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Laboの男22

 Labの男22

命じられるままオーダーを実行する
メンテナンス中のアンドロイド
実験をプラスティックにこなす万次郎。
さらに事務的に淡々と
寝転がり玄白の指パッチンで目を
開けるだけの動作を繰り返したり
指示通りに触られた指だけ動かす
頭の中で右腕を動かすイメージをして
実際には左手を動かしてくれだとか
一通り脳の反応を見るようなテストを終えて

玄白「そうだ、そうだ
   忘れないうちに渡しておかないとっと」

白衣のポケットから点眼薬を手渡される。
中の流動物がキラキラと
エメラルドグリーンに輝いている。

 「先に言っておくよ。
  僕もすぐに忘れちゃうからさっ
  目薬感覚でささないようにね。
  点眼容器がスペシャルだから」

 「ちょうど
  親指が触れるあたりの圧力センサーが反応して
  噴射ノズルが出てくるから
  眼球に刺さない様にね!」

 「毎朝、目覚めてすぐに点眼してね。
  万次郎自身に慣れて欲しいのもあるけど
  絶えずこの感覚を常時化してほしいんだ。
  1週間以上は続けてほしい。

 「カンがいい万次郎なら分かるでしょ?
  自分との対話修行強化週間になるだろうね」

 「マコ先生も言ってただろう?
  最終的には個人に委ねられてしまうのよ。
  どの様に自身の落とし所を
  作れるかにかかっている」

 「少し変だけど頭の中のことは
  野生の自分にまず慣れてもらって
  手綱を付けるところから
  自身で、てなずけるしか無いんだよ。
  自身が慣れ親しんだステータスを
  もう一度ふり直す事になるから
  そこで万次郎のサイコパス指数が役に立つ」

 「マコ先生直伝の呼吸法はほんとに優秀だから
  アメリカ軍でも取り入れられてるよ。
  軍では何処ででも眠れる呼吸法としてだけどね
  瞑想も必要になってくるよ。
  今はピンと来ないだろうけどね」

 「軽い興奮状態が続いてるみたいなものだから
  過呼吸気味になる事が増えるだろうからね。
  ニュートラル状態を忘れちゃうくらいに
  なるだろうから、瞑想も1日15〜30分くらい
  する事をお勧めするよ」

万次郎「何かに集中していれれば
    なんとかなる感じですか?」

 「まぁ〜
  ずーっと何かをしてるワケには
  いかないでしょ。なんだろうな〜
  疑問に思う方向性が不透明なまま
  漠然とした不安が呼び水になって
  暴走するのとかが増えると思うんだよね」

 「だから
  答えが出ない疑問には見切りをつけて
  放っておくってのがコツかな。
  知りたいに拍車がかかって
  どうでもいいことに
  無理矢理強引に答えを出そうとして
  堂々めぐりをくり返しちゃう。
  独りだとすぐに煮詰まっちゃうからね」

 「まず、答えが出ることの方が稀だからね。
  それと、基本 問題は解決しません。
  7割かた、放置になるんだから。
  社会の問題と個人の問題は分けて考えて
  忘れがちなのが、自身が思う様に
  世の中のヒトも思うとは限らないからね」

 「その辺りは万次郎は慣れっこだったかな?」

万次郎にアイコンタクトをとろうとすると
向いてる目線の先
明智に気を取られてる。
ナニやら明智と誰かが話している。
こころなしか煙のかおり。
やっぱりだ
黒髪のくわえタバコの女性が話している。

 「予定では明日だったと思うんだけどなぁ
  ちょっと行ってくるね」

玄白も合流して話している。
どこかから灰皿がわりになるペットボトルを
持ってきて手渡している玄白。
苦笑いの玄白がこちらに戻って来るや否や

玄白
 「少し予定を変更するよ。どうもメイデンさん
  ミッションが突然無くなっちゃったみたいで
  暇なんだって。なので………」

少し嫌な予感がする万次郎。

 「万次郎はまだまだ若いからいけるっしょ。
  今回の実験は、あらかた終わりなんですけど
  Extraボーナス講義となります」

 「今日はなんと!予期せぬシークレットゲスト
  2人目の特別講師、登場です。
  たらーーん! 来栖 京子先生でーす」

  「バカやろうっ名前で呼ぶんじゃねぇ」

 「失礼しました。メイデンさんです」

  「よう!ジョン!調子どうよ?」

苦笑いの万次郎
 「鼻血出ちゃいそうなくらい元気っス」
参ったなぁ〜
これから予測される情報量の渦
頭の消化不良には何が効くんだろうか?

