秘すれば花なり

「秘すれば花なり」、

世阿弥はその自著

『風姿花伝』の中で

そう述べている。

「秘すれば花なり、

秘せずば花なるべからず」


自分が長年にわたり

研鑽して突き詰めた

物事は秘しておくこと。

そのすべてを容易に

顕してはいけない。

顕せば花も褪せる。


自分が会得したものは

この世に披露したい。

知らしめたいと思うもの。

しかしそれを行えば

すぐに真似をされ、

価値が下がってしまうのだ。


素晴らしいものでも

真意をわからぬ者からは

高い評価を得られず

貶められ卑しめられる。

秘していれば美しい花も

枯れ果ててしまうのである。


能や芝居、謡いだけでなく、

落語や講談などの芸事、

オペラやバレエ、歌、

ピアノやヴァイオリンなど

楽器の演奏もすべて

秘しておくに限るのである。


絵画や彫刻などの芸術、

野球やゴルフなどの

スポーツ技術も同様である。

簡単に披露してはならぬ。

直弟子だけに教える、

秘匿するものなのである。


秘すれば秘するほど

その芸術の価値は高まり、

スポーツの技術は

輝きを増してくる。

極めれば極めるほど

大輪の花となるのだ。