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人間不信はトラウマのサバイバーには適応的なもの 自分を責める必要はない

大変勉強になる「サバイバーとセラピストのためのトラウマ変容ワークブック」。この個所を読んだとき本当に気が楽になりました。他人に心を開けないと悩む方はぜひご覧ください。


トラウマがもたらす多くの弊害の一つに、人間に対する信頼の喪失があります。脆弱性への恐怖、依存してしまうことへの恐怖、自己開示への恐怖、悲しみや怒りといった感情に対する回避も、よくある症状です。これらの恐怖や回避は子どもが、世話をしてくれる人さえも信用できなず、泣いたり怒ったりすると罰せられ、感情的な欲求が悪用され、依存することが危険な世界では、適応的なものです。

「サバイバーとセラピストのためのトラウマ変容ワークブック」p2


子どもの頃、悲しみや怒りといった感情を表すと母親が反射的に抑えつけました。たぶん母親自身のトラウマのために我が子つまり私の感情を受け入れる余地がなかったのだと思います。そこに最初の子であるがゆえの子育ての不慣れ、夫は企業戦士で家庭に不在など悪い条件が重なり、幼い私の養育環境は非常に厳しいものでした。

幼子は逃げることができないので、その状況に合わせて自分を組み立てるしかありません。平和な世界とは全く違うルールが支配する世界では、人間不信こそが最適な方法、本の表現を借りるなら「適応的」です。人間を信頼したら最悪死んだかもしれません。「お母さんは子どもを一生懸命世話しているのに?」非常に脆弱な乳幼児と大人である母親の圧倒的な力関係を考えてください。大人の匙加減一つで子どもは命の危機に瀕します。

命あっての物種です。大人になった今どんなに歪んで見えても、その時その場所で脆弱な幼子としては最適であり、その状態がいわば冷凍保存されていると知ると、自己開示できない自分に優しい目を向けることができるようになりました。そんな自分に掛ける言葉「無理にオープンにする必要はない。人は怖いよね」


セラピストは当然のことながら、クライアントと信頼関係を築くことを望んでいます。しかし、クライアントの身体が本能的に「危険、危険、この人を信じてはいけない、信頼してはいけない」と言っていて、クライアントが誰かを信じることの困難さを抱えているのを理解しているわけではありません。


クライアントが頭で考えて人間不信を選ぶわけではないことに注意していただきたいと思います。無意識かつ本能的な反応です。それぐらいでないと、乳幼児の頃に危険に満ちた環境で生き延びることはできませんから。

経験上、支援者の多くは、クライアントが誰かを信じることの困難さを理解していません。むしろ無邪気に相手(私)の好意的な反応を期待して近づいてきます。私にとってそれは非常に恐怖です。2018年頃、初対面で「私は大丈夫だからそんなに警戒しないで」とぐいぐい距離を詰めた人がいました。考えるより先に全身から警戒のオーラが放たれました。ビリビリした気にぎょっとしてその人は去りました。距離を詰められた不快感が強すぎたためか、自己嫌悪はあまりありませんでした。許可なく私の領域に侵入した者を撃退するのは正当防衛です。


トラウマに関する教育をすることがクライアントの助けになることを発見しました。私の人柄や私の意見を信じてほしい、というのではなく、事実を信頼するように求めてみたのです。ほとんどの人にとって、情報を信頼することは、私を個人として信頼することよりもずっと簡単でした。彼らは図を見ることで、自分がおかしいのではないと感じます。そして自分の行動や反応が正常なものであることを学び、安心するのです。

「サバイバーとセラピストのためのトラウマ変容ワークブック」p2


これは私にそっくりそのまま当てはまります。情報を信頼することは人を信頼することよりもずっと簡単です。特に本は非常に役立ちました。本にも間違いはありますが、誰かが思いつきで放つ言葉より、精査されて活字になった情報の方が信頼できます。また、本は受け入れがたいことを書いてあったときは閉じれば距離をおけます。目の前の人とすぐ距離をおくのは、難しいことです。

弱っているときに相談する相手と私とは力関係があります。自分が放つ言葉がクライアントに打撃を与える可能性に無自覚な人がほとんどです。友人や身内ほどその可能性が高いでしょう。近しい間柄だからとついつい余計なことを言う人が多く、その分打ち明けた人が打撃を受ける危険性が高いのです。私も無数に傷ついて、近しい人には深刻なことを話さないことにしました。「ちょっとよそよそしい変わった人」というレッテルを貼られても安全第一です。

役に立った本

トラウマは脳の機能その他を低下させるので、本が読めない状態の人がとても多いと思います。心身に様々な不調を抱えて治療費の支出を強いられて、本を購入するゆとりがない人が非常に多いようです。おそらく生まれ持った資質のお陰で、本を読んで理解する程度に頭脳が保たれました。写っている本は安くありませんが、この頃は実家に住んでいて可処分所得にゆとりがありました。親と同居する苦しみと引き換えでしたが。

「知識は力」私の好きな言葉です。知識が私の人生を支えました。たまたま条件に恵まれた方なので、知識を仕入れて発信することができます。主観が大いに入っていますが、この文章が誰かの救いになれば幸いです。

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普段はオンラインで数学を教える家庭教師です。お仕事ブログ
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