 パチン パッチン
指を鳴らして万次郎の注意をこちらに
続けて玄白の前口上

独自路線の代名詞
メイデンさんの社会科授業となります。
社会科の授業は暗記教科だと
巷ではよく言われている。
実際
テスト結果のためだけならそうでしょう。
なのですが、本来
社会に出てから役に立つ力を養う教科として
扱われるべきだと玄白は強く思えて仕方がない。
白髪の達人は言う。「激流を制するは静水」
時代が移り変わってゆく激しさに
教科書に載っているほとんどのことは
成人する頃には激変しているかもしれない。
水面が揺らがない動じない個体
揺るぎない個性は静水に繋がる。
超個性派のメイデン先生から
礎となる情報の手に入れ方 読み取り方 
社会の物事の見方や考え方 
判断方法を身に付ける授業となります。
では
 「お願いします!メイデン先生」

黒髪をかき上げ
 「いやいゃ、いまの前口上いる?
  ハードルが高くなったでしょ?
  ただ現状の話をすればいいんでしょ」

いつになく姿勢を正す万次郎。

髪を後ろにはらう仕草きっかけに
不機嫌な唇が開口

エビス薬品工業
我が社の活動を知ってもらうにはまず
世界観から触れるのが分かりやすいだろう。
スポーツを通じ人間育成と
世界平和を究極の目的とされるオリンピック。
4 年に1度開催される世界的スポーツの祭典。
表向きの設定はね。
だからスローガンは
ウソくさいほど理想的な方が大衆に沁みる。
目立つ 印象に残る 個々に美化されやすくて
誰にでも当てはめやすい。
シンプルなのが胸の隙間にイメージを根付かせる。
最近ではオモテ委員会の汚職がニュースで
報道されてはいるが、
ただの見せしめと世代交代なだけだろう。
ジョンは知らないだろうが
我がエビス薬品工業にとってもBIGイベントだ。
オリンピックをひん剥いて言うと

国家対抗クスリ合戦だ。

ナニがスポーツを通じて人間育成だ。
バカ馬鹿しい!どこが美しい人間ドラマだ!
長きにわたって過酷な闘争が行われている
健全なイメージをそえて公の場でだ!
選手たちを使って
国家対抗代理戦争が行われている
利権争いの安全決着の場であり
他国への技術力発信 鼓舞の場。
ここでの結果が今後の国勢に関わる大舞台
国によっては選手との関係性が大きく異なる。
選手には知らされず投薬されていたり
製薬会社と選手の2人3脚であったりと
まちまちだ。国家の毛色が出るところだな。
表向きのドーピング検査設定も生かしのルール。
もっぱら現在のトレンドは生体ナノマシーンだ。
足もつかない部品も生きたナノマシーン。
ジョンの身体にも入ってんだろ?
選手自体をいちから造るのもあったが
今じゃ廃れている。コストと時間がかかり過ぎる
割には短命に終わることが多い。
最終的には世の中の欲望が
意識 無意識ない混ぜとなって
代表者に代行してもらって構築されてゆく。
カタチ的には大衆に許された代表が選抜されて
世界が出来上がっている様に見せている。
そう、我々の知っている権力者は外様【とざま】             
表の御輿には実権はなく水面下のヤツらが
あらゆる決定を下している。

