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Labの男53

 Labの男53

誰しもが持ち合わせているであろう
あったか〜い感情は
いくらマッドサイエンティスト寄りの
玄白にも備わっていて
ヒトらしい所がたまに顔をだす事もある。
少々欠けている所は大目にみて。
大切なひとに素晴らしい発見を伝えたい
って昔から備わった感情。
それは恋愛には無頓着だが
それなりに解釈するくらい年齢を重ねている。
ああ、そうそう、、どことなく
大切なひとに後ろめたい気持ちがあったりとかね。

メガネを中指で押し上げてから
そのまま頭のモフモフをわしゃわしゃする。
白衣を払い手頃なイスを見つけて座る。

 「マコちゃん!明日さぁ〜
  出かけるからお留守番、頼むね〜」

  「えっ?デート!」

 「なんでそうなるのよ。
  男だよオトコ。会う約束があんのよ」

  「まさか玄白は二刀流なの?
   いったい誰よ?」

 「なんでデートの線は消えないんだ。
  歴としたボクの師匠さ。
  ある意味憧れの孤高の先輩だね」

  「玄白って独自の進化を繰り返して
   仕上がってると思ってたわ。
   がぜん興味が湧いてきた」

 「ボクとは違って
  礼儀正しいただのじいさんだよ」

  「ちょっと、とんでもない事聞いていい?
   アタシも行っていい?」

 「どぉしちゃったの?
  そんなに男前でもないよ?」

  「すごく会いたいわ!
   だって玄白が尊敬してる人なんでしょ?」

 「まぁいいよ。博士もしばらく
  女性に会ってないから喜ぶと思うよ。
  何かしらの活力になるんじゃない?」

  「アタシの美貌は
   役に立つに決まってるじゃないの!
   ときに博士はボインは好きなのかね?」

 「いやいゃ〜ただ若い子と話せたりすると
  元気もらったりするんじゃないかな〜って
  事でそっち方面じゃないのよ」

  「どこかの大学とかに行くの?遠い?」

 「う〜んとちょっと遠いかなぁ?
  樹海になるね」

  「あの富士山の?
   何にも無いんじゃない?あんなとこ?
   もしかして幽霊とかじゃないでしょ!
   ちょっと怖くなってきたわ」

 「特殊な施設があるんだよ樹海の地下に。
  そんなの知ってるのはごく限られた
  人間だけだよ」

  「生きてんだったら行くいくぅ」

 「それじゃ〜ルナ先生に留守番、頼まないとね。
  それに明日くらいじゃない?
  万次郎帰ってくるの
  ツリーマンに、首無しイワノフに、ルナ先生、
  度肝抜かれるだろうね。それにしても
  バケモノ指数高いなぁ。ちゃんとルナ先生
  フォローしてくれるんだろうか?」

  「あぁ〜っ!言いつけてやるんだぁ!
   バケモノの中にルナが入ってる」

 「ナニいってるの?
  監視対象だったボクと話して
  なんの罪悪感もなく明智ラボに居座れるのは
  ある意味バケモノ級の肝っ玉じゃないとねぇ」

  「はははっ ルナって上層部からの
   スパイだったの?
   図太さは戦場で培っただろうからね。
   彼女らしいわね。
   まぁ〜でも仕事となると
   ルナちゃん変なところ責任感強いから
   大丈夫じゃない?まだルナ先生だけは
   万次郎と面識あるから」

モフモフ頭を触りながら
ふらふらとイスから立ち上がり辺りを見回し
ルナ先生を探しながら
 「あのさぁ〜ルナ先生ぇいる?どこよ?
  いたいた!頼みがあるんだけど……


翌日
  「ごめんゴメン!待った?」

 「大丈夫だよ、急いでないし。
  それにしてもナニよ! だっはっ
  その体の線を強調した服装はさぁ〜」

  「だって玄白の恩師を喜ばせないと
   いけないでしょぉ〜。
   いつもよりサービス サービスぅ〜
   つゆだく特盛よ!って誘惑に負けて
   触っちゃ〜ダメよっ玄白」

タイト目のフォーマルな黒いスーツ
白のシャツは胸元が深めに
大きくカーブを描き鎖骨があらわに
さらに胸元が強調される腰元が絞られた
デザインにボタンが止められている。
否が応にもお尻にも目がいくスーツのライン。

