Tの23回忌

振り返ったときの
表情が忘れられない。
Tがマンションから
飛び降りてから
早や23年が経った。

やさしさに溢れた
仕事仲間の一人だった。
亡くなる少し前、
仲間たちと会っていた。
気配は微塵もなかった。

いや、別れ際に
何か言いかけた気もする。
あのときにしっかりと
気付いて聞けば良かった。
後悔はずっと残っている。

新潟の山の中に
彼の入ったお墓がある。
ぬかるむ山道を歩き、
草の中に立つ墓石。
線香と仏花を供える。

仲間の和尚が経を唱える。
手を合わせて黙祷。
仲の良かった奥さんと
僕らを残して旅立った。
その訳は未だわからない。