万次郎は考えている
 【この社会科の授業は
  コロンビアビーン100%の苦みだな
  口の中に残る味になりそうだな】

あくまで我々が知りうる最高権力者は設定上
であり内閣総理大臣もしかり
総理が行ったとされている全ての政策は
水面下のヤツらの指示によるものだ。
国会中継なんて二束三文役者のお遊戯会だ。
民主主義なんてのもタダの設定で
それっぽく教科書に書いときゃぁ
勝手にみんな信じるからな。
そう映るようにお膳立てされたモノ
はたして民意が社会に反映されているのか?
別のところにいつも利害と思惑はある。
美しい理想で取り繕った
リアリティーショーの事を政治と
大衆は思い込まされているだけだ。
製薬業界もかなり幅を利かせている方だろうが
水面下の者達の正体は誰もわからない。
お気に入りの駒たちであっても
知っているのは出所に近い指令だけ。
従っただけで我々の知りうる分かりやすい
権力は当てがわれるだろうが
手にしたはいいがヒトは扱いきれず権力に
踊らされるくらいにあっけなくもろい。
手軽に目にうつるモノほど安心感は増すだろうが
あくまで、うわべだけだ。
目にうつらないモノに圧倒的に影響を受けて
ヒトは生きているということだ。
受け止めきれない事実に
短絡的に怒りをぶちまけるのはお勧めしない。
知った事実であがなおうとするよりも
目の前の畑を耕している方が
よっぽど、地に足のついた生き方で
より人間らしくまっとうなのかもな。
世の中は役者であふれてるってことだな。
社会科の授業に戻ると
人は個々に生きていて見ている世界観も
その数だけある。
だから私の経験則からのメッセージは
分かり合えるのは互いの歩み寄り
努力があってこそだ。
相互理解なんて幻想だ。
他人を信用するなとは言わん。

大きな流れと社会を捉えるなら
立体的に風向きを知るということがFirst Action
アクションしない初手だ。

好運にも違和感を感じ取れたなら
4の5の言わず自身のカンに頼れ。
それが正解だ。
理由なんて後で作ればいい。

ジョン 万次郎! 夢ゆめ忘れるなよ。
オマエは特別でもスペシャルでもなんでもない。
我が社にも、利害と思惑があるということだ。

システムと踊れ
ルールを知っておいた方がゲームを楽しめる。
だがルールが大事なんてちっとも言ってないぞ。
ルールを守れば目立たないだけで、
世の中の大半は興味のない事で出来てるだろ?
はみ出さないように生きるなんて
くだらないだろ?
大体、はみ出し者がルール決めてんだからな。
クレイジーな奴が考えるルールなんぞ
クソ喰らえだ。
誰が仕事をしないやつは
まともじゃないと決めたんだ。
やりたいからやるのが仕事だ。
生きるために仕事をするんじゃねぇ。
仕事に生かされんなよ。
給料なんて付き合い賃だ。
未来を換金するんじゃねぇ。
全力で踊れんやつは人生を楽しめんぞ。
仕方なく踊るヤツほど
自分のウソに気付かんもんだ!

この来栖がオマエに教えたいこと
 「かましてやれ!だ」

バッテリーが切れかかっている万次郎が
最初に思ったのは Oh!
思っていたよりも早く講義が終わりそうだ。
感動よりも先に
もうヘロヘロの万次郎は拍手を贈っている。
それは、白旗を上げているのと同じで
何とか送りだそうとしているからだ。
タイミングが悪かったからで
万次郎には響いていなかったわけでは無い。
彼女ならではの骨太の講義。
真っ先に聞けていたなら
以降の実験、講義にも気合が入ったであろう。
どんな男でも、少なくともオスであるならば
闘志が湧き上がって来る力強い思想。
が、ステーキの後にTボーンステーキは
さすがにしっかりは堪能できない。
要約すると自身にウソをつくな。
世の中と利害と思惑。
もうすでに骨身に染み込んで来ている感じだ。

意外とシンプルで簡潔な講義に
玄白も少し驚いているみたいだ。
 「メイデン先生〜ありがとうございました」

  「こんなのでいいの?」

玄白
 「万次郎には、世の中は思惑と利害で
  成り立っているなんて発想は
  無かったでしょうから
  後日考えるにはちょうどいいシンプルさで
  言い表せていたと思いますよ」

