見出し画像

劇場映画の公開からホームエンタリリースまで、適切なのはいったい何日?

アメリカが誇る映画産業が、新型コロナウィルスの影響で大打撃を受けています。ディズニー作品や007など、イースターを目指してこの春公開予定だった作品が、のきなみ秋以降にリスケジュールされ、夏の大作まで、既に何本か年末への変更が発表されております。個人的に楽しみにしていたトップガンの新作も、既に年末になることが発表されてしまいました。しかも、現在映画館は日本以上に厳しく閉鎖されてしまっております。ここで、業界的に気になるのが、「ウィンドウはいったいどうなるのか?という事。

ウィンドウ/Window:主に劇場映画作品に使用される言葉。メディア(劇場映画、ホームエンターテイメント、有料放送(PayTV)、SVOD、等)別のリリース日によって、「ウィンドウが〇日間」「ウィンドウが早い・長い」のように使用される言葉です。例えば、劇場公開日1月1日、ホームエンターテイメントリリース4月1日、PayTVリリース10月1日であれば、「ホームエンタのリリースウィンドウは、劇場から3か月。PayTVウィンドウは、劇場から10か月、ホームエンタから6か月」のように使います。ハリウッドスタジオでは、これはスタジオごとに設定が異なります。

アメリカでも、劇場からホームエンターテイメント(最近だとDVD/Blu-Rayといったフィジカルよりも、主はデジタル)リリースまで、慣習的に4-5か月は空けていたのですが、この最悪の影響により、劇場公開を継続できないので、早くにデジタルで出してしまおうという動きが起きております。つまり、デジタルまでのウィンドウが短期間になっている動き(早期化)が顕著です。ディズニーやユニバーサルの大作も含み、早期のデジタルリリースがアマゾンなどのデジタルプラットフォームで始まっております。あくまでも理由は新型コロナウィルスの影響。その為の特例。しかし、ウィンドウを早くして、劇場でもデジタルでも沢山稼ぎたいスタジオ各社としては、この騒動に便乗して、早期ウィンドウ(Early Window)の既成事実を作りたいというのが本音ではないかと、私は思っております。アマゾンの場合、この動きに更に便乗して、こうした早期ウィンドウの作品を集めて「アマゾンプライム シネマ」という打ち出しプロモーションまでしております。1作品当たり48時間レンタルで$19。一瞬高い気がしますが、アメリカでは映画を複数で見る文化なので、2~3人分と考えると消して高くない。

そこに「待った!」を掛けた記事が発表されました。

Study Shows Shorter Theatrical Windows Reduce Home Video Revenue

簡単に言えば、「劇場公開を短くすれば、ホームエンターテイメントの稼ぎが少なくなるぜ!」というEarnest & Youngのリサーチ結果。しかも、このリサーチを要請したのは、全米の映画館のオーナーで構成されているNational Association of Theatre Owners (通称NATO)。

画像1

このリサーチが主張するのは、劇場公開からホームエンタリリースまでのウィンドウが1%長くなると、平均$56,000ホームエンターテイメント(つまりデジタルとフィジカル)の売り上げが増えるぞ!というもの。つまり、スタジオがデジタルリリースを早くしようとしているけど、それは自分で自分の首を絞めるものなんだよ!というもの。更にこのリサーチ結果が訴えるのは、ホームエンターテイメントの売り上げは、興行成績よりも、劇場公開期間に比例するというもの…本当かな?

NATOに所属するような興行主たちは、コロナの影響で閉館せざるを得ないから、今回のデジタルリリースの早期ウィンドウを渋々許可した。しかし、これが継続されるのは反対だ!という強い主張がありましょう。しかしながら、数年前から、ハリウッドスタジオは、ホームエンターテイメントの早期ウィンドウ化を虎視眈々と狙っていました。劇場ウィンドウは45日でデジタルリリースという戦略を打ち立てておりました。前提は、映画興行の稼ぎ時は、最初の45日間でしょ?その期間でほとんどの収入を稼いでしまうでしょ?というもの。そして、後続するデジタルウィンドウを①Premier②Early③Regularといった3段階くらいに分けて、高い価格を設定したいという狙いがあるのです。そのスタジオ戦略が大成功したのが韓国。数年前から韓国では、映画が劇場公開から30日くらいでデジタルリリースされております。そして、業界では「Super Premium」と呼ばれる高額のTVOD(都度課金レンタル:Transactional Video On Demand)が生み出すホームエンターテイメントの収入も大きい。最初にその動きを牽引したのが、色々厳しくて保守的なディズニー(確か最初は「アナと雪の女王」)だったというのも興味深いところです。

さて、日本はどうか?日本は昔からの興行主、東宝、東映、松竹が牛耳っておりますから、なかなか難しいとは思います。しかしながら、そのように映画興行だけが意地を張っている事が、本当に映画業界の為でしょうか。劇場公開だけではなく、ホームエンターテイメントなど後続する二次利用の収益が重要視されている現代です。そこには、技術やライフスタイルの変化も大きく影響します。映画業界が全体で一致団結しないと、日本人の映画に対する興味もリテラシーも、年々減っているような気がしてなりません。「好きな映画は何ですか?」というひと昔前に当たり前だった質問は、現在は死語に近くなっております。映画の感動に出逢った事がない人も多いのです。ゲームやYouTubeやアニメに取られる時間を取り戻さないと、日本人から映画文化が消えてしまいそうな気さえしております。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?