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Francfranc社長、高島郁夫は、 なぜコロナ後の四半期に過去最高益を出すことができたのか? (後編)


DXってもっと広範囲のことなんだ

 3月の緊急事態宣言を受け、全国の商業施設は次々に休業になりました。小売業は壊滅的な打撃を受け、苦況に陥る企業が続出することになります。6月に入って緊急事態宣言が明けても、元のようには状況は戻っていません。

 こんな中にあって、6月に過去最高の売上高を記録し、6月、7月、8月の四半期で過去最高の利益を出した会社があります。それが家具や家電、雑貨などのホームファニシング、Francfrancです。率いているのは、創業者の高島郁夫社長。


 3月に経営者としての直感が働いて、その後の危機対応への資金の手当てを終えると、大胆な本社のスリム化をすぐに実施。人員を減らし、2つあったオフィスの1つを閉じ、売り上げを伸ばしていたECにビジネスをシフト。ネットから新たな顧客をリアル店舗に流入させ、相乗効果で売り上げを伸ばしていったのでした。そして今は、店舗からECへの大胆なシフトを決断しています。

 こうした高島さんのベースにあったのが、自らの学びです。経営者の中には、何もかも自分で考えようとする人もいますが、高島さんはFrancfrancは、あと2年で創業30年を迎えますが、これだけの企業を作り上げてもなお、学びを深めるのです。

 その一つが、デジタルトランスフォーメーション(DX)。タクラムの佐々木康裕さんの著書『D2C 「世界観」と「テクノロジー」で勝つブランド戦略』など、多くの本に刺激を受けたと言います。


「もちろんDXという言葉は知っていました。でも、ECのことをもっと強化すればいいのかな、くらいの認識だったんです。ただ、いろんな本を読んでいるうちに、だんだんだんだん、DXってもっと広範囲にわたることをやっていかないといけないんだ、ということに気づいていったんです」

地道なことをきっちりやらないと情報は取れない

 例えば、情報をきちんと発信する。情報をマネージする。DXとは、デジタルを使って、モノを売っていくことだけではないということです。

「そのためには情報をまず整理しないといけない。はっきり具体的にしていかないといけない。商品の情報にしても、1品1品、モノづくりのストーリーがはっきりしているか。それを使って、お客さまがどう豊かになると示せているか。こんなふうに、情報が商品に紐付いているのかといえば、できていなかったわけです」

 モノを店舗に置いていれば、お客さんにはわかってもらえる。デジタルが当たり前の世の中になって、もうそれで通用する時代ではなくなってきているのです。

「となれば、商品台帳をきっちり整備しないといけない。いろんな気づきがありましたね。ECで売るとか、店舗で売るとかの前に、情報の整理をきちっと足元でしておくことが、最も基本で大事なことなんじゃないかと。それを、第一にやらないといけないのではないかと」

 小手先でデジタル化をやろうとしても、うまくはいかないということです。

「我々はお客さまの情報も、リアルで2割ほどしかデータが今は取れていないんです。これを、最低5割は取れるようにしないといけない、と思いました。ダイナミックにカタカナ用語でいろいろ片付けようとする前に、地道なことをきっちりやらないと情報は取れないということを痛感しましたね

 本に感銘を受け、著書の佐々木さんにもすぐに高島さんは会いに行ったそうです。Francfrancの高島さんほどの経営者がいきなり会いにやって来て、佐々木さんもびっくりされたのではないかと思います。

結局、すべては社長じゃないか

 もう一人、同じように著書を読んで感銘を受け、高島さんが食事に誘ったのが、『コーポレート・トランスフォーメーション』の著者、経営共創基盤の冨山和彦さんでした。元産業再生機構のCOOで会社変革のプロフェッショナルが、これからの変革のキーワードに掲げたのが、コーポレート・トランスフォーメーション(CX)という言葉でした。


「冨山さんは前から存知上げていたんですが、ちゃんと話したいと思ってお誘いしたんです。自分の概念としては、DXをインクルーズした会社変革がCXだと思っていたんですね」

 かつて幻冬舎の月刊誌「GOETHE」で同時期に連載を持っていた2人。話は大いに盛り上がったそうです。

「結論は、CEOがトランスフォーメーションしないと、CXもできない、ということです。意外だったんですが、冨山さんと共感したのは、結局すべては社長じゃないか、ということでした」結論は、CEOがトランスフォーメーションしないと、CXもできない、ということです。意外だったんですが、冨山さんと共感したのは、結局すべては社長じゃないか、ということでした

 会社にDXが必要だ、CXが必要だ、と社長が考えたとしても、「では、やっておいて」と担当役員や部下に投げたところで、何も前には進まないということです。何も変わらない。トップ自らが、C Xに踏み込まなければいけないのです。

「経営トップが変わっていない会社には、DXもCXもできないんですよ」

 そう考えると、雇われ社長で黒塗りの車で移動しているような人は、まず変われないだろうな、と僕は感じました。それはすなわち、会社はトランスフォーメーションできないということです。自分はデジタルがわからないから、なんて言っている社長を持つ会社は、かなり危険だと思います。

「だから、CEOである自分が変わらないといけないな、と思いました。コロナで会社に行かないと、ヒマですから。社長って意外にヒマなんですよ(笑)。作業しませんから。そこで、自分の仕事って、何だろうと真剣に考えて」

 社長の仕事は3つだ、と高島さんはわかったそうです。

「まずは意志を持つこと。どこに行くとか、どんなことをやろうとか、意志を持つ。それからイエスorノーの決断をする。そして、象徴になる。この3つが社長の仕事なんだとで思うようになっていったんです」

 どうやって何を意思表明していくか。どこに行くという決断を示すか。そのためにトップが何をどう変えるか。高島さんは実行に移していきます。それが、DXやCXであり、店舗からECへのシフトであり、自らも変えることでした。

自分を変化させよう、とシェアオフィスを借りた

 会社を大きく変えた高島さんですが、実は個人も大きく変えていました。なんと、なんとコロナ騒動中に、自宅を売却していたのです。


 これも、とんでもないトランスフォーメーションです。

「会社もそうなんですが、個人的にもキャッシュポジションを上げたほうがいいな、と思っていて、たまたまタイミング良く売れたので。今度は賃貸にして、キャッシュは持っておこうと」

 これもまた大胆です。家族が巣立っていった思い出深い家を、そう簡単に手放せるものではありません。高島さんの覚悟が伝わってきます。しかも、これだけではありません。なんと高島さん、社長でありながらシェアオフィスを借りていたのです。

「本社をスリム化するプロセスは本当に苦しいものがありましたが、その流れの中で役員や部長など、幹部は本当にいいチームになれた。結束力が強くなったんですね。だから、リモートワークでも十分にやっていけるという自信が持てて、出社は月曜だけにしたんです。あとは、ほとんどリモートです」

 驚くべきことに高島さんの社長デスクもないのだそうです。役員が何人かいる部屋しかない。そこで、シェアオフィスを借りたというのです。

「たまたま通っているジムと同じビルにシェアオフィスがあって。ちょっと落ち着いて仕事したり、本を読んだりするのは、ここでやろうかと。個人でも変わらないといけないと思ったので、意図的にも自分を変化させてみようとドライブかけたところはあるかな

 今はパソコンを入れたリュックを常時、背負って移動するライフスタイル。自転車で移動したり、歩いてあちこち移動したり。毎日、ジムに通い、サウナにも通っているそうです。運転手付きでもおかしくないような人ですが、やっていることはむしろ逆。

「まったくすがすがしいですけどね。頭も金髪にしちゃったし(笑)。たまに会社も短パンで行きます。そんな社長でいいんじゃないかな、と。社員からも、そういう見え方でいいと思っています」

 高島さんの著書に『遊ばない社員はいらない』があります。とてもいいタイトルだと思います。なぜなら、遊ぶ社員のほうがアイデアが浮かぶからです。これは社長も同じ。


「世の中見えますからね。運転手つきの車の後ろに乗っていたら、何も見えないと思いますね。特に今は」

これからは「若いヤツに巻かれろ」

 もともと高島さんは遊び心満載の人でしたが、さらに自分をトランスフォーメーションしようとアクセルが踏み込まれたのです。しかし、これが会社の雰囲気を作ります。スーツや黒塗りの車からは何かが出てくるとは思えません。クリエイティブになれるかどうか。僕も思うのは、リアルが見えなくなってしまうと極めて危ない、ということです。

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「そう思いますね。今、若い人たちの中でも、そうやって世の中を鋭く見ている人がいっぱいいると思うんです」

 僕自身も感じていますが、若い人たちは、この感覚が普通なのです。そこから、僕たちは着実にずれていってしまっている。そういう気がしてならないのです。それは、高島さんも感じているようです。

「そうなんですよ。若い人たちに必死についていかないと負けてしまいます」

 このままいくと、20代の若者たちにすべてのビジネスを持っていかれてしまうのではないか。実はそんな危機感を僕は持っています。どんどん新しいアイデアが浮かんでくるし、動きも速い。

「そう思いますね。アメリカのIT系の会社も、気づけばリーダーは40代。彼らも、20代にやられるんじゃないか、と感じていると思います」

 一方で、若い人に頑張ってもらわないといけない、という気持ちも僕は持っています。

「だから、理解はできないかもしれないけど、せめて若い人たちとコミュニケーションできるような自分でいなければと思っているんです。偉そうに昔を語っているようでは、相手にしてもらえない。長いものに巻かれろ、じゃなくて、若いヤツに巻かれろ、です(笑)」

 僕自身、東大生たちのITベンチャーにデジタル戦略を作って貰ってますが、意識しているのは、教えてもらう意識です。その上で、一緒に考えていくことを大切にしています。

これが経営じゃないか、と気づかされた

 これからどんな世の中になっていくのか。どんな経営をしなければいけないか。個人としてどうあるべきか。高島さんは、ひとつのキーワードが浮かんでいるといいます。

「正直であることです。SDGsやオーガニックが問われてきましたが、結局正しいこととか、正直であることが、これからはビジネスの根幹になってくると思うんです。コマーシャリズムに乗っかって搾取したり、自分さえ良ければいいというものは、すべて見透かされる世界になるのかな、と。正しくいる、誠実でいる。そういうことが大事な時代になるんじゃないかと思うんです」

 すべてが明らかになってしまう時代。もう隠しようがない時代。しかし、それはチャンスの時代でもあります。

「成果主義になるし、副業もOKになるし、ワークシェアや出戻りの受け入れもあるでしょうね。ライブコマースや5G時代のウェブ接客が始まったら、この人に接客してほしい、なんて個人にファンがつくようになるかもしれない。正しさによって、すべてのレベルが上がっていく。そう思っています」

 コロナ禍というネガティブな言葉もありますが、コロナがなかったら、この状況はなかった、と高島さんは言われていました。

「背中を押してもらえましたよね。変わっていくための、きっかけをもらえた。あと、こんな言い方をしたらナンですが、オレは何をやってたんだろう、と思うわけです。ちゃんとした経営をしてなかったんだと、自分でも気づかされた。これこそが経営じゃないか、と改めて気づかせてもらえたんです」

 春に借り入れた巨額の融資は、ほとんど手つかずだそうです。ピンチは大きなチャンスに変わりました。でも、その機会は、誰にも平等にあるのです。

(text by 上阪徹)

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