  「そっか。それじゃな、ジョンっ」

あっさりと立ち去る来栖。
万次郎は、細身ながら頼れる背中を眺めて
颯爽と去ってゆく姿を見守り終えると同時に
深いため息をついた。たぁはぁ〜っ

玄白
 「さすがに内容の濃い1日になったね」

明智
 「ちょっとイレギュラーもあったけど
  今日は、さすがにもうお腹いっぱいだろうな」

万次郎
 「来栖さんって
  あんなに逢えるモノなんですか?」

明智
 「ほとんどLaboだとか会社には
  いないんだけどな。
  外で何かしらかの
  ミッションを遂行していることの方が
  多いんだけどなぁ」

玄白
 「ほぼほぼ
  出払ってることが多いんだけど
  万次郎は、もってるからね。
  マグネティックフィールドとでも言おうか
  引力があるからね」

どうやら今回はこれにて終了のようだ。
思わず口から漏れる万次郎

 「よかったぁ〜っ」

合図とともにナースが現れる。
いつもの採血と注射の時間だ。

玄白「そうそう、紹介するの忘れてたから
   こちら、いけないナースのルナ先生です」

 「何で?いけないルナ先生なのかって?
  そりゃ〜元気がなかったらすぐ注射しようと
  するからね」

ルナ「どうも万次郎くん、話はよく聞いてるわよ
   玄白ってアナタが名付けの親なのね。
   明智ってのも万次郎くんが付けたの?」

万次郎
 「そうですよ。ダンディー明智小五郎です」

ルナ
 「明智ってスケコマシの代名詞なのかしら?」

と言って注射針をブスッと
前回よりも痛く感じる。

採血をしながらルナ
 「万次郎くんは、見習っちゃ〜ダメよ。
  ろくなのにならないからね」

玄白「はははははっ そうだね」

明智
 「ルナ先生は、いつも小五郎にはキビシイのよ。
  何か感じとってるのかね?」

ルナ
 「女のカンが信用するなって!
  肌身にビンビン感じるのよね〜。
  恋人には良いかもしれないけど
  生涯のパートナーには絶対ダメだってね!」

そのまま何かを注射している。

万次郎
 「コレには新しいナノマシーン入ってます?」

ルナ
 「え〜っと3種類くらい入ってたんじゃないかな
 前回のと合わせて7〜8種類くらいかな」

 「ええ〜っ!そんなに入ってるの!」

ルナ
 「もう一本っ いっとく?」


もう慣れてしまったが
とてつもなく厳重な施設に改めて訪れていると。
ひと通り終えて建物を出ると
現実世界に戻ってきた感覚がすごい。
施設内の移動手段は電動カート。
近くにある手短なハンドルを手に座る。
カートに乗ってゆくのにも慣れたモノで
入館パスをハンドル横にあてがうと
運転可能になる。
もう一連の動作になっているが
入館のためのエントランスがいくつあるんだ
施設自体が何から守られているのかって
ことなのだ。
玄白が比較的常識があって改めて
前もって講義を設けてくれている
おかげでなんとか、なりそうだが
情報の大洪水で排水溝から溢れ出していて
一向に流れていく気配はない。
ただの一般大学生からしてみれば
都市伝説が全て本当だったくらい
衝撃的なことばかりだ。
といっても講義内容だけではなく
それぞれの価値観から哲学や信念が織り込まれた
内容の濃い話ばかり。
当然、面白い内容の話ばかりだが
これまで
のらりくらりと生きてきた万次郎に
してみれば頭がついてゆくのにやっとだ。
情報処理だけで鼻血が出てきそうだ。
帰りのカート運転時間は、頭を整理するには
ちょうどいい。自然と今日あったことを
再放送してついつい考えてしまう。
日々の内容のことを考えると
非日常の方がよっぽどリアルでパンチがあり
日常がぬるま湯に感じてバランスがおかしくなる
そのために
カートの運転時間があるんじゃないかと
ありがたく感じてくる。
ととのえタイムとでも名づけようか?
ゲートへの距離と時間じゃ〜
まとまりそうも無いぞ。
探索がてら敷地内をクルージングとでも
洒落込もうか。
少し寄り道をして帰ろうと思った万次郎であった。

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