佐伯祐三のアトリエ

妻子を連れてフランスに渡った
佐伯祐三はパリの街と人を描いた。
「レ・ジュ・ド・ノエル」
「広告のある門」「靴屋」
「ノートルダム」「煉瓦焼き場」
「郵便配達夫」「ロシヤの少女」など
数々の忘れられない名作を残した。

最初のフランス渡航前に
新宿区中落合にアトリエを構えた。
一時帰国した際には
そこを拠点に落合の風景を描く。
「下落合風景」の「看板のある道」
「テニスコート」などには
当時の東京郊外が映し出されている。

天気も良いものだから
江古田の家から目白通りを歩いて
佐伯祐三のアトリエを見に行った。
水灰色の木壁の教会のような
とんがり屋根の洋館だった。
内部に入ると北側の窓と天窓、
描く絵に光が均等に当たる部屋だ。

がらんとしていて佐伯がここで
絵を描いていた息づかいは皆無。
横の小部屋は佐伯と娘の死後、
一人で戻った米子未亡人が
絵を描くのに使ったようで、
そこには人のいる気配がした。

良かったのは隣接の佐伯公園。
小さいながらも日当たりが良く、
緑溢れる中にベンチが2つある。
ここに腰掛けてぼんやりと
佐伯に思いを巡らすのも悪くない。
持病の結核が悪化し僅か30歳で
この世を去った佐伯の画家魂を。