見出し画像

認識するもの

友人に借りて読んだが、あまりによい本なんで改めて買ってしまったのは、川内有緒『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』

著者の川内さんは、友人に誘われ全盲の白鳥建二さんと美術館に行くことになります。白鳥さんは目が見えませんから、共に来た2人が美術作品の説明していきます。白鳥さんは「耳」で見ることをしているのです。
一つの絵画を説明するとしても、二人の認識は異なります。
二人の説明の違いを白鳥さんは楽しんでいます。同じ絵を見ても人それぞれで受け取り方が異なることが明確に示されています。

仏教では、「人人唯識」という表現があります。同じ絵やものを見ても一人ひとりの認識は異なると言います。それは、見る方の今までの人生や欲望に基づいてみてしまうからだと言います。

美術品や絵画の鑑賞でなら、認識の相違も面白がれるかもしれません。
しかし、夫婦での意思疎通やビジネスでの取引相手との認識の相違は、重大な禍根を残すことにつながりかねません。そこではできうる限り、自分の視点だけで見ないこと、冷静に感情に流されないようにすることが必要なのでしょう。

さらに、本書では全盲の方に説明するために、詳細に物をみることになることも述べています。それによって通常見落としていたものに気が付くことがあると言います。白鳥さんという他者への説明のために、美術作品に集中してみることができることもわかります。

他者のために一生懸命みることが、結果として自分のためになっているとも言えましょう。大乗仏教では「利他」を説きます。利他というと自分の成長がないと思いがちです。
今回の全盲の方と共に美術館に行くのは、人によってはボランティア活動だと言うかもしれません。作者自身は「善いことをしよう」という意思はないと思います。その経験を楽しむことにより、良い結果を得られたとも言えます。

ボランティア活動は無償だと思いがちです。かつて病院で車いすを曳いたり、震災で土砂がきなどをしたことがありますが、そこから見える風景は、視点を変える財産になっています。

経験は視界を広げ、人生を豊かにする。そんなことを改めて感じさせる一冊です。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?