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Labの男62

 Labの男62

 見い出すのはオノレ
 意味をつけるのもオノレ
 見い出すのは勝手
 理由をつけるのも勝手
 忘れるのは勝手
 思い出すのはオノレ
 勝手はオノレ
 だれの為かは忘れた
 忘れたのも忘れた
 理由なんて知るかよ
 後で思いつくんだから

目の前には
今時、珍しいおみくじスタイルで
ニセ漆塗り黒のハシが束で入れ物に刺さっている。
焼き魚定食が2つ 冷やっこ2つ
水の入ったコップが2つ。
中央の少し色のはげたハシを
明智は、おもむろに手に取ろうとしている。

「丁度ジェイソン楠木が定食屋に入ってくれて
 助かるな。足早に食べないとな」

定食屋のオヤジは
お昼時のピークが過ぎて、座いすに腰をかけ
斜め上にあるテレビを観ている。
ちょうど明智の後ろ上にあるテレビに夢中だ。
万次郎もクギズケになっている。
テレビの角にはLIVEの文字がクルクル回っている。

焦っているのが手に取るようにわかる
しかめっ面のメインキャスターが
今まさにクロストークをしようとしている。
 「中継繋がってますか?
  現場の田中さん!お願いします!」

バラバラバラ ヘリコプターの音も聞こえてくる。

「現場の田中です!もう大変です!この辺りでは
 有数のビジネス街として知られてる本宮町
 なんですがっ!もう、すでに
 あちらこちらで火の手があがっております」

「ガス漏れといったアクシデントが重なった
 発火ではなく、人々が火炎瓶を投げたり
 放火が原因です。人々の行動には一貫性が
 ありません。大混乱状態です。
 一体何があったのでしょうか!」

「田中さんっ!
 誰か煽動している者がいるんでしょうか?
 もしくはテロなんでしょうか?」

ヘルメットが良く似合う生真面目
中継クルー田中さん。
そっぽ向いて少しボーッと火の手を眺めてる。
どことなしか呼吸の具合がおかしい。
背なで、肩が上下しているのが
分かるくらいに不自然だ。
通りすがりの金属バットを持ったOLが
脳天をカチ割る勢いで生真面目頭の
田中さんをぶん殴ってる。
衝撃で頭を傾けてから
しばらくして

「コノ野郎っ!こんチクショウ〜めぇ!
 なにするだ!現場の田中になるまで
 どれだけかかったと思ってんだ!
 フリーアナウンサーをっなめんじゃねぇ〜!」

間髪入れず容赦なくOLの顔面を殴り飛ばす
生真面目、田中さん。
金属バットをふんだくり、マイクみたいに持って

「オレはアンカーマンになるんだ!
 そうだっ!!
 王道のアンカーマンになるんだぁーっ!
 みんなも!応援してくれよな!
 行くぞぅ!クルー達っ!
 うぉぉぉーっ!アンカーマン参上ぉーーっ!」

そのまま画面の外に走り去ってしまった。

ハトの豆鉄砲がおの万次郎から「ふふふふふっ」
吹き出してしまった。

唐突にヘリコプター上空からの映像に切り替わる。
外国さながらの暴動映像
上空からでも
ヒトが犯罪行為に手を染めているのは明らかだ。
燃えさかる炎とバイオレンス。

明智「紫の薬品、通称『怒れるパープル』
   元々の不満を誘発させるんだよアレ」

「だから吸引した者全員が自分勝手な正義感に
 突き動かされて暴走しちゃう。
 堪忍袋の口が閉まらなくなるんだな。
 ヒトが日頃考えてる事なんて
 わかんないもんだよ」

