20190812_03_キリン

進化と多様性:生き物の群れに、変り者がいる理由

ねえねえ、どうしてキリンは首が長いの?

と、子どもに聞からたら、なんて答える?

首が長いと、木の高い所の葉っぱを食べられて、便利でしょう?

とか、

首が長いと、遠くまで見えて、ライオンが来るのに早く気づけるでしょう?

という感じかな?

こういう答え方も、間違いじゃないと思う。

でもこれだけだと、生き物がどういうふうに進化していくかを、ちょっと伝えきれてないかなぁ、と思う。

そこで、進化ってこんな感じ、っていうのをちょっと詳しめに書いてみると・・・

生き物が進化していくプロセス

キリンの祖先にあたる動物は、今のキリンほどには首が長くなかった。

でもこの動物の群れには、平均よりやや首が長い個体もいたし、やや首の短い個体もいた。

やや首が長いと、他の個体より少し高い所の葉っぱを食べられる。すると他の個体より、少したくさんの葉っぱを食べられたかもしれない。

するとやや首の長い個体は、他の個体より少し体力がついて、他の個体より少し病気になりにくかったかもしれない。ライオンに追いかけられた時、他の個体より少し長く走れて、逃げ切れる確率が少し高かったかもしれない。

また、やや首の長い個体は、他の個体より少し遠くが見えるから、ライオンに気づくのが他の個体より少し早かったかもしれない。このことも、逃げ切れる確率が他の個体より高くなることにつながるはずだ。

つまり、首が少し長いと、生き残れる確率が他の個体より少し高くなる。すると子どもを残せる確率も少し高くなる。

平均より少し首が長い個体の子どもは、やはり少し首が長い傾向にあるだろう。

すると、世代を重ねていくと、群れの中に少し首が長い個体が、少しずつ増えていく。

でも、ここまでだと、以前より少し首が長い個体が、群れの中で増えましたとさ、で、お話は終わってしまう。

引き続き、首が長くなっていく理由は、たぶんふたつある。

ひとつは、少し首が長い個体が群れの中で増えると、少し首が長いオスと少し首が長いメスがカップルになる確率が高くなる。少し首が長いオスと少し首が長いメスの子どもは、両親よりさらにもう少しだけ首が長くなる傾向がある。

もうひとつは、少し首が長い個体が群れの中で増えると、みんなが以前より少し高い所の葉っぱを食べられるようになる。すると、少し首が長くても、群れの中で他の個体より生き残りやすいということはなくなる。みんな平等になっていく。そこに、さらにもう少しだけ首が長い個体が現れると、みんなよりさらにもう少しだけ高い所の葉っぱを食べられる。するとみんなより少しだけ多めに葉っぱを食べられる。

以下同文で、このさらにもう少し首が長い個体が、群れの中で増えていく。

これを何世代も何世代も、気が遠くなるほど繰り返していくと、首が少しずつ伸びていく、っていうわけ。

進化について伝えたいこと

どうだろう?けっこう長いな!って思うかな?

なるべく短く、おおまかに書いたつもりなんだけど、それでもかなり長くなった。

でも、説明が長くなるのには、わけがある。

キリンの首が長くなったことを、ひとことで、

「高い所の葉っぱを食べられて、有利だから。」

とか、

「ライオンを早く発見できて、有利だから。」

とだけ説明すると、どんな印象を受ける?

キリンが自分の意思で、「もっと高い所の葉っぱを食べたい。もっと首が長くなりたい。」と思って、それで首が長くなった、とか、

首があまり長くなかったキリンの祖先を誰かが見て、「もっと首が長い方がいいんじゃない?」と思って、首が長くなるようにデザインし直したのかな?っていう印象を受けない?

そういう印象を受けかねないと思う。

でも、上で書いた、進化のプロセスをもう一度読んでみてほしい。

どこにも、キリンの気持ちは出てこない。

どこにも、キリンをデザインした誰か、は出てこない。

キリンの進化のプロセスは、キリンの気持ちや、デザイナーの存在を前提としなくても、ごく自然に、当然の結果として説明できる。

別の言い方をすると、生物学は、生物の意思や、生物をデザインした者の存在なしに、生物の進化を説明できる。

これが僕が伝えたいこと。

キリンの首が長いことについての短すぎる説明は、このイメージを伝えきれていない。

だからたまには、進化についてちょっと長めに話してみるのもいいかな、と思う。

多様性はなぜ大切なのか?

あ、ここで書きたい「多様性」っていうのは、よく言われる「生物多様性(いろんな種類の生き物がいるのが大切だよ、というお話)」のことじゃなくて、ひとつの生物種の中での多様性のことね。つまりキリンなら、キリンの群れの中での多様性のこと。

進化のお話は、群れの中にちょっと首が長めの個体や、短めの個体もいる、っていうところから始まる。首の長さに多様性があるからこそ、進化は起きるんだ。

もし、キリンの首の長さがみんなまったく同じだったら・・・

「首がちょっと長いと、他のキリンよりちょっと有利」

ということに、そもそもならない。進化が始まらない。

それに、例えば首が短かったキリンの祖先の群れの近くに、それと同じぐらいの首の長さの草食動物(シマウマとか)が住み着いて、みんなが食べられる高さの葉っぱが急に減ったりしたら、どうだろう?ちょっと首の長い個体もいないと、葉っぱを十分に食べられない個体ばかりになってしまって、キリンの祖先の群れは全滅してしまうリスクもある。

もしくは、キリンの祖先の群れの近くに、ライオンより足の速い肉食動物(チーターとか)がやってきたら、どうだろう?ちょっと首が長めで、他よりちょっと早めにチーターに気付ける個体もいないと、やはりキリンの祖先の群れはピンチだ。

つまり、どんな生き物にとっても、生活環境は変化することがある。

キリンの祖先にあたる動物が生きていた頃の環境では、あまり長くない首、というのが実は最適だったのかもしれない。ちょっと長めの首の個体は、「なんかへんなやつ」という目で見られていたのかも知れない。でもそこに、競合する他の草食動物や、新たな捕食者が現れたら・・・

とたんに、首が長めの、変り者あつかいだった個体が救世主になるかもしれないのだ!

だから、多様性っていうのは、生き物にとってものすごく大切なんだ。

ちょっと短めにまとめてみよう。

ある環境の中に、ある生き物の群れがいて、群れの中の7~8割ぐらいはその環境に最適な体つきや性質をもっているかもしれない。でも、残りの2~3割は、その環境では必ずしも最適でない、ちょっと効率の悪い、ちょっと変な体つきや性質をもっている。でも環境が変わると、最適だった体つきや性質が最適でなくなる。その代わり、変り者たちの中のどれかの性質が、新しい環境ではいい感じに役に立つようになるかもしれない。すると、その性質をもった個体が、世代を重ねると群れの中で増えていく。こうして群れ全体の性質が、新しい環境に合わせて調整されていく。

環境の変化と、多様性。これらは進化の両輪だ。どちらが欠けても、進化は起きない。変り者たちがいることは、生き物の群れにとっては、まさに命綱なんだ。


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