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便器の館(2005年07月03日)

2005年07月03日 記

「世界のタイル博物館」という所に行ってきた。愛知県常滑市。常滑と言えばオープンしたばかりの中部国際空港が人気を集めているわけであるが、人ごみに酔うのは目に見えている(同じ理由で愛知万博も行きたいと思えない)。なので、あえてそこはスルーして、常滑焼き物街道(だったかな?)へ足を運んだ。駅から5分ほど歩くと、焼き物会館というのがあって、そこを起点に、昔ながらの焼き物の街並みを散策する。陶器の販売店や窯跡など。あと、陶芸教室なんかも開かれている。

 だが案の定、ほとんど人の姿はない。いちおう常滑のメインの観光スポットであるはずなのに、うら寂れた雰囲気。時折降る雨がまたなんともわびしい。しかもかなりの坂道。自然と足取りも重くなり、口を開くのも億劫。気がつけば、はるか彼方に海上に浮かぶ空港の姿が見える。「えっ!?こんな高さまで登ったの?」と一瞬、あぜん。セントレアは24時間空港なので、飛行機の離着陸が絶えない。そのたびに「んごごごごご」と遠雷のような音が空に響きわたる。住んでる方々の心労を思うとますますドヨンとした気分になってくる。

 こう書くと最悪の観光地のように思えるかもしれないが、個人的には好きである(なんだそりゃ)。廃墟とか見るとウキウキしてくる性質なので。使われなくなった焼き物工場の煙突がにょきにょきと佇んでいる様を見ているだけで心が和む。廃墟と言うとかなり危険で怪しいものであるが、常滑は明るい。家族連れOKの廃墟である。こういう言い方は、現地の人には失礼だと思うけれど。すいません。でも実際に廃屋も多いし、そうした廃屋を一部改装してお店を出している人もいる。当時の豪商の広大な家の2階の一室だけお店、という変なところもあった。店舗部分以外はまったく手つかず。破れた障子とか戸板とかがそのまま放置されている。そこだけまったくの異世界。焼き物街道を象徴するかのような店であった。

 そしてその異世界をくぐり抜けた果てに「世界のタイル博物館」がある。INAX出資の文化施設である。ここは文句なく美しい。いい博物館である。ただしここにたどり着くまでがかなり遠いので、これから訪れる方は心するように。その横には「窯のある広場・資料館」というのも併設されていて、タイル博物館のチケットがあれば無料で入ることができる。タダならいいやと軽い気持ちで入ってみて驚いた。ここは古便器の博物館なのである。ここでようやくINAXの本業を思い出した次第。将軍様の便器とか鎮座していて、それはそれでたいへん興味深かったけど……。まさに「ウンのつき」という感じの異世界への旅であった。また行こっと!

2024年03月21日 付記

 このとき以来、常滑散策はわが家の小旅行の定番となった。セントレアはあいかわらず人が多いけれど、それなりに観光施設として楽しめる。やきもの街道(だったか?)のほうも、観光地としての賑わいを取り戻している感がある。最近はお洒落なカフェなんかもオープンしているらしい。インスタ映えするとかなんとか。ただINAXの博物館はすっかりご無沙汰してしまっている。古き良き便器に再会したい。

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