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Tomorrow Never Comes 亡き人へ捧げた詩

2001年、同時多発テロの後、ある詩が世界中に拡散されました。

「Tomorrow Never Comes」

大きな反響の中でこの詩が伝わると、「9.11の救助活動で亡くなった消防士が書き残した詩だ」と当時紹介されていたのを目にしました。しかし、詩を書いたのは、ノーマ・コーネット・マレック。彼女が亡き息子への悲しみを綴った詩です。

この一遍に出逢ってから、自分は「今日」という一日を意識するようになりました。約束されているのは、「今日」しかないということ。思う人に会えるのも、自分が動けるのも、あなたが大切だと伝えることも。もしかしたら今日が最後かもしれないということ。いや、そんな弱い音ではない。「今日」しかないということ。

この詩の中では「生きる」という事が「死ぬ」ことのアンチテーゼで存在するようには見えません。むしろ表裏一体な気がしています。自分の中でも、生きる先に死があり、その考え方は経年と共に変わってきたような気がします。「棺の杭が打たれる音を聞きながら何を思うのか?その時、いい人生だったと思いたい。」と考えていた年頃から、「これからの人生で今日が一番若い」と考えるようになった今日この頃まで。

この詩を、佐川睦さんが日本語で翻訳し、「最後だとわかっていたなら」というタイトルで発表しています。もちろん、この詩の翻訳文がメインですが、私は、この本を佐川さんのあとがきの為に買ったような気がします。亡きお姉さまの事を書かれているのですが、現実とは残酷で、とてもリアルで、そして心を打たれる文章でした。

私は、今まで2度、英文の詩を翻訳したことがあります。ひとつは、ピアニストの友人から頼まれたQueenの「We Will Rock You」。残念ながら自分は聞けませんでしたが、そこにいた沢山の人から、彼がピアノの演奏前に舞台で「叫びながら読んだ」という事を聞いて、とても嬉しく思っています。そして、二つ目がこの詩。今から数年前に亡くなった私の大切な友人に、弔辞の意で、この「Tomorrow Never Comes」を翻訳して送りました。彼が亡くなるその少し前に会っていて、大事な話をしたから、色々な考えが交差しました。結局、何もできなかったのかもしれない。でも、その時、もっとこうしていたら、と後悔がないわけではないのです。佐川さんの翻訳は、作者の心に寄り添った和訳です。自分は、この詩を借りて、言葉の向こうに自分の気持ちをまとめたような気もしています。

-Tomorrow Never Comes-
by NORMA CORNETT MAREK  翻訳:ある日の自分

眠る姿を見るのが、
これで最後だとわかっていたら
もっとちゃんと、シーツをかけてあげることが出来たのに。
神様、この人を守ってくださいと、思うことも出来たのに。

歩きだすあなたを見るのが、
これで最後だとわかっていたら。
あなたに触れて、
そしてまた名前を呼んで、
もう一度だけ、あなたの名前を呼ぶことが出来たのに。

あなたの笑う声を聞くのが、
これで最後だとわかっていたら、
ちゃんとその姿を写して、
何度も何度も、これから見ることが出来たのに。

これが最後なんだとわかっていたら、
少しでも時間をつくることが出来たはずなのに。

立ち止まって、
「きみが大切だ」と
伝えることが出来たはずなのに。

そんなこと、お前は分かっているだろうなんて、
きっと、分かってくれているだろうなんて、
勝手に思うだけじゃなくて。

これが最後なんだとわかっていたなら、
一緒にいないはずがなかった。

また会えるなんて思っていたから、
僕は、そのまま二度と会えなくなった。

たしかに、明日は当たり前のように来る。
それは、今日落とした何かを拾うためだったりする。
だから、必ずもう一度チャンスはあるもんだ。
だから、ちゃんと自分で受け留めたりすることもできる。

たしかに、また別の日が当たり前のように来る。
誰かが大切だと伝えるために。
必ずもう一度チャンスはあるもんだ。
だから、「君の為に何が出来るか?」なんて、軽く聞けたりする。

でも、もし、
もし、自分が間違っていて、
もし、今日が、
きみに逢える最後の日だったりなんかしたら。

どれだけ大切かを伝えるはずだ。
そして、それを忘れないようにしているはずだ。

そもそも、明日は、誰にでも約束されてなんかいなくて。
それは、若くても、年を重ねていても。

今日は、約束されている最後の時間で。
近くにいる大切な人に、
触れることができる、約束されている最後の時間であって。

そう思うと、明日を待ったりなんかしないで。
今でいいんだと思う。
今しか、なかったんだろうと思う。

もし、明日が来なかったら、
何も出来なかった自分を、こうやって後悔するだろう。

もう少し、時間を作ればよかった。
一緒に笑ったり、肩をたたいたり、顔を見ていたり。

忙しいから、他のことに気をやられて、
彼が望む最後の願いを、
何故、できなかったのか、と。

こうやって後悔してしまうと思う。

だから、今日、大切な人たちを、思う。
そして、言葉で伝えていたい。
どれだけ、大切に思っているかを。
どれだけ、あなたのそばにいたいかを。

言葉を伝えていたい。
「ごめん」「ゆるして欲しい」とか。
「感謝してる」

それに、「大丈夫だよ」とか。

そしたら、
もし明日が来なかったとしても、
もし、きみに逢えなくなったとしても、

今日を後悔はしないんだ。

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