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デジタルレンタルが劇場公開を超えてしまった日 「トロールズ ミュージック★パワー」

先週のThe Wall Street Journal(WSJ)に、目を引くニュースが掲載されておりました。

"Trolls World Tour" Breaks Digital Records and Charts a New Path for Hollywood (「トロールズ ミュージック★パワー」がデジタルでの売り上げを記録、ハリウッドの新しい方式を作ってしまったわよ!)

日本では今のところ、今年10月に劇場公開が予定されている「トロールズ ミュージック★パワー」。DreamworksのCG音楽アニメーション映画「トロールズ(2016)」シリーズの第4弾。アメリカでは、4月10日に劇場公開予定でしたが、新型コロナウイルス影響による劇場閉鎖が理由で、早くから予定は変更され、映画劇場協会の猛反対がありつつも、デジタルでのレンタルリリースと決められていました。その何が今回記事になったのかというと、デジタルでのリリースから3週間、この続編は、稼いでしまったのです。2016年のオリジナルが公開5か月間で稼いだ金額よりも、この新作は、たった3週間のデジタルレンタルで、多くの利益をもたらしてしまったのです。

日本ではいまいちですが、アメリカでは大人気のトロールズシリーズですから、元々4月10日公開という事で、全米で十分なマーケティングが展開されておりました。その為、延期の選択は取らず、劇場からデジタルリリースへの大胆な変更がユニバーサルによって発表されていました。しかも、アマゾンやAppleTVなどで出されたレンタル価格は$19.99。…そりゃ、テレビの前で家族や友達と何度も見られるけれど、さすがに$19.99は48時間のレンタルとしては高いんじゃないの~?という声は、杞憂に終わり、リリースから3週間、なんと$100,000,000近くを稼ぎ出してしまった。つまり、この間、アメリカとカナダのデジタルプラットフォームで500万回レンタルされたということ。2016年のオリジナルが5か月間劇場で稼いだ額以上。

こんな結果が出てしまっては、コロナだから、劇場閉鎖だから…今だけね…とユニバーサルが言うはずがない。前にも書きましたが、ハリウッドスタジオのうまみは、「劇場から間もない」という価値で、新たな、高い値段のデジタルレンタル料金のウィンドウを作る事。今回の$19.99の成功は、市場が「大丈夫」とハリウッドスタジオに微笑んだようなもんです。今まで業界だけの用語であったプレミア・ビデオ・オンデマンド(PVOD)が一般にも浸透していくのでしょうか?

今年は例外です。閉鎖している劇場主の目の前でPVODでリリースすることが許諾された、アカデミーは劇場公開がなくても、今年のアカデミー賞のノミネート作品にしても良いと許諾した…。でも、コロナが終わったら全部元通り、劇場公開から最低2か月は映画館だけのウィンドウとさせていただきます、以上。…なんて、ことはスタジオはさせないでしょう。視聴者にはPVODを含めた選択肢を提供したいとするのがスタジオビジネスだし。劇場と重ねて稼ぐ道が出来たわけですから。しかも、今回の成功はユニバーサルだけの成功例ではなく、全スタジオにとってのPVOD歴史的快挙なのであります。

しかし、全米最大の劇場チェーンであるAMCは、スタジオがPVODウィンドウを追い求める限り、劇場公開を拒否してやると、はっきりWSJに答えています。

でも、記事に書かれている通り、一般的に、劇場公開でスタジオに戻る利益は50%、デジタルレンタルでは80%。どちらが美味しいのかは一目瞭然。もちろん、PVODで消費された事により、その後のDVDや通常のデジタルレンタル(TVOD)などへの影響も気にはなるものの、PVODはスタジオにとっては不可欠なウィンドウになることは確か。

AT&T傘下になったWarner Brosも、同じくファミリー映画「Scoob!(原題)」の劇場公開を断念し、デジタルリリースへ変更したことを発表しています。5月15日から、デジタルレンタル$19.99、デジタル購入(EST-無期限ダウンロード)は$24.99。ワーナーお得意のハイブリッドモデルです。同時期にワーナーはストリーミングサービス「HBOMax(月額$14.99)」を立ち上げますから、そこでもScoob!がストリーミングとしてリリースされる、という事も書かれています。

今回のコロナ騒動の中、ディズニーの場合は、劇場もデジタルレンタルも更に超え、「Disney+(月額$6.99)」内でリリースというスーパーウィンドウ戦略で動いています。劇場主からしたら、コロナで閉鎖中だから仕方ない…と、思った時には既に遅し、という状況でしょうか。

さて、コロナ終息後の世界(…早く来て欲しい)では、アメリカを中心に本格的に「劇場主vsスタジオ」のリリースウィンドウ合戦が勃発しそうです。75日間独占期間を担保しないと映画館では掛けてやらないよ!という興行主たちが勝つのか、今回先陣切ったユニバーサルのように、どこかのスタジオが、ドル箱大型作品で、劇場を無視して大胆にデジタル転換…なんて事があったら…。それに、監督や脚本家、俳優たちの組合は、どっち側に付くのか…?気になるところです。

市場が活性化するのはとても良いこと。ただ、一般市場のユーザーを、置いてけぼりにすることだけはなしよ、と私は心から願います。劇場公開中に一斉にPVODがリリースされるのは、ユーザーとしては選択肢が増えたわけであり、大歓迎だと思うのです。田舎に住んでいて、映画館から遠い地域のファンからしたら、嬉しくてたまらないでしょう。体が不自由な方、小さいお子さんがいる家庭でも、映画を見る楽しみが出来ることでしょう。ただ、それが、どこかのサービスで独占的に行われるようになったり、しかもその競争が激化して、この作品はアマゾンだけでレンタル、この作品はApple…のような状態は勘弁です。更には、今回のDisney+のようにPVODを飛び越えて、ストリーミングになってしまうのも、どうかと思う。ある作品は大金を払うNetflix独占作品になってしまったり、ある作品はスタジオ独自のHBOMaxやDisney+だけで配信されてしまうような状態は、カオスでしかありません。映画業界が、大事なユーザーを置いてけぼりにしてはいけないのです。

映画産業がまだまだ従来の会社で牛耳られている日本では、どう動くでしょうかね。アメリカでも、日本でも、映画産業が健全に拡大し、沢山の選択肢の中で、ユーザーに早く、確かに届くように、これを願ってやみません。

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