 「だっははははっ
  コレで喜ばない野郎はいないね!
  マコちゃんには生命の逞しさを感じるね」

 「そうだった
  ちょっと寄らないといけない所があるんだ。
  お土産、買って行こうと思ってね」

  「以外とちゃんとしてるわねぇ」

 「かれこれ10年は世話になってるからね。
  それくらいしないと」

すると、精肉店に立ち寄る玄白。

不思議な顔をするマコ
  「へぇ〜博士って肉食系なんだ。
   元気なんだね」

 「すいません、この店で1番鮮度がいい肉は
  なんですか?出来れば
  血の滴るようなフレッシュなのが
  いいんですがねぇ」

店員に見繕ってもらったのは
さっき切り分けようとしていた
レバーのブロック
グラムにして2キロはある塊だ。

  「現役感ハンパないわね。
   これ食べるのってバリバリじゃん」

 「う〜ん、元気というか何というかね〜ぇ、
  なにかと活発なのよね」
昔ながらに紙に包まれた肉塊の袋を片手に
2人はワイワイ話しながら電車に乗車する。


玄白とマコが出発してしばらく後
敷地内をLabo方面へ
向こうからカートが向かってくる。
私有地内をご機嫌にドライブを楽しんでる表情。
電動カートを止めてふと建物を眺める。
そこにはシンプルデザインの巨大な墓石のような
ビルが所どころに建っている。

 「そんなに経ってないはずなのに
  随分と久しぶりに感じるなぁ」

そのまま通行証を機械にかざし
建物の中に入ってく万次郎。
いつもの奥辺りにある筈の囲いが
無くなっている?
 「アレっ?おかしいなぁ、間取りが変わってる?
  気のせいじゃ無さそうだけど
  一旦、地下8階に行ってみるか」

うる覚えのエレベーターへのルート
海外の警察署のような活気のある感じは
変わりないが、なんとか迷いながらも
次第に人もまばらになって
奥のエレベーターに到着。

 「でもエレベーターって明智さんクラスの人
  でないと乗れなかったんじゃなかったっけか。
  どうしよう、エレベーター起動
  出来ないんじゃないかなぁ」

コッ コッ コッ 
足音のする後ろに振り返る万次郎
髪を束ねた女性がいた。

 「あっ!ルナ先生じゃないですか!
  なんだかLaboの様子が変なんですけど
  何かあったんですか?」

  「あらっ、万次郎!今日帰って来たの?
   よっぽど、しごかれたみたいね。
   いい面構えになったんじゃない!
   幾分たくましくみえるわ!」

 「そうですかねぇ
  激しくしごかれましたけど
  あんまり自分ではわかんないです。
  この通行証じゃ〜エレベーターに
  乗れないんですよね?
  ルナ先生は下に行きます?」

  「丁度、下に行くところよ。
   ああ、そうか!
   万次郎は知らないか。
   人事異動があったのよ、それも大型のね」

エレベーターに乗り合う2人。
 ゴィーーーン

 「明智Laboは最下層にお引越しで
  アタシも明智ラボ預かりになったわ」

 「実質アタシは厄介払いの島流し。
  平たく言うと左遷よ、冷たいものよ。
  クリスタルマンは最上階へお引越しで
  専属のクリスタルマン監視役だった
  アタシの仕事が無くなっちゃった。
  上層部がクリスタルマン研究に
  本格的に乗りだしたって事ね」

鳴海 ルーナマハラーディア
名前が長いからルナでいいわ。
国境なき青十字団で医療班として働いていたわ。
エビス薬品系列の保養所で来栖さんに
しごかれてたんでしょ?
あの訓練場の武器ソムリエとして
アタシ働いてたんだ。
正直、エージェントにはなるつもりは
無かったんだけど
流れで結果的になっちゃってる。
紙クズのように死んでく人を,散々見てきてね…
青十字の仕事に疑問を持つようになってね。
別のカタチでなんとかしないと拉致開かないわ!
ってなって今に至るんだけど
どこでどうなるかなんて
ホント分かんないものよね。
だから、どっちかっていうと血生臭いのには
慣れっこよ。なんとかしてきたからね。

 「色々と見てきたわ。エビス薬品工業では
  どっちかって〜と
  諜報部活動がメインになるかな。
  看取れるエージェント」

 ガッチャンコ プシューーーッ

扉が開くとそこには以前より明るくなって
リニューアルされたフロアーに
首の無い男と2M以上はある木がウロウロしてる

万次郎は
いつもの豆鉄砲を喰らったハト顔になってから
しばらくして深くひと呼吸。

 「うわぁーーーっ!」

取り乱すのも当然だ。


広大なエリアを覆う大森林の景観。
昔よりか舗装も行き届き見通しは
きくようになっていて木々が間引かれているが
先へ進めばそうでも無くなってくる。
富士の北西に位置し樹海の歴史は約1200年と
森としてはまだ若い方だ。
水分や養分の少ない溶岩質の土壌であることから
針葉樹が発達している。
青木ヶ原から山地帯にかけての一帯は
特にツキノワグマの生息密度が高い。
その他生息する大型哺乳類は
ニホンザル、ニホンカモシカ、ニホンジカ、
ニホンイノシシなど。

一度入れば最後
樹海からは抜け出せないなんて俗説が有名だが
問題なのは遊歩道を外れて森に入った場合
遊歩道や案内看板が見えない
道より200 〜 300M以上離れた地点でアウトだ。
360度どこを見ても木となり
高低差に乏しい特徴のない
似たような風景が続き足場も悪い。
まっすぐ進めないため迷って
遭難する危険性がグンと上がる。
しかしながら
これは青木ヶ原樹海に限ったことではなく
深い森ならどこでも同じ。
松本清張の『波の塔』で取り上げられた
「青木ヶ原樹海は自殺の名所」のイメージが
定着したからだそうだ。
遺体が遊歩道からそう遠くない所で
見つかることもある。
方位磁針が使えないというのも俗説である。
溶岩の上にできたので地中に磁鉄鉱を多く含み
方位磁針に1・2度程度の若干の狂いは生じるが
俗に言われているように
「方位が分からなくなる」
ほど大きく狂うものではない。

目の前にみすぼらしく朽ち気味の看板があり
手書きの明朝体風の文字
 考え直せ!まだ間に合う

 「ちょっと流石に気味が悪いわねぇ」
といって玄白の袖を掴むマコ。

 「この看板が目印でね。ここから三時の方向に
  200M進んだ所に扉が出てくるから
  入り口はそこね」

ドアといっても直接地面に扉が埋まっている。

  「ホントにあってるの?」

 「この扉は正面玄関よ。
  ちょっとドアの開け方が特殊でね。
  それくらいとんでもない施設だって
  覚悟で入らないとね」

扉を開けるとその下は階段が暗闇へ伸びている。

 「ホントに恩師がこの下にいるの?」

 「かれこれ5年は定期的に通ってるからね。
  しっかりいるよ。下は引くぐらい広いから
  心配なく」

  「その種類の心配じゃないのよ。
   あぁ玄白と話してるわ」

行くしかないと覚悟を決めて
玄白の後を追って降りていくマコ。
2、3分は下った所でようやくフロアーに着いた。

 「あのねぇ、中から逃げ出せない様にの
  構造だから、階段も長いし場所も公に
  されてないんだよ」

  「逃げ出さないように?いったいぜんたい
   恩師は何かやらかしたの?」

 「う〜んと実験事故で15人ほど死んだかな。
  厳密には殺人ではないんだけど
  バイオハザード 災害扱いだね」

玄関口らしいゲートに2人
ライフルを携帯した兵士が出迎えてくれている。
日本とは思えないくらいの厳重さだ。
兵士A敬礼しながら
 「どうも、野口さんじゃないですか。
  いつもご苦労様です」
兵士B同じく敬礼ポーズで
 「元気そうですね野口さん、
  相変わらずKranke -025は、ゲン
  あぁ、霞目博士は元気ですよ」

  「元気もナニも博士、死なないからね。
   気を使ってくれてありがとね」

兵士A
 「それじゃ、所持品検査させてもらいますよ」
兵士B
 「す、す、す、すいません、ルールなもので」

両手を上げボディーチェックを受ける2人

 「大丈夫みたいですね恐れ入ります」

 「おお、オッケーです。ご協力
  あ、あ、ありがとうございました」
兵士Bには クリティカルHIT  効果てきめん!
マコのダイナマイトbodyは
少々刺激が強すぎたみたいだ。
玄白は兵士Bのドギマギする動向を楽しんで
マコの方を眺めてニヤニヤしながら手を下した。
マコは、なんとも思ってないみたいだ。
 「なんだ、もういいのね」
金網が横にスライド次にドアかゆっくりと
開いていく。
通り過ぎる時にドアの分厚さに驚くマコ。
 「霞目博士って危険重罪人なの?」
ゴゴ ゴゴ ゴゴ ゴ
 「最重要実験サンプルさ!だって不死だからね」
ゴゴ ゴ ゴゴ
 「えっ?マジでいってるの?玄白!」
ゴゴ ガッシャーン

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