェクトクラスに
分類され「3重分類」と呼ばれる。
保管保全財団の基本ポリシーは
「確保・収容し保護すること」であるため
財団自らがオブジェクトを
破壊しようとすることは普通はない。

ほどなくしてKranke- 025の看板の前に到着。
トビラ横にあるカードリーダーに研究員が
セキュリティーカードをかざすと ピーッ
扉が開く。広く間取られた空間の中央に
ライティングされた立方体が
ドンと置かれている。5M×5Mの立方体は
中が丸見えの70㎝の分厚さの強化プラスチックに
覆われている。
ちょうどひっくり返した水槽に入れられてる状態
中でパソコンを操作している手を止めて博士が
こちらを見る。とてもじいさんには見えない
40代の黒髪の男がそこにいる。
玄白とは正反対のストレートの
ビートルズカットに白衣
よく見れば玄白と同じ黒縁メガネをかけている。

 「やぁ、久しぶりだね。野口くん!
  横の淑女はパートナーかね?
  隅におけないねぇ」

  「ご無沙汰してます博士。
   隣のヒトは野次馬なんで
   気にしないで下さい。
   同僚なだけなんで…」

 「おいおい!ちゃんと紹介しなさいよ!
  モジャ公っ!」

 「初めましてっ 牧村 眞子です」ウィンク

警戒心から玄白の袖を掴んで離さなかったが
持っていた袖を離してすぐさまモフモフ頭に
空手チョップをお見舞いするマコ
小声で玄白に話す。
 「羊たちの沈黙で見たことあるわ。
  完全にシリアルキラー扱いの
  レクター霞目博士じゃない」

  「仕方ないよ、
   だから2人以上での面会が
   義務付けられてるんだよ。
   それだけ凶暴なんだから」

 「博士っ!いつものお土産です」

紙袋を持った手を博士に見えるように
ブンブン振る玄白。
そのまま紙袋片手に
立方体の横にある仮設階段を駆け上って
上部、真ん中にある投入窓口へ。
研究員がスタッフに合図を送る。
窓が開くとその中へ紙袋の肉塊を落とす玄白。
白衣を脱いだランニングシャツ一丁の博士。
不思議な表情のマコ「なんで脱ぐの?」
その答えを見せつけるようにざわめく肉体、
わずかな血の匂いを嗅ぎつけ
沸々と煮えたったような皮膚がざわめき始め
あらぬ所が脈打ち上下している。
 「そうそう!博士に目薬を持って来たんだった。
  コレも入れていいですか?」

  「最近疲れ目がひどくて頼んでたんだよ。
   それくらいはいいかね?」

研究員は、仕方なしの表情で許可する。
キラキラとエメラルドグリーンに輝いた点眼薬を
落としたと同時に霞目博士は
それをキャッチする仕草で
手の平に隠せる位のサイズ
フィルムケースのようなモノを上に投げた。
研究員は気がついていない。
玄白は、しっかりキャッチする。
投入口が自動的に閉まるまで玄白の横にいる
研究員は目を離さない。
玄白の握る何かのケースの事には全く
気がついてない。
しっかりと手にした円筒のケースをポケットへ。
階段を降りていく。

 「だいぶと手なずけれるようには、
  なったんだけどね、もう限界だ」

マコは目の当たりにする光景に「うわぁっ!」
思わず声がもれてしまっている。
すると博士の左手はうねうねと動きだし
あらぬ方向に伸びたかと思うと大きな口となり
紙袋のまま丸ごと肉塊をほうばった。
ブツを身近に確保したところで
三つどもえとなって乱暴な口がモシャもしゃと
咀嚼音をたてて空腹を満たしている。

 「コイツのせいで
  ボクの方も血の匂いには敏感になってね。
  牧村くん、あまりボクに近づかない方が
  いいよ。月経周期なんでしょ?
  コイツがまだ荒ぶってるから分かるんだ」

「そうなの?」とマコの方を見る玄白
頷くマコ、顔色がみるみる白くなっている。

作り笑いが痛々しい霞目博士
 「女性がいるからもう少しお上品に
  させたかったんだけどね。
  ちょっと抑えが効かなかったね」

 「今のところプラスチック素材で遮断すると
  反応が鈍くなるのはわかって来たんだよ。
  だから僕の周りは水槽みたいに覆われている」

実験体オブジェクトである霞目 権三を
まじまじと目の当たりにする2人。
食事を終えたのか博士は白衣を手にして
袖に手を通しだした。
ランニングシャツで、白衣を脱いだ理由が
身震いするほど理解できたマコ。
服を整え2人の前にあらためて立つ博士
気のせいか、食事の後にさらに若返っている。
あらためて2人の顔を観察する霞目博士。
ふたりがよく見えるようになっている様だ。
 「70㎝の厚さからでも2人の表情が
  ハッキリと分かるくらい見えるよ。
  肉が新鮮だったんだろうね。
  効果てきめんだね」

 「肉食はエナジーを持て余すから
  ボクは粗食にしているんだけど
  野口くんは、僕の生態が知りたいから
  定期的に肉を持ってくるんだよ」

  「なに言ってるんですか!
   ボクは博士の体の事を思って
   持ってきてるんですよ」

 「ホントかい?実験体と思ってるクセにぃ〜」

  「博士も冗談キツいなぁ〜」

場の空気を温める2人に
マコは優しさを感じるのであった。

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