「私は、マリア・カラス」

「マリアの私とカラスの私がいる」
マリア・カラスのインタビューで
美しい彼女が流し目で言う。
超越した人生を生きた女性だけが持つ、
氷のような孤高の輝きを放っている。

マリア・カラスには二人の私がいる。
一人はオペラ歌手のカラスであり、
もう一人は私生活のマリアである。
通俗な人物に血肉を通わせた
20世紀最高のソプラノ歌手の真髄。

「私に喜劇をやらせるの?
悲劇を演じ歌うのがマリア・カラスよ」
恋に苦しみ自らの命を絶つヒロイン。
恋によって刃を受けてしまうヒロイン。
あまりにも心が痛い悲劇のディーヴァ。

最初の夫に鐘の成る木にさせられ、
ギリシャの大富豪オナシスとの純愛も
ケネディ未亡人ジャクリーンによって
あえなく裏切られ恋は破れてしまう。
演じた悲劇が私生活でも悲劇となる運命。

悲劇のヒロイン、マリア・カラス。
53歳という若さで心臓発作で死ぬが、
ピアニストに毒殺されたともいわれる。
難曲「ノルマ」で声を酷使したこともあり、
美声を失ったカナリアにもなった彼女は、
天国に召されてようやく安堵したのだろうか。