かぶと虫のブローチ
早朝に公園をぐるぐると
ウオーキングしていたら
道端にかぶと虫がいた。
角のない雌のかぶと虫。
誰かに踏まれたら大変と
つまんで拾い上げたが
そのままとも行かず、
ティシャツの胸につけた。
生きている本物の
かぶと虫のブローチである。
歩いても離れることがない。
ところがしばらくすると
もぞもぞと動き出した。
それも這い上がってくる。
とうとう首までやってきた。
ちょっとくすぐった痛い。
首から左胸に戻すのだけど
また這い上がってくる。
今度は首の後ろを回って
右肩の上に乗ってしまった。
後ろを歩いていた夫婦の
ご主人がそれに気付いた。
「あれ、かぶとじゃない?」
僕は嬉しくて仕方なかった。
「ふふふ、本物です」
後ろを振り返って言いたいのを
グッと我慢してそのまま歩いた。
ラジオ体操の広場にやってきた。
さすがに体操して落としてはと、
かぶと虫を目の前の太い木の
幹にきちんとつけてあげた。
茶褐色の甲羅が輝いていた。
しばらくすると木を登っていく。
休まずにどんどん上がっていく。
体操が終わったときには
とても手の届かない高見にいて
下からかぶと虫を見上げた。
「凄いな、生きているな」と
その生命力が誇り高く思えた。
生きている本物のブローチは
生きる力を与えてくれた気がした。