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新感覚をたどったら、シンプルな感動に 「イエスタデイ」


イエスタデイ」ユニバーサル・ピクチャーズ配給による、2019年のイギリス映画です。

主人公は音楽教師を退職してまで、ミュージシャンへと転向した青年。何をやっても、売れない、受けない。フェスへの参加が決まったにもかかわらず、観客は殆どいない。見切りをつけて辞めようと決意した夜、地球上から12秒だけ全ての光が失われた。その暗闇の中、猛突進してくるバス。彼は自転車ごと、ぶつかってしまう。昏睡状態から命を取り留め、前歯を失い、目覚めた場所…それはもちろん、何も変わりない日常、この一点を除いては…。

ビートルズのことを誰もしらない

普通なら、ふざけた設定のアメリカンコメディかと思うでしょう。僕も当初そう思いました。しかし、「スラムドッグ$ミリオネア」のダニー・ボイル監督と「ノッティングヒルの恋人」の脚本家リチャード・カーティスがタッグを組んで生まれた作品だと考えると、期待しますし、そして、その期待以上のファンタジーを届けてくれました。この映画のベースにあるのは、パラレルワールドのようなSFの設定のはず。それを描いたにも関わらず、最初から最後まで、とても古風でシンプルな表現に辿りついているのです。非常に新感覚でありました。

ネタバレしたくないので、ストーリーはここまで。とにかく、語りたいのは、海辺の小さな町のしがないミュージシャンと、歴史に名高いビートルズの名曲たち。このコントラストが、映画の中でダイナミックに、そしてドラマティックに描かれます。古い見慣れた田舎町の雰囲気に魅了されていると、そこに突然光り輝くウェンブリースタジアムのようなダイナマイトな存在をドカンと描いてしまうのが、ダニー・ボイル監督の天才的な映像美だと思うのです。この作品も例外ではありません。

主人公ですが、少しでもずる賢さや計算が芝居に見え隠れするような俳優であったら、成立しなかったかもしれません。ビートルズを彼らのように歌い上げることが出来る人であっても、成立しなかったかもしれません。主人公を演じたヒメーシュ・パテルは、これが映画初主演作とのこと。しかも、ピアノもギターも、劇中自分で演奏して歌っています。オーディションでは、もちろんビートルズを演奏する課題があったようですが、彼が選ばれた理由の一つが、演奏から感じた、程よいオリジナリティだそうです。彼の真っすぐな演技が、この作品を際立てているのは、疑いありません。

僕の好きなエド・シーランが本人役でガッツリ出ています。(意外にも、ちゃんと演技しています。)同じく本人役でカメオ出演している、ジェームス・コーデンのシーンは、腹を抱えて笑いたいのに、手に汗握りました。そして、船乗りとなって生きる「彼」との静かなシーンでは…今思いだしただけでも…少し熱い感情が残っています。

映画は、映像美であり、そして心に残される感情が、芸術であると思います。高揚し、感動する映像でした。そして、私にとってこの作品は、もしもこうだったらと、忘れていない時間を思い出しながら、存在に感謝し、未来への喜びを夢見ることが出来る素敵な作品となりました。

ちなみに僕の中のビートルズのベストソング…それは…「The Long And Winding Road」ですかね。

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