「アンカーマン参上!っておもしれぇな
 だははははっ、今日のパワーワードだな」

アンカーマンの指示で画面は切り替わり
取り乱した気持ちを振り払うように
「どうも、映像が混戦したみたいですね。
 修復してる間にCMです」

ジェイソン楠木はテレビには一切興味を示さず
瞳を閉じてメシを味わっている。
ラクダ顔で穏やかに夢中で
美味しそうにカレーを頰ばっている。

万次郎「番組の顔、メインキャスターを
    アンカーマンって言うんですね。
    知らなかったです」

半笑いの万次郎、明智を指さして
「みんなもっ応援してくれよなっ!」

  だっはっはははははっ×2

経緯を知らない人にしてみれば
けしからん若者達だと
定食屋のオヤジの目には写っているだろう。

「万次郎、早く食わないとジェイソン楠木
 カレー食い終わっちゃうぞ」

あわてて残りの魚を丸まま口に頬ばって
みそ汁で流し込む。
明智はおやっさんに支払いを済ませて
外に出てゆく。

四つ角から定食屋を見据えて食後の一服の2人。
ジェイソン楠木はまだ出て来ていない。

明智は指にはさんだタバコを吸って指差す
「軽く笑ったラクダ顔が出てきたぜ」

「あの表情だと、よっぽどカレー
 おいしかったみたいですね」

再び、くわえタバコの2人は尾行を開始する。

脳は否定を受け入れにくい
忘れないようにってのが
 忘れる + 否定 = 覚える 
だがそれほど自分にとって重要でなければ
覚える訳なく忘れるわけだ。
脳の捉え方では
実は忘れるという言葉にフォーカスがいく。
脳はネガティヴ、否定には無頓着で
「忘れる」という言葉の方に気がいく。
本来意図している意味よりも
忘れるように働きやすくなる。
間違わないようにが最終的に
間違うに着地してしまう。望んでいない願いが
より強い波に乗って恐れに着地
失敗してしまう。
失敗という概念も切り取らなければ
長いスパンでは次への布石とも言える。
誰も分かっちゃ〜いないのさ。

ジェイソン 楠木を追うこと30分

「明智さん、最初の元の場所に戻ってません?」

 「忘れ物したのか?自宅に戻ってそうだなぁ」

電車に揺られ逆もどり自宅へ到着。
都心からは少し離れたのどかな住宅街
つつましく立っている一戸建て
小さな門構えに小さなゲート
門のまん中に輪っかをくわえたライオンが2つ。
これまた、こじんまりした家を守っている。
家の裏手はすぐ山の斜面になっている。
待つこと10分ほど
すぐさまライオンゲートを開けて
慌てて出てくるジェイソン楠木。
怪しい点は、今のとこ倒壊事故以外は何も無い。
そのまま駅に向かうと思いきや
駅前の花屋さんへ
するとまた自宅へと戻ってゆく。
明智は不思議に思い花屋店員に聞き込みにゆく。
万次郎はそのままジェイソンを追いかける。
フラワーガール
 「ああ、楠木さんね。
  よく買いに来てくれるんですよ。
  毎日花を買いに来てくれますよ。
  そうですね〜いつも
  そのシーズンならではの花を好まれますね」

「どれくらいの頻度で来るんですかねぇ?」

 「なぜだか分からないですけど日に2〜3回は
  来るんじゃないですかね。
  その都度、違う花をお求めになりますねぇ」

明智【何にそんな花が必要なんだ?
   一輪ずつ買っていくそうだが
   そんな毎日必要ないだろ?】

「いやぁ〜それって何に使うか知ってます?」

 「それがいつも忙しくしていて会話するのも
  会計時だけなんですよ。ナゾなんです。
  毎日来るからスタッフ間では
  フラワーじいってあだ名が付いてます」

明智スマート手錠が震えた。

万次郎からのメール
  5分ほど自宅滞在後
  直ぐに出てきました。
  おそらく駅に
  向かってます。

駅前で落ち合う明智and万次郎
万次郎
 「家に花は置いてきたみたいですね」
明智
「花はマストだったわけでしょ?
 ナニしに家に戻ったのか見当もつかないな?」

 「そういゃ〜玄関出てきた時に
  独りごと言ってましたよ」

 忘れないようにって思ってたのになぁ〜

駅へ歩みを進めるジェイソン楠木を追いかけ
万次郎の初ミッション 尾行は続行

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