きまぐれ日本文学(井口富美子)その3 翻訳と創作を往来して - 夭折の詩人、左川ちか
日本は長く中国の影響を受けつつ独自の文学を創出してきましたが、明治になると黒船欧米文学の翻訳を通じてさらに新たな道が開かれました。詩歌では森鴎外らの『於母影』、上田敏の『海潮音』、堀口大学の『月下の一群』という訳詩集の系譜があり、それらは新体詩から象徴詩を経て現代詩へと続く道しるべとなってきました。
1920年代から欧米で始まったモダニズム文学は、日本においては小説よりも詩の分野で大輪の花を咲かせました。当時とりわけ光り輝いていたモダニズム詩人左川ちかは、女性であったこと、早