小さな親切

朝の散歩と体操を
寝坊してできず、
午後に二駅先まで
歩くことにした。

しばらく行くと
老婆が近づいて、
「交番はどこに?」
そう聞くのである。

近くにはないので、
どう言うか迷っていたら、
お婆さんは自分の
訪ねたい住所を言う。

携帯で確かめると
お婆さんが来た方向と
真逆の場所である。
教えてわかる所ではない。

「連れて行って上げます。
一緒に行きましょう」
母のようなお婆さんを
連れて歩き出した。

歩き出すと遅れだす。
「ゆっくり歩きますね」
お婆さんが話し出す。
「義理の姉なんです」

「死んだ兄の奥さん。
足が悪くて動けないらしく、
それでバスに乗って
ここまでやってきました」

携帯の地図を見ながら、
二人でゆっくり歩き、
道沿いのマンションを
この辺かなと探す。

マンションの前に
管理人らしき男。
「ここは○○ですか?」
「そうですよ」

「このお婆さんが家を
探して迷ってたんです。
よかったです。
ここですってよ」

お婆さんが義理の妹の
名字を男に告げる。
「○○なんですが?」
「その人なら2階です」

「よかったですね」
お婆さんがにっこり微笑む。
「ありがとうございました」
ここまで来ればもう大丈夫。
ボクは再び歩き出した。
清々しい気持ちだった。