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古典みたいな顔して古典が好き

厚い本を読んだから偉いとか、そういう風には全く思わないのだけど、ひとつだけ読書に関して誇りたいことがあります。高校生のときに、源氏物語の全54帖を全て読んだことです。

私は昔からこけしみたいな顔をしてるんですが、そんなやつが黒髪パッツン前髪越しに細目をカッと見開いて源氏物語を読んでいて、からかわずにいてくれた同級生はなんてモラルが高かったんだろう。

セブンティーンも読んだら?と当時の自分に思いますが、とにかく古典が面白くて、頭の容量をぜんぶ古典につぎ込んでしまっていたんです。

幸い周りの子は優しくて、「ほなみは自分の世界を持ってていいね」って言ってくれました。人間できてるなぁ。自分の世界を持つのも大事だけど、人の世界を認めて褒めることができるって素敵よね。

私がずっと本を好きでいられるのは、本の話を優しく聞いてくれる周りの人のおかげだと書いていて思いました。源氏物語の話を笑顔で聞いてくれた高校の同級生のみんな、本当にありがとう。笑 おかげさまで一生ものの趣味になりそうです。

さて、本題はタイトルの通りです。お風呂読書をする私が、追いだきボタンを押すほど夢中になった本を紹介します。紹介といっても、おすすめしたり要約したりはできません。つらつら感想を書きます。順番は思い出した順。今回は16冊目〜20冊目です。

1冊目から読んでくださる方はこちら

16 『源氏物語』 紫式部

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与謝野晶子の訳で読みました。国語の資料集についていた関係者図を見ながらページをめくってたな。今この文章を書きながら、noteのタイトルを「おすすめ古典」とかにしなくて良かったなと心から思っています。この本は、人におすすめしにくいけど大好きだから。

主人公はもちろん光源氏です。光の源。強い光の周りには必ず濃い影ができる。

どの時代にも、光源氏のような、全てに恵まれた人間はいる。その近くにいる普通の人たちは、才能や美貌の恩恵を受ける一方、嫉妬や注目に苦しめられるわけで。強い光を浴びながら、足元の真っ黒な影を受け入れる人生は幸せなのか? 光も影もうすぼんやりとしている人生の方が幸せなのか?

私の意見は高校生の時も今も変わらず。強い光を放つ人は避けたくなってしまいます。

17 『どどいつ万葉集』 中道 風迅洞

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三千世界の鴉(カラス)を殺し主と朝寝がしてみたい

朝が来てカラスが鳴いたら帰らなければならない。ならば全世界のカラスを殺してお前と朝寝がしてみたい。

高杉晋作が詠んだとされる都々逸(どどいつ)です。江戸の人たちってすごい。ドロドロした不満や嫉妬を、こんなに綺麗な音にまとめて昇華していたなんて。心に浮かんでくる感情に蓋をするのではなく、心地よい言葉に仕上げてしまう。自分の気持ちを肯定して生きていたんだろうな。

好きな都々逸を2つだけ載せます。

顔見りゃ苦労を忘れるような 人がありゃこそ苦労する
笑うてかなしい座敷をぬけて 泣いてうれしい主のそば

18 『みだれ髪』 与謝野晶子

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源氏物語の現代語訳をした与謝野晶子の歌集です。(古典じゃないけど、古典縛りとは言ってないからいいや)。与謝野晶子の歌ってすごく情熱的なんです。

男性だらけの文壇に、「男性並に出来る女性」としてではなく、自分の女性性を全肯定して挑んだ人。私もそういう風に生きたいな。

魔に向かふつるぎの束をにぎるには細き五つの御指と吸いぬ

自分の愛する男性が、汚い世の中で戦っていくことに思いを馳せ、細く綺麗な指にキスをしたという歌。

男は社会で戦い、女はそれを支えるべきという価値観の時代に「彼が闘うことを応援なんてしたくない。だって大事だもん。」を貫き通した。有名な『君死にたまふことなかれ』も同じですね。この人世間から大バッシング受けても「女子はみんなこう思ってますから!」ってこの立場突き通してるからかっこいい。

19 『智恵子抄』 高村光太郎

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せっかく古めの本できたので、あと2冊も明治あたりにしようかな。「僕の前に道はない僕の後ろに道はできる」の『道程』で有名な高村光太郎です。妻の智恵子に捧げた詩集。

をんなが附属品をだんだん棄てると
どうしてこんなにきれいになるのか
年で洗はれたあなたのからだは
無辺際を飛ぶ天の金属。

読んだとき、長年一緒にいる相手をここまで崇拝できるのって異常だと思った。素敵なご夫婦だなと思うのは簡単だけど、なんだか意地のようなものを感じる。

高村光太郎が見ているのは、本当の智恵子なのかなぁ。一人の女性にどこまで純粋な感情を抱けるか、詩人として挑戦してるみたい。これを読んで智恵子はどう思ったんだろう。

きれいな愛の詩の中に、無視できない掛け違いのようなものを感じてしまう。10年後、20年後と何度も読んだらいつかこの本の正体がわかりそう。いつか結婚して、楽しいこと辛いことを味わった後に、この本をまだ手元に持っていますように。

20 『月に吠える』 萩原朔太郎

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萩原朔太郎の詩は歌なんです。声に出して読むのが正しいのでしょうが、目で追っても響きの良さが伝わってくる。

それでいてテーマがいつも孤独、憂鬱、悲観。

さうして遠い海草の焚(や)けてる空から 爛れるやうな接吻(キス)を投げよう
ああ このかなしい情熱の外(ほか) どんな言葉も知りはしない。

負の感情って、みんな心の奥底に抱えているものだと思います。特に、自分自身や自分の人生に向けた負の感情は。

萩原朔太郎の詩は、美しくクセになる旋律で、心の奥にスーッと入ってきます。だけどそれを暴き立てたり、煽ったりするのではなく、またスーッと出ていく。

人が悲しい気持ちになっているとき、なにも言わずそばにいてくれるタイプだっただろうな。

求められてないことをやって良いという癒し

本について書き始めて感じていることがあります。それは、「求められていないことをやって良いという癒し」ってあるよなってことです。

記事を書こう!となると、どこに載せるのか、ニーズはあるのか、収益化はできるのか。自然とそう考えるようになっていました。いやだねえ。

求められているものを提供するって素晴らしいことなのですが、そうすると『どどいつ万葉集』や『月に吠える』について書けないんです。

誰も求めていないかもしれないけど私が大好きなものについて書く場所としてnoteを選んだのですが、楽しいどころか癒しになっています。

やっぱり古典って良いなぁ。短歌も詩も都々逸も良い。

今日も好き勝手書きました。ここまで読んでくださった方が、首を傾げていないと良いな。

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