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Labの男61

 Labの男61

無謀なチャレンジャーは崩れ去った。
自身の名を上げたかった、箔をつけたい
ただの若気のいたり道場破りは
不発に終わった。
アイアン来栖メイデン京子の
戦慄の看板は伊達じゃない。
何事もなかったように通り過ぎていく来栖。

明智
「よかった。ことを荒立てずに済みそうだ」
万次郎
 「あの~明智さん?ジェイソン楠木が入った
  建物から男達が出てきてません?」

「う~ん、であえ!であえ!ってな具合に
 なっちゃってるね。
 おうおうっ時代劇よろしくの大立ち回りに
 なりかけてるじゃないの!参ったねぇ」

来栖は振り返り不機嫌な唇の片方が上がっている。

 「メイデンさんやる気じゃないですか?
  ちょっと笑ってますよ明智さん
  どうしましょう?」

「も~っ 何でそうなるんだ
 万次郎!まだだステイだ、早まるな!
 あの人数なら彼女は数秒でノックアウトできる」

「そう! 万次郎っ!
 あの会社の玄関口からは目を離すなよ
 ジェイソン楠木が出てくるかもしれない!」

 「わかりました!」

足で地面を確認する様にゆっくりと歩みを進め
しっかりと全方位を目測している来栖
アイアン来栖の能力は 身識【しんしき】
異常な身体能力の向上だ。
が、彼女曰く
身体能力UPはオマケだそうだ。
身識【しんしき】の真骨頂は
「激身体感覚」にある。
万物と言われる生きとし生けるもの全ては
ツブ【素粒子】で出来ている。
ただでさえ達人の来栖
粒子すら圧として感じ
気体で充満された空間をあたかも
水中を泳ぐ身体感覚に等しくなる。
攻撃が届く前に空気中のツブを押しのけ
船が航行する様に波の対流を
気体の対流を肌感で温度すら感じとる。
身体感覚が研ぎ澄まされ空気の結界を張る
その代償は動きに支障が出そうだが
それを上回るほどの体術の達人 アイアン来栖
分かっても避けれなければ意味がない。
「激身体感覚」の使用中は
恐ろしく体が重くなるそうだ。
それすら跳ねのける技術の結晶 集約された体術
磨き上げた鍛錬の到達点がサポートする。
まるで、止まった時の中を
「激身体感覚」空間で動くことを可能にする。
集中深度がさらに高まれば
いずれ経験できると
来栖師範は言っていたが
万次郎は、まだ体感したことが無い。

退屈は、しのげそうだとばかり
不機嫌な唇の片方が上がり不適な表情
 「だれか?タバコもってないか?
  ケムリが出りゃ~なんでもいいんだよ」

スーツの男達は来栖を囲むと同時に襲いかかる。
後方から空気を切り裂いて
真っ直ぐ推進してくる感覚!
コレに反応プラス頭を傾ける瞬発力
この間秒もあくびくらいにスローだ。
振り向きざまに
避けると同時に半身をひる返し
走るナイフを右手でガッチリキャッチ。
逆手で取ったナイフを
その勢いで回転、振りかぶって握ったナイフを
あっさり投げ返す。
辺りにいた男の太ももにブッ刺さっている。
刺さって初めて気がついたように
うめき声を上げている。

「いいぜ〜ぇ その躊躇のなさ
 真っすぐで誠実に感じるぜぇ〜」

嬉しそうに屈強な男達をちぎっては投げ
殴りまわしている。
明智
【それにしてもあの会社
 やましいモノ隠してるんじゃないか?
 反応が少し過剰だ】

 キキキィ ギギギィ キキィキギギィ

んっ?万次郎に何とか聴こえるボリューム。
ジェイソン楠木が入っていった
アンティークなビルディングから聴こえる。
どうやら
建物の上方から音が響いているようだ。
来栖の特訓の甲斐もあって
一旦、意識のフォーカスを散らし
感じるフィールドを広げる。
以前ではコントロールがままならなかった
意識を駆使し
漠然とした違和感や環境の変化を受信
気付けるようになっている。
感覚のフォーカス拡散
広げてから違和感へとフォーカス先を絞る。
どうも屋上にある貯水槽から
音がしているようだ。 

 ギギッ ギ キキィッ
    ギゴギギッ ギキキィ

規則性のない不協和音が重なって聴こえる。
よく見ると屋上に貯水槽は2つあり
そこが音の出どころのようだ。
貯水槽には後から増設されたであろう
バルブが何本も繋がっている。
不自然で明らかにイビツだ。
異変には、まだ誰も気が付いてないようだ。
さらにフォーカスを絞る。音の違いが分かり
軋む音は1つの貯水槽につき2つずつ音がしていて
計4つの不協和音を感じる。

貯水槽を支える柱が4本ずつあり
軋み少しずつ、よりによって

「2つ共傾いてきている!うそだろっ!」

嬉しそうに一方的に大立ち回りの来栖に

腹の底から万次郎
 「来栖さんっっ!上ぇぇ〜〜〜っ!」

周りの建物に比べると控えめな4、5階建てのビル
貯水槽は、あっという間に落下しそうだ。
それも表通り方向に。
よりによって、明智の目前には
犬を連れて散歩する女性が歩いている。

来栖 「んっ?ジョンか!?」

その声に反応してリードを振り切って
犬が来栖めがけて一目散に走っていく。

女性 「ダメよ!ジョン!そっち行っちゃあ!」

来栖は上方の迫りくるダブル貯水槽を目測
脳内電気信号インパルス
電光石火とはこの事、一目散にすぐさま走り出す。
犬は飼い主の声を聞き振り向いて
シッポを振って立ち止まっている。

万次郎
「ナンデそんなとこに止まってんだ ばか犬〜め!
 ペッチャンコになっちゃうだろっ!」

トムとジェリーみたいにはいかないだろう。
明智はすでに走り出して女性の方へ
走りながら明智は鮮やかに犬を指差す。

万次郎
 「もうっなんでジョンを助けないと」

走り出している。
豪快に落下してくる2つの貯水槽がゆっくり
落ちてくるように見えている。
あくまで感覚の話だ。
万次郎は、かろうじてジョンを拾えるかどうか?

「南無三っ!」

両手を広げて頭からダイブ!
明智は女性を抱えて滑り込んでいる。
万次郎は勢い余って犬を抱えたまま側転。
 グルグルグルグル
来栖はすでに安全圏、どこでくすねたのか
タバコに火を付けようとしている。
尋常じゃないスピードだ。

 ドオゴォーン ドォゴワンゴワン ブシャーーッ

ベージュ色の貯水槽が梅干しみたいにデコボコに
激突したアスファルトに火花が散っている。
荒狂う粗悪なキラーピンボール
トラック2台分の衝撃
水分はそのまま重力となって
道路は中々に陥没している。

明智 「大丈夫?お嬢さん!」

 プシュゥォーーーーァ プシャーーーーーッ

へしゃがった貯水槽から
ちぎれたバルブから溢れ出ている
紫の液体に気がつく明智

「コレは、タチの悪い薬品だぞっ おい」

女性を抱き抱えたまま手を離さず

「万次郎っ!この薬品はヤバイ奴だぞ!
 あまり吸うんじゃないぞ!
 あっという間にみんな暴徒と化すぞ!」

業界では有名な紫の薬品。
起こって欲しい所に大体はドローンで散布する。
するとあら不思議
デモや集会があっという間に暴徒に早替わり。
愚民共を集団で暴行や脅迫あるいは破壊活動やら
社会の秩序を乱す不穏な行動に
インスタントにそして簡単に
悪者に仕上げることができる。

「人工的に群衆を凶暴化、暴動を誘発する薬品だ!
 気化するのが早い薬品だぞ!」

腰をしっかり抱き明智
「お嬢さん、早くここを離れた方がいい!
 万次郎っ!ジョンをこっちに」

来栖 「助かったぜジョン!」 タバコぷかぁ~

万次郎の腕を噛んでいたイヌが「わんわんわん!」

何事も無かったようにタバコを吸っている来栖
横に転がっている万次郎を覗きこんで

「なぜかイヌには好かれるんだよ。
 なんだっコイツもジョンなんだな」

奇跡的に来栖を襲った輩達はミンチにはならず
無事だったが薬品を吸って復活
もう暴れまわっている。
怒号が飛びかい見境なしに殴り合っている。

しゃがみ込んで万次郎を眺める来栖

「おかしいなって思ってたんだよ。
 対応が大袈裟だったのも
 厄介な薬品作ってたからだな。
 これから、ちょっとヤボ用でな。
 タバコも手に入ったことだし
 じゃぁなっ ジョン」

フィットネスジム後のサッパリとした面持ちで
来栖は去っていった。
心中穏やかでナンテいられない万次郎はヘロヘロ
ジョンをお嬢さんに雑に手渡し

「明智さんずるいですよ~っ
 イヌは、どうでもいいじゃないですか~」

お嬢さんを送り出して振り返る明智
 「イヌは裏切らないから〜
  助けてあげないとな。それよりも
  ここら一帯がみるみる暴徒化するぞ。
  あの薬の量だと、とんでもない時間
  カオス状態が続くぞ」

丁度、万次郎が間一髪で逃げおおせた方角
レトロビル玄関口にひょっこり
何事もなかったようにジェイソン楠木が
出ていくのが見える。

 「万次郎っ行くぞっ」

大規模な倒壊事故から民衆のバイオレンス化
あまりにも ダイハードな展開に
気持ちが追っつかない万次郎。
なんとか明智の尻について行くのにやっとだ。
とても人間の声とは思えない奇声を背に
狂乱のビジネス街を後にする
明智は思う。
あの倒壊はジェイソン楠木の仕業なのか?

万次郎
 ただの尾行で、なんでああなるんだ?
 どこがeasyミッションだ?
 戦慄の来栖も登場するし
 歩いてる人達がみるみる凶暴化
 なんだコレは?
 金属バット振り回して窓を壊しまくる
 フルスイングOLなんて初めて見たよ。
 画面越しじゃ無い暴動も初めてさ。
 参ったね……

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