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父のバーベキュー、夫のバーベキュー

父はワイルドだ。
小さいことは全く気にしない。
おおらかと言えば聞こえが良いが、おそらく深く考えることが苦手なのだ。
あるいは考えてる暇があったら動け、と思っているのかもしれない。

幼い頃からそのイメージは変わっておらず、父は部屋が散らかってようが、埃が積もっていようが気にしない。
木にものぼっていたし、虫全般は平気、ヘビを手で掴んで投げている姿も見たことがある。

バイクの後ろに近所のこども達を順番に乗せ(もちろんノーヘル)団地の駐車場を走ったり、仲間とヨットに乗って大阪から淡路島まで行くと言って家族を巻き添えにし、まだ2歳になるかならないかの弟が船酔いで終始ぐったりしていたという話をあらためて聞いた時はさすがにもう少し考えてくれと思ったが父は笑っていた。
ちなみにそのヨットの時私は3、4歳でうっすら記憶に残っている。

私が小学生の頃にはログハウスを作ると言って毎週末、山へ木の皮を剥きに家族で出かけていた。
結局ログハウスは未完成のまま終わったが、山通いは楽しかったし、沢蟹がたくさんいて帰宅後それを母が唐揚げにしてくれるのが嬉しかったりでこちらは良い思い出になっている。

前置きが長くなってしまったが、とにかく本能の赴くままに生きている父。
そんな野性的な父は昔からバーベキューが大好きだ。

実家にはブロックで作ったバーベキューコーナーが庭の中央にあり、火を起こし網を置けばいつでもバーベキューができるようになっている。

父は火を起こすのもお手のもの。
その間、他の者は食材やテーブル、椅子など簡単な道具類の準備をする。

炭火が良い感じになればお肉。
父はバーベキューで野菜なんてしゃらくせーと思っている。(これは私の勝手な想像。最近はお歳の関係で野菜も食べるよう心がけている様子。)

パウチされたお肉の袋が開かない!
そんな時はキッチンバサミ…なんて使わない!!
歯という人間に備わった強力な手段があるじゃないか!!
生肉が入った袋を歯で開ける。
(これはかなり衝撃的で、お腹がちぎれるほど笑い、その後実家でバーベキューをする際の父のテッパンネタになった。)
割り箸ももちろん歯で割るよー♪

お肉を食べる、とにかく食べる。
他の人のお皿に入れるなんてことはしない。
「肉は焼き過ぎたらアカン。かたなるから。」と一回は言う。
「少々生でもええねん。」と一回は言う。
そして実際半生で食べる。
でもお腹を壊したりはしない。

そしてお腹が一杯になると「ちょっと横になるわー。」と言い、数秒でいびきが聞こえてくる。

みんなが食べ終わった頃に起きる父。
「ちょっと寝とったか?」と必ず、100%言う。
いやいや、一時間は寝てましたから。

本能の赴くまま。
バーベキューでの気遣いだったり、準備の大変さだったり、焼き加減だったり(焼き過ぎには厳しいが)そんな諸々に心を砕くことなく自由にやりたいように楽しんでいる。
楽しんでいるのかどうかも分からないほど、自然に、生活の営みの延長でやっているような雰囲気さえある父はやはり私が知っているなかで一番バーベキューが似合う男だと思う。


さて、夫だ。
先日我が家で始めてバーベキューをしたのだが、夫は父とはまるで違った。

まず居心地の良さを考える。
アウトドア用の椅子をいくつも座り比べ、あっちのほうが、いややっぱりあっちか、と買い物に時間をかける。

それから実用性。
テーブルの高さと広さはどうか。
お皿はタレが広がると嫌だから仕切りがあるタイプがいいだろう。
火の粉が飛ぶからコンロの下になにか敷きたい。
トングは炭用、生肉用、焼けたもの用3本。
などなど、考えて購入。
食材ももちろん適当に選んだりはしない。

いざ火を起こそうとなったころには薄暗くなっていた。
なかなかうまく火を起こすことができない。
乱暴にすると火の粉が飛び、「服に穴が開く」と眉間にしわを寄せながら奮闘する夫。
夫の両親と私と大人4人で力を合わせ、お肉にありつけたのは20時頃だった。

お肉が焼けたら私がみんなのお皿に順番に乗せていく。
実家のような早い者勝ち(父の独り勝ち)のバーベキューではない。
夫はこども達に寒くない?と聞いたり、座り心地の良い椅子を両親にすすめたり、私にも「食べてる?」と声をかけてくれる。

夫は食べ終わってからも、そのあと寝たりしない。
一番最後まで片付けをしてくれ、「楽しかったな。」と言い、そして反省点を上げ次に生かそうとしていた。

父と夫は正反対だ。

思えば父にはないものを夫はたくさん持っているような気がして、だから私は夫に惹かれたのだった。

私の根っこにあるのは実家のバーベキューだ。
でも、これから夫と経験を積み、もっと要領よく、我が家流のバーベキューを1から作っていきたいと思っている。



このnoteを書いたら久々に父のあれが見たくなったな。

だから夏には実家でバーベキューをしよう。

袋詰めのお肉を持って行くよ。

歯でひとおもいに、よろしくお父